第4話 子供
それからも娘は度々男の家に上がり込んでは飯を作った。調理器具もどんどん持ち込んできて、作る料理のレパートリーが増えた。一緒に食事を取るようにもなった。
娘は病院にも「親の付き添い」という名目で度々姿を見せては、男にパステルカラーの巾着袋を押し付けた。中身は野菜がたっぷりと使われた色鮮やかな弁当で、男は周囲の同期や看護師の興味深げな視線を感じながらも毎度完食した。
娘が上がり込んで来ることが当たり前になったある日、例によって娘と卓袱台に向かい合って食事をしていると、娘が男の顔をしげしげと見つめた。
「何です?」
「ずっと思ってましたけど、先生ってお顔立ち自体はハンサムな方ですね」
「お小遣いでも欲しいんですか?」
男は心底呆れた。
目の下に濃い隈ができ、無精髭もそのままにしてしまっているような男がハンサムなどと。小遣いなどの下心があるようにしか感じられない。
しかし振り返ってみれば、男が研修医として病院に勤め始めた頃は女性職員からそんな褒め言葉をかけられていたように思う。もう20年も前の話だが。
「先生、若い頃は大層おモテになったんじゃない?」
「…恋人くらいはいましたよ。自然消滅しましたけど」
「あら、じゃあ私が恋人に立候補しようかしら。もうほぼ恋人のようなものでしょう?」
「貴方まだ大学生でしょう」
男は娘の提案を顔色1つ変えずに切った。
少し前、患者である彼女の母親から話を聞いていたのだ。娘は今年で20歳になると。成人式に向けて振袖の打ち合わせも進めているのだと。
今年で42歳になる男から見れば娘などまだまだ子供だ。
「子供が大人をからかうものじゃありませんよ」
男は娘の鼻をキュッと摘んだ。
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