ゼロ章 侍道化と闇勇芸団 その7
「闇勇芸団に侍道化って奴が加わったんだってよ!」
「結構強いらしいな!」
「漆黒を纏う斬撃を放つらしい。」
「闇勇芸団がさらに強力になったってわけか。」
「戦の世が終わるかもか〜。嬉しいね〜。」
「闇勇芸団の快進撃を止めれる奴なんているのか?」
括正の闇勇芸団の団員としての初戦から数ヶ月経った。闇勇芸団は誰一人死ぬことなく、活動を続けていた。もちろん、この兵団を快く思わない者は何人かいた。その中で一人、企む者がいた。兆の区で最も大きな町―蛇京の殿様だ。
「サンシャイン! 照らされる愚民〜! 今日も僕ちゃんは〜、ビバッ!」
その殿様は城の天守閣の最上階に臣下が数人いるにも関わらず、鏡に見惚れていた。ふと一人に接近する。
「確認ね。美の区は松平家によって統率されつつあって、最もスムーズに他の区へと進軍できてる。なんで、なんで、なんで〜?」
「ええ、恐れながら。それは闇勇芸団が…」
「
ズバアアア!
「グアアアア!」
突然の主からの斬撃に彼は悲鳴をあげた。
「美しくない悲鳴! ノービバにさらに美刃!」
ズバアアア!
「がああ…あっ…。」
男は命を落とす。
「美の区が調子いいのは僕ちゃんがまだ本気出してないせいだ。それを理解してない部下がいるなんて、僕ちゃんかわいそう〜! ……僕ちゃんの作戦会議に名案を出せない者は去りなはれ。それも持ってってね。血も拭いて。僕ちゃんはその間に湯船に浸かってくる。」
殿はそう言うと、オーダーメイドの専用湯殿に繋がる専用階段を下って行った。しばらくすると、湯上がりの金髪の黒い瞳、金ピカの着物を着た彼は部屋に戻った。
「僕ちゃんかわいそう〜。無能が多くて部屋が空っぽだよーん。…まあ、いいか。いつものことん。」
殿様はそう言うと、長方形のテーブルを用意して地図を広げて、戦法や兵法、数術の本を分析した。しばらくしてからのことだ。
「ふうううん。」
玉座から声が聞こえる。殿以外の何者かが座ったのだ。
「夢があり、試練の壁を乗り越えるために努力をする。僕はそんな君も英雄だと思うし、味方だよ。」
「ビバ?」
殿様は思わず振り向いた。先が内側に曲がった赤と銀のピエロシューズの上に黒いズボン、ボタン付きの赤黒と紺がシマシマに混ざった上着を着こなしている。肌は褐色、見える鼻は赤く丸い。その上に虹色リボンを巻いた白いシルクハットを被ったその男は殿の玉座に右足を左膝に乗せて、重ねた指に髭を伸ばした顎を乗せて、前屈みの座っていた。
「精が出るね、加々美 美空君。僕は君にときめいちゃうよ。」
「ビバ〜。また会いに来てくださるとは光栄だよん。僕ちゃんハッピー!」
美空は体を向けて、両手を広げた。
「道化神―ファニフェロ様。」
ファニフェロ・ジョークスター ― 神話にも描かれる、この世界をを司る道化と笑いの神と言われてる神話の人物だ。
「ふうううん、美空ちゃんの悩み。僕はわかる。闇勇芸団のことだろ〜?」
ファニフェロはばっと地図が広げられたテーブルの後ろに現れた。向かい合う大物。美空は神と呼ばれてる人物に微動だにしない。
「ファニフェロ様ならぱぱっと解決できるんじゃない?」
「ひひひひ、僕は君が面白いから度々ここに来るんだ〜。利のないことはしないよ。それに力のあり過ぎる者は無闇に拳を振っちゃいけない。ついでに言うと…」
ファニフェロは美空の頭を撫でた。
「僕は知っている。我々が神なんて全知全能の大それた存在ではないことを。血も出て失敗もする。でも力に恵まれ、それ故に力に執着する不恰好な生き物だ。でも今更そんなことを我々が自ら明かせる訳ないだろ。少なくともこの道化神は、最後まで人類を欺くぜ。」
「感服だよ。蛇光様に出会わなければ、僕は間違いなくジョークスター教に入信してたよ。」
「……君、やっぱりいいね。僕は神々の王、君が侍の王として、いつか飲み明かせたらいいね。」
ばああ!
「手が滑った〜。」
ファニフェロはそう言いながら、手から大量の紙を出した。適当に一枚、美空は掴み取る。
「こ、これは!」
「情報戦に苦労してたでしょ? この国にも僅かだが、僕の耳はある。……これは闇勇芸団について掴み取った情報だ。役に立つと僕はハッピー。」
道化神はそう言うと、完全に姿を蛇京城から消した。
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