第9話 空調強くない?

 俺とナルカルの雲を掴むような会話の中でも、クロキとローズのせめぎ合いは続いていた。

 どちらも互角の勢いで……いや、少しずつではあるがクロキが優勢に傾き始めていた。

「さすがは領主のご子息様だ。全く隙が無い」

「そういう君こそ、随分厄介な剣技を持ってるね!」

 わずかな隙を狙ったクロキの一突きをローズはすれすれのところで避け、後方へ引き下がる。

 先程まで座っていた木箱の山にローズは立ち、持っていた曲剣をしまう。

「せっかくの良い機会だ。君たちに見せたいものがある」

 腰に携えた鞘から、一振の片手剣を取り出す。

 やけに煌びやかな装飾が施された、大仰な剣。風をモチーフにしてそうな洒落たマークが目立つ。

 それを見てクロキは困惑する。

「えー……っと、ごめん、好みは人それぞれだろうから……ちょっと僕には上手な感想は言えないかも」

「いや別に見た目の感想を聞きたかったわけじゃなくてね」

 調子を崩されているローズをよそに、俺は片手剣をまじまじと観察する。

 なんとなくどこかで見覚えがあるような……。

 そう、まるでつい最近まで身近にあったような……。

 なんなら使ったことあるような……。

「……あ!」

 その時俺に電流走る。

「魔剣つよつよエアコン?!」

 俺の転生(1回目)したときに持ってたチート武器じゃん!!!

 10メートル先の山賊を剣一振でマッパに出来るやつ!

「なんだそのナンセンスな名前! もう少しなにかあるだろう!」

「そういわれても……」

 女神から武器の名前聞いてないし、服を剥がした実績からして「つよつよエアコン」って感じだしなぁ。

「じゃあ『北風と太陽』の北風的な?」

 あの北風は脱がせられないけど。

 しかしなぜかローズはお気に召したらしく、にんまりと笑顔を作った。

「なるほど。魔剣キタカゼ……それはいい」

 ローズは魔剣つよつよエアコ……キタカゼをかざす。

「本当は使いたくなかったが……。あぁ、決して負けそうだから使うわけじゃないよ。ただのお披露目さ」

「そういうと負けそうなのかなって思うよな」

 小声でささやいた俺に「まあ……たしかに」とナルカル。

「ナルカル。君はせめてこちら側についていてくれ。収拾がつかないから」

「すみませんボス」

「まあ気を取り直して」とローズはクロキの方を見やる。

「どんな名前だろうと、どういじられようとこの剣が魔剣であることは事実だ。君がこの剣をどの程度とたかを括っているか知らないが……」

 ローズが悪役らしく笑った。

「彼女を守らなくていいのかな?」

 掲げた剣は俺の方向へ振り下ろされて……

「子猫ちゃんッ!!!!!」

 思わず目を瞑った。

 台風のような風圧が殴りつけるように襲いかかる。

 しかし俺が予想していた衝撃とは異なり、尻もちをつく程度だった。

 まるで何かが前で風を防いでくれていたかのようで。

 ……待て。

 この状況で俺を庇ってくれる可能性があるのはきっと、一人しかいない。

 庇われた上でこの風圧なら、庇った側がどうなっているか、想像には難くない。

「クロキッ!!」

 ばっと目を見開いた俺の目の前に映ったのは。

「くろ…き……?」


 全裸のクロキだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る