第5話:山賊

帝国暦1121年・神暦1021年・王国暦121年1月16日・ロディー視点

ロディー15歳


 トラースト公爵家の居城を出て歩いていると、御用商人のエルランが追いかけて来て声をかけてくれた。


「お待ちしておりました、ロディー様。

 ここからは私たちが御領地まで送らせていただきます」


 祖父である公爵には歩いて騎士領にまで行けと言われたが、馬鹿正直に守る気などなく、最初からエルランに送ってもらうつもりだった。

 砂糖を独占したいエルランは、俺から知識を盗もうとしているが、不要になれば殺されるのが分かっているから、盗ませる気はない。


「エルランの忠義に感謝する」


 互いに警戒しているが、それを表にだしたりはしない。

 決定的な時期になるまでは、利用し合った方がいいと互いに思っているからだ。

 エルランは俺に親切にするように見せかけて側から離れずに知識を盗もうとする。

 俺は何も知らない振りをして資金や労力を援助してもらう。


「今までロディー様から与えていただいた数多くの御恩に比べれば、この程度の事は微々たるものでございますので、遠慮せずに何なりとお申し付けください」


 そう言われても、明らかに借りになるような事は頼めない。

 騙し騙される関係であっても、最低限の道義はある。

 そうでなければ、それはもう商人ではなく盗賊だ。

 問題は、その道義が商人によって大きく違う事だ。


「そうか、では我が騎士領まで送ってもらいたい。

 それと貴君に預けていた軍馬と財貨も騎士領にたどり着くまでに届けてくれ」


 エルランにはネコババされてもいいくらいの財貨を預けてあった。

 とは言っても、騎士領どころか子爵領を新たに開発できるくらいの額だ。

 甘味のほとんどないこの世界で砂糖を作れると言うのは、使い方によったらそれくらい莫大な利があるのだが、密貿易が発覚すれば処刑される危険もある。


「承りました、ではゆっくりとロディー様も御領地まで行かせていただきます」


 ★★★★★★


 トラースト公爵領からトラースト男爵領まで馬車で10日かかった。

 その間にエルランに預けていた軍馬と財貨が届いた。

 公爵領に隠してある財貨と併せれば、この国の軍事予算に匹敵する。

 騎士領どころか侯爵領を新たに開拓するくらいできる額だ。


「これ以上は馬車で行く事ができません。

 村人に聞いた話では、ひんぱんに魔獣も現れる、とても危険な場所のようです。

 本当に行かれるのですか、ロディー様」


 エルランはこのまま逃げてしまえばいいと暗に言っている。

 確かにもう公爵家が付けた密偵はいなくなっていると思う。

 だが、俺のレベルが上がっているとはいえ、それは農民レベルだ。

 歴戦の密偵の隠形を見抜けるとは断言できない。


「そうはいかんのだ、俺は公爵殿下の御信任を受けて騎士になれたのだ。

 どれほど危険であろうと行かねばならない。

 ここまで送ってくれた事には心から感謝しているが、だからと言って公爵殿下を裏切るわけにはいかないのだ」


 俺の謎かけが理解できたのだろう、エルランは素直に引き下がってくれた。

 公爵家の密偵がいた場合、死地に送り届ける事は見逃してもらえても、逃亡に手を貸したら確実に殺されるからな。

 それどころか、大きくした商会を潰され財産を没収されるのは確実だ。


「分かりました、もう何も言いますまい。

 ですが、私からの餞別は受けていただきたい。

 もしその餞別がお役に立つようなら、褒美を頂きたいのです」


 エルランは命を賭けるような大博打を打つ馬鹿ではない。

 だが、命以外の財貨ならハイリスクハイリターンの博打を打つ事もある。

 祖父である公爵の目を盗んで俺を支援するくらいの男だ。

 商隊の輓馬や商品くらいなら眉1つ動かさずに捨てる事ができる。


「分かった、今回は恩に着ておく。

 農地を開拓して砂糖を作れるようになったら、また専売してもらおう」


 こう言っておけば、エルランは無理に人を送っては来ない。

 俺が必ず約束を守る事は、これまでの取引で理解しているはずだ。

 大森林近くのとても危険な地に、貴重な信用できる護衛を送り込む事はない。

 自分以外の人間の命を背負うのは絶対に嫌だからな、わかっているよな。


 それに、エルランにとっても信用できる腕の立つ護衛は金銀財宝よりも大切だ。

 武術系スキル持ちは、王家や貴族が権力と大金を使って家臣にしているから、商会は一般武術系スキルを鍛えた者を雇うしかない。

 いや、戦争になれば、一般スキルの武術系を鍛えた者も強制的に徴兵され死地に送られるから、レベルの高い護衛は子供の頃から自前で育てるしかないのだ。


 俺は10頭の輓馬を率いて獣道を進んだ。

 エルランが率いていた商隊の馬車は20台。

 2頭立てだから40頭の輓馬がいた事になる。

 10頭を俺に譲ったら、10台の馬車は1頭で牽かなければいけない。


 辺境と言えるトラースト男爵領だから、どのような危険があるか分からず、予備の馬はどうしても必要だ。

 そんな中で、10頭もの輓馬と10頭の輓馬が駄載できる物資を無償で譲ってくれると言うのは、結構な博打だと思う。


 俺はエルランと別れてから丸2日かけて俺の領地とされている奥地に進んだ。

 途中何度も猛獣の襲撃を受けたが、その度に魔力で作った斧を使って斃した。

 最初は食料にしようと輓馬に乗せていたのだが、余りの多さに全部運ぶのは諦めて、もったいないが内臓と美味しくなさそうな部位は捨てた。


「逃げろ、奥地に逃げるのだ、グッホ」


 いきなり愛情と絶望に満ちた絶叫が聞こえてきた。


「追え、絶対に逃がすな」

「キャッハハハハ、どこまで逃げるのかな、お嬢ちゃん」

「俺たちと遊ぼうぜ、いい気持ちにさせてやるぜ」

「ギャッハッハハハハハ、天国に行かせてやるぜ、お嬢ちゃん」


 悪人が奥地に隠れ住んでいる娘さんを襲っている。

 盗賊団よりもむさくるしいから、山賊と言った方がいい相手だろう。

 付属スキルの剣鉈術と戦斧術が実戦でも使えるのか確かめる好機だ。

 農民なのに魔力で作った剣鉈や斧ならレベルアップする不思議を確かめる。


「アールヴァク」


 俺は輓馬たちを繋いだ手綱を斬って愛馬のアールヴァクに拍車を入れた。

 1000キロを超える体重を誇る輓馬たちよりは小さいが、完全武装の騎士を背に乗せる軍馬は乗馬とは比較にならない大きさだ。

 700キロを超えるアールヴァクなら山賊など簡単に蹴散らしてくれる。


『ロディー』

種族:ホモサピエンス

神与スキル:農民・レベル212

 付属スキル:耕種農業レベル212

        耕作  レベル239

        種蒔き レベル229

        品種改良レベル220

        農薬生産レベル220

        農薬散布レベル220

        選定  レベル212

        収穫  レベル212

        剣鉈術 レベル212

        戦斧術 レベル212

      :工芸農業レベル212

        木工  レベル212

        紡績  レベル212

        織物  レベル212

 一般スキル:戦闘術レベル9

        剣術 レベル9

        槍術 レベル9

        戦斧術レベル9

        弓術 レベル9

        石弓術レベル9

        拳術 レベル9

        脚術 レベル9

        柔術 レベル9

        戦術 レベル9

        馬術 レベル9

        調教術レベル9

      :魔術

      :生産術レベル9

        木工 レベル9

        絵画 レベル9

        習字 レベル9

        算術 レベル9

        料理 レベル9

        刺繍 レベル9

        裁縫 レベル9

        大工 レベル9

        石工 レベル9


「基本能力」

HP:   2199

魔力:1823874

命力:1198327

筋力:   2193  

体力:   2195 

知性:  10087  

精神:   4582  

速力:   2191

器用:   2190

運 :   2196

魅力:   2190

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