ゼロ章 侍道化と闇勇芸団 その8
時は夜の森の中、美の区の連合軍の陣営は明日の兆の区の蛇京軍との戦いに向けて英気を養っていた。もちろん、闇勇芸団は切り札として参戦を依頼された。煌才団長は氷吾副団長を陣営の外に連れ出していた。
「いやあ〜。たまには二人だけで飲みたいって思ってさ。」
「……俺も実はそう思っていた。闇勇芸団の道のりは随分長くなった。……これ紅茶じゃん?」
「二日酔いも寝不足も避けたいだろ?」
「いや、そうだけど。うーん。…。」
氷吾は飲んでると、ふと煌才は口を開いた。
「……胸騒ぎがするんだ。」
「…俺もお前も死なねえよ。絶対生き残る。闇勇芸団みんなだ。今までもそうだった。」
「そうか。そうだな。そうだよね。」
「どうしたお前、いつもより弱気じゃねーか。」
「いつもより弱気なんですか〜? なんなら私が歌を歌ってあげましょうか?」
「おう、頼むわ! って誰だ、お前!」
「ひっ!」
びびる小さな人物へツッコむ煌才とは真逆に氷吾は彼女を観察した。
(ボロくて赤い着物の黒髪の少女…)
「お前戦場漁りか。」
「ええ⁉︎ なんでわかったんですか⁉︎」
「口に出すなよ。お前基本馬鹿だろ?」
氷吾が呆れてる横で、煌才は笑っていた。
「だはははは、氷吾〜。こいつ面白え! おい、嬢ちゃん。景気づけにお兄さん達に歌ってくれ。上手かったら、お金払ってやる。」
「本当ですか〜⁉︎」
少女は目をキラキラさせた。
「では…。」
少女は本当に声が可愛らしく、歌が上手かった。煌才はともかく、氷吾までその声に癒されていた。森にもまあまあ響いていたので、たまたま気分を落ち着かせるために近くを歩いていた括正、武衛、学の耳にも届いた。学は耳に手を添えた。
「んん〜。おやおや〜? ええ歌声じゃないですか、武衛殿、括正君。」
「確かに良き良き。おっさんのこの武衛にも響いてる。」
「あっ、まずいっす。この声すごく好きなんですけど。声フェチの僕としてはテンション上がりますね。」
((……この子、思春期拗らせたな〜。絶対同世代の女の子と接する機会少ないだろ〜。))
二人が少年の行く末を案じた。括正は座り込んだ。
「僕、ちょっとここで聴いてます。」
「そうか。」
「浸れ、浸れ。」
二人の先輩がその場を去ると、括正は座り込み、目を閉じて、感動した。
一方で煌才と氷吾は拍手を送っていた。煌才は金の入った袋を渡す。
「ありがとう。素敵な賜物だったね。」
「いい出し物だった。褒美だ。」
氷吾も金の入った袋を渡した。少女はお辞儀をして二つとも受け取った。煌才はご機嫌だった。
「いやあ〜。内の若い男の子の一人が君みたいな声が好きだったと思うから、絶対興奮して、色々するかもね〜。」
「確かに…歳が変わらなそうだし。君の声にハァハァ言ってもおかしくない。」
「ふわぁ〜。……その子とは私絶対関わりたくないですね〜。ちょっと怖いかも。」
「「だろうな。」」
二人がハモると、少女は私そろそろ行きますねっと言ったので、改めて二人はありがとうを言ってさようならを言った。
「たった数分の時間でしたけど、あなた達二人には愛着が沸きました。明日死なないで下さいね。死んだら、あなた達の死体から金目のものを全部剥ぎ取って金にします。」
少女はそう言うと、姿を消した。煌才は氷吾の耳元に囁く。
「あの子、男の子だったら、闇勇芸団に誘ったのにな。」
「それな。だが女の子を戦場で戦わせるのは酷だ。」
「惜しいな〜。」
煌才は夜空を見つめた。
「ああいう一人ぼっちの少女がいつか幸せの灯を持てるためにも、明日も、未来も、勝ち続けて、生き残らなきゃね。」
「無論だ。」
二人の男は再び闘志を燃やすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます