ゼロ章 侍道化と闇勇芸団 その9
時は変わり、次の日は美の区が苦戦していた。命運を賭けた戦いの真っ最中だ。疲労困憊の闇勇芸団は金の甲冑を着て、軽快に足を動かす敵軍の大将を睨んでいた。武衛は忠時に質問する。
「ここで我々が揃うのは、奴の脚本通りだと?」
「そのようじゃの。体力を消耗してる我々に対して奴は元気で溢れている。」
「オラは人にビビったことがない。アレは怪人ですかい、団長?」
「いや、彼は人間だよ。」
平六の質問に、煌才は答えた。そして刀を握り締める。
「ただ、頭のネジが何本か取れているのは確かだ。この戦いで僕らは敵将を何人か討ち取っただろ? なのに怒りどころか、悲しみもない。仲間の死をまるで計算の内であるように喜んでやがる。俺の正義が許せねえぜ、そんなクソ野郎!」
「ふん、当たり前だ。」
氷吾は相手に対して、サムズダウンをした。
「美極の王―加々美 美空。兆の区の統制ご苦労だが、美の区へのこれ以上の進軍は許さん! 闇勇芸団が全員集まった時が、貴様の最後だ!」
「ビバ〜?」
美空はわざとらしく反応した。
「来ないよ、残り〜。だって僕ちゃんが全員殺ちたもーん!」
美空はそう言いながら、黒い布と紺の布を懐から取り出した。闇勇芸団のメンバーが青ざめる中、話を続ける。
「二人とも僕の作戦に勘づいたみたいで、戦の中で僕ちゃんの陣地に侵入して奇襲をしたんだ〜。僕ちゃんかわいそう〜! ……碁石は馬鹿だ。忍者は影の存在。優秀だったらしいね。そのまま表舞台に出ずにいれば死ななかった。根津も馬鹿だ。中途半端な浪漫を求めなければ、町人として平和に長生きできたのに。」
続けて美空はモフモフしたものを取り出した。
「この毛皮のスカーフ…獣屋 学の奴だろ? 君たちに見せた感じに忍者共の布切れを見せたら、」
シュッ、スパーッ!
忠時の縦長の飛斬を美空はあっさりかわした。
「そう! 逆上して、鞭で攻撃してきたよ。…けど鞭ってさ、勢いをなくしたら、掴みやすいんだよ? ……後は想像に任せようかな。」
美空はニヤニヤしながら、続けて紐を出した。
「火村 球郎。情報のない紫服のガキを必死に守ってたね。火薬を奪い取ってまとめて、ドッカーン!」
美空は続けて、矢羽を取り出した。
「狩野 上之介も褐色のガキを守ってたな。いやあ、矢捌きが大変だったよ〜。ムカついたから、美刃めっちゃしたよー。」
美空は五つの殺意に動じずに、話を続けた。
「つーまーり〜、僕ちゃんだけで闇勇芸団は半壊〜。もうちょいで全滅するよ。」
ゴオオオオ!
「「「「「ぐううう!」」」」」
(刀が震えてる! 俺の燃える闘志が今にも消えそうだ。)
煌才は震えていた。
(こんな化け物が兆の区にいたのか⁉︎ 軍師の俺が、とんだ情報不足だ。)
氷吾は歯ぎしりをしていた。
(なんたる気迫じゃ! ワシの全盛期と同じくらいの剣愛じゃ。)
忠時は居合の構えをした。
(あいつはオラより体格が小さい! なのにオラより大きく視える! 熊には遭遇したことないが、遭遇したのなら、この感覚なんだろうな…。)
平六は鳥肌を抑えようとした。
(拙者は
武衛は腹を叩いた。氷吾は皆に声を掛ける。
「お前ら! そろそろ悪魔が仕掛けるぞ!」
「さぁーて、誰から血の噴水を引き出そうかな〜?」
美空は分析していた。シュッっと行動は一瞬。
「んぽーっ!」
「速い! 目追いがやっとだ!」
氷吾は叫んだ。美空は止まらない。
「んぽぽのぽーっ!」
「ぐっ!」
自分の近くまで来た敵に武衛は、何歩か後ろに下がった。忠時は思わず叫ぶ。
「武衛、避けろー!」
「武士の癖にびびるおっさんとか、ノービバ! そんな君に〜、
ズシッ!
美空の斬撃が容赦なく炸裂する。
(う、腕があ!)
「うおおおお!」
「「武衛殿!」」
煌才と氷吾が叫んだ。
「武衛さん!」
平六も叫んだ。対して美空は爽快な気分だ。
「まずは一束!」
「ぐぐぐぐ!」
ズパーン!
美空の刀は地面に炸裂した。
「へぇ〜。かわせるんだ。」
美空は感心してる間、武衛は斬られていない腕で刀を握って、距離を置いた。忠時は焦っていた。
「いかん! 武衛とやら! ワシらと距離を取りすぎじゃ!」
そんな忠告は武衛の耳には入らなかった。
「や、野郎!」
武衛は不安定だが、刀を構えた。
「ひ、飛ざ…」
美空は武衛の斜め上に現れた。
「なっ⁉︎」
「美脚落とし!」
「あああああ!」
美空のかかと落としが武衛の頭に炸裂した。体はうつ伏せにズドーンと倒れる。
「武衛ー!」
忠時は涙をこぼしながら、刀を向けて遠くにいる美空に向かって突撃した。氷吾殿は引き止めようとする。
「何をなさる、忠時殿! 距離を取るなとあなたが言った!」
「うるせえ小僧!」
忠時は言葉で振り切り、邪魔する兵を薙ぎ払いながら、悲しみにふける。
(武衛……ワシに子供がいれば歳的にはお主のような子かの? 孫は和泉や括正は孫か? いや、どうでもいい。あのガキがワシの家族を奪った。)
「うおおおおおお!」
カンカンカンカンカンカンカンカン!
「やるじゃん、じいさん! さっきのおっさんよりは動きがいいね〜。熟練の技〜。」
忠時と美空はしばらく打ち合った。
「クソォ! 雑魚が邪魔で忠時殿に加勢できない!」
煌才は刀を振りながら、焦っていた。
「氷吾、どうにかならねーか⁉︎」
「押し切るしかない。心配するな忠時殿は強いお方…」
ズドォーン!
「「「えっ?」」」
煌才達は戦友の方に目を向けた。憎い笑顔の敵の顔が見える。忠時は胸を抑える。
「ぐ…うう…。」
「……美弾。」
(……! 外国製の小型銃! 美空の奴、隠し持っていたのか⁉︎)
氷吾は悔しそうに、うつ伏せに老兵が倒れるのを見た。しかし、感情をむき出しに、怒りを露わにする大男がいた。
(農民のオラを仲間として扱ってくれた闇勇芸団のみんなには感謝しかねえ。オラのもう一つの家族だ! それを、あの野郎!)
「うおおおおお!」
平六は叫ぶ。そして美空に向かって槍を向ける。美空は銃口を向ける。
バン、バン、バン、バン、バン!
「ビバッ! 槍の風圧で銃弾を弾くとはね。でも…」
「ツアアア!」
シュッ、ガシッ!
(オラの槍先を間一髪でかわして、柄を掴み…)
ゴン!
「ブッ!」
美空は平六が持ったままの槍の柄を彼の顔にぶつけた。
「あっ!」
平六は自身の武器を手放してしまった。美空は石突の方を平六に向ける。
「平六…農民の分際で…こっちの部分で左右交互に殴ってあげるよ。」
「あっ! がっ! あっ! がっ! あっ! がっ! あっ! がっ!」
「ひでえ! なぶり殺しだ! 平六だって戦士なんだ! 殺すならころ…」
「早まるな煌才、トドメを刺していなかったら平六だけでも救える。」
二人の侍が敵の総大将と再び向かい合う。氷吾は珍しく燃えていた。
「仇討ちの恐ろしさを舐めるなよ!」
「お前は俺たちが必ず屠る!」
「……弱い犬ほどよく吠える。」
美空は二人を煽った。山内 煌才と谷山 氷吾は気合を入れた。
「「うおおおお‼︎」」
「ビバアアアアア!」
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