第4話 俺、可愛いか?!
立ち鏡を見て、俺は唖然としていた。
「お嬢様、本当にお綺麗です!」
隣ではしゃぐ使用人たちの言葉も耳に入らず、鏡の中の少女に目を奪われていた。
これが……俺?
薄緑のドレスを身にまとい、ケープを羽織る少女。ハーフアップにまとめ上げられた薄紫の長い髪。黄色の鮮やかな髪飾りがアクセントとなり、重くなりがちな紫が上品さを生み出していた。
頬はほんのりと赤みを帯び、桃色を重ねた口元が清楚さを際立たせている。
「俺……かわいいな」
ぼそっと呟いた瞬時、ドアが開く音が聞こえた。
「おめかしは済んだかい?
「おう、今ちょうど……てか勝手に入ってくんな!」
衝立1枚挟んでいるとはいえ、乙女の着替えだぞ、一応。しれっと入ってくんな。
「さらに可愛くなった
「だからって何していいわけじゃねーんだぞ」
件のキス事件によりクロキに対しての敬語は完全に粉砕されていた。
しかし不審者同然のクロキもさすがに、衝立を越えてくることはしないようだった。
そこでふと思う。
初対面の女の手の甲にキスをして、子猫呼ばわりをするいかにも女慣れしてそうなクロキでも、こんなに可愛い俺を見たらさすがに多少はいつもと違うリアクションをするんじゃないか?
無いとは思うが、わたわたしているクロキを想像して口角がにやりと上がる。
そうと決まれば!
「なぁクロキ! 俺、可愛いか?!」
いたずらな好奇心は、俺を衝立から飛び出させた。その上、くるりとターンをした上で可愛い決めポーズを恥ずかしげもなくさせた。もちろんアイドル顔負けなバッチリの笑顔で。
後ろに手を組み、クロキを下から覗き込むように150%の笑顔を見せつける。
「あぁもちろんかわっ」
うんうんそうそう。かわ……?
「……」
……あれ?
ミュートしちゃった?
視界0までニコッと笑っていた目を開く。
「おい、感想は……」
目の前には真っ赤なクロキの顔。
「……っ」
「なんだよその顔ー! 照れてんのか?」
「いや……すまない、可愛いんだ。可愛いんだけれど……いや、その」
ここまで照れるクロキが見られるとは。いかにもな王道イケメンで癪に障っていたが、可愛いところもあるじゃんか。よし、もう少しいじってやろう。
「可愛いんだけれど? なんだよー、正直に言ってみろよ! なぁなぁ!」
ずいっと近づいて問う。クロキはさりげなく上体を反らしたが更に距離を詰める。
「んー?」
クロキはしばらく、俺のことを見たり目を逸らしたりを数度繰り返した後、ぼそっと呟く。
「……とても綺麗だ」
心臓が跳ねた。
「……はは、そ、そーだろーな……知ってる知ってる」
俺はポーズをやめ、俯きがちに棒立ちになる。
「俺は可愛いし綺麗なんだよなぁ、あ、あはは……」
笑ってやろうと思っていたのに、ガチ照れされるとこちらが恥ずかしくなってくる。
互いに目を逸らし、無言の間が生まれる。
「……じゃ、じゃあ、行こうか」
「お、おう……」
同じ方向の手足を出しながらぎこちなく歩く俺とクロキ。後方にいる使用人たちは口元に手を当て、そんな俺たちを静かに温かく見送っていた。
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