第10話:佐和子の事情

■場所:祐子の自宅の風呂場■


祐子「(魔王を倒してから5日、あれからミリューと佐和子は、高尾駅で黒焦げの魔王を監視しながら野宿している)」


祐子「明日は朝練だから早めにお風呂入って寝ようっと」


(SE:風呂場のドアを開ける音)


ミリュー「やあ、祐子」


祐子「なんでうちのお風呂に入っているの?!」


ミリュー「風呂場の窓が開いてたからよ。不用心だなあ」


祐子「だからといって、窓から勝手に入って、お風呂を使わないでよ…。で、そちらのお方はどちら様?」


佐和子「アタシだよ、アタシ、佐和子だよ」


祐子「ええっ!! 黒ギャルが清楚系美少女になって、全くの別人なんですけど?!」


ミリュー「実は佐和子は、私の相方の魔法少女グーチェだったんだ」


祐子「どういうこと?」


ミリュー「まあ、祐子、立っているのもなんだから、あなたもお風呂に入ってよ」


佐和子「裸の付き合い、裸の付き合い」


祐子「もう、しょうがないなあ」


(SE:水の音)


ミリュー「狭いね」


祐子「この大きさの湯船に3人はきついですよ…。それで、佐和子さん、どういうことですか?」


佐和子「アタシは、ミリューより先にこの世界に着いてたので、魔法で変装して魔王の居所を探していたんだよね」


祐子「なんでまた黒ギャルなんかに変装を?」


佐和子「いや、なんか、この世界の最強職業がJKって聞いたもんだから」


祐子「それは、間違ってますね。そして、なぜ清楚系JKでなく、黒ギャルJKを選択したの?!」


佐和子「渋谷には似たような人が結構いたから、あれが標準的なJKかと思ったし」


祐子「全然、標準じゃあないと思います」


佐和子「まあ、何にせよ、結局、渋谷で魔王を見つけられたから、よかったんじゃね?」


ミリュー「偽物でしたけどね」


祐子「あれ? でも、そういえば、最初に出会った時、魔法のブレスレッドとスティックを持ってなかったですよね? 魔法少女なら持っているはずじゃあ?」


佐和子「ああ、あれね。質屋に売ったし」


祐子「なんで?!」


佐和子「いやー、こっちのお金がなかったから、生活費のためだし。そのお金で、クラブに入り浸ってパリピしながら、魔王の情報を探っていたわけだし」


祐子「クラブに入り浸るお金を、生活費とはいいません!」


ミリュー「まあ、私たちが渋谷に出かけて、結局は出会えてよかったです」


祐子「それで、なんで、いままで正体を黙っていたんですか?」


佐和子「え? おもろいから?」


祐子「はあ…」


ミリュー「まあまあ、私は気にしていないし、終わり良ければ総て良し、ですよ。祐子」


祐子「まあ、いいですけどね」


ミリュー「祐子、それで、今日はお別れを言いに来たんです」


祐子「お別れ?」


ミリュー「はい。私たちの世界から多くの仲間の魔法少女が総出で、私たちの救助に来ました」


祐子「そうなんだ」


ミリュー「そして、黒焦げ魔王、段ボール詰めのサキュバス、棺桶に閉じ込めたヴァンパイア、オブジェになったメデューサをつれて帰ります」


祐子「あれ、デュラハンは?」


ミリュー「もちろん連れて行きます。迷子になっていた胴体も、松本駅で遺失物扱いになっていた頭も回収できました」


祐子「よかったね」


ミリュー「あとは、壊れた都庁の床や吉祥寺駅前、渋谷のクラブのDJ機材なども、仲間たちが魔法で元通りにして帰ります」


祐子「へー。そんなこともできるんだ」


佐和子「東小金井の中華料理屋で餃子を食い逃げした時の代金だけは祐子が払っといて」


祐子「なんでですか?!」


佐和子「冗談、冗談!」


祐子「冗談かよ…」


ミリュー「そんなわけで、私たちはもう行きます」


佐和子「仲間と“時空回廊”を通って元の世界へ」


祐子「あっ、私が持っている魔法のブレスレッドとスティックは返さなくてもいいの?」


ミリュー「あげます。何かに使ってください」


祐子「使い道、無いと思うなー」


ミリュー「じゃあ、さようなら!」


佐和子「またねー」


(SE:水の音&風呂場の窓を開ける音)


祐子「だから、裸のまま窓から出ないでよ!」

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