第1話 区越市の日常
カタカタカタカタカタカタ・・・とキーボードを打つ音が部屋中に広がる。俺、陰上勇机は、薄暗い部屋の中、ブルーライトを一方的に浴びる。朝四時のサイレンが鳴り響き、この街の全世帯の全てのカーテンが一斉に開く。ここから、俺たち区越市民の、区越寮生の一日が始まる。パソコンを閉じて制服という名の作業着に着替える。学校から支給された鞄に同じく支給された工具箱を入れ、三月の寒い廊下を渡り、暖房ではなく冷房が効いているかのような寒いリビングへと向かう。
「おはよう(小声)」
ゆっくりとリビングに入ると、ここ、区越寮の寮生が輪になり机を作っていた。
何も知らない人からしたら、不気味に思うだろう。朝四時過ぎから、十五、六歳の男子が、一斉に机を作っているのだから。
といっても、ここでは当たり前の景色である。朝起きると机を作り、学校に提出する。これを、毎日繰り返す。もちろん、この寮には休みというものは存在しない。もちろん、無いのは休みだけではない。携帯、テレビ、こたつ、さらにはエアコンすらも存在しない。この寮にあるのは、学校から支給された工具箱とパソコンだけだ。ちなみに、このパソコンには机の設計に関するソフトしか入っていない。Wordはもちろん入っていない。さらに言えば、ゲームなんてものは入っているはずがない。そんな制限されたこの寮で、俺たちは机を作っている。なぜ机を作っているのか。そんな事は簡単である。ここが区越市だからだ。区越市の特産品は机。しかも、その大半を俺達、区越寮生が作っている。
学生が作った机が売れるのかって?もちろん売れている。しかもかなりの高値で。何故かは単純だ。この区越寮の卒業生のバックアップがあるからさ。区越寮の卒業生がそんなにすごいのかって?そういうことでは無い。ただ、区越市の範囲がこの区越寮だけだからだ。
一時間ほど経った頃、寮のまわりを囲む十メートルを超える壁から黒い光が迫ってきた。光はやがて寮全体を包み込み、俺たちの視界を奪った。しばらくして目に光が戻ると、目の前には驚くほどの光景が広がっていた。
机がなくなっている!!!!!!!!!!!!!!!!!?
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