ゼロ章 侍道化と闇勇芸団 その6

 その日の夜。闇勇芸団はキャンプファイヤーで勝利の祝杯をあげていた。

『乾杯〜!』

「今日の戦の一番の偶然の立役者、ファイア・エンターテイナーの岩本 括正君にも乾杯〜!」

 煌才は付け足した。

『乾杯〜!』

(事故だったから、複雑なんなんだけどな〜。)

 括正がそう思っていると、球郎が後ろから愛を込めて強く叩いた。

「括正ちゃーん。あの時はてめこの野郎って思ったけど、結果オーライでお前好きだわ〜。おじちゃんの酒飲む〜ん?」

「球郎、子供に酒を強要しない。後お前も控えろ。後酔いすぎ。」

 上之介が球郎に注意すると、碁石も括正に話しかける。

「貴殿を最初に見た時、われと同じ影の者だと思ってたが、お前の炎は遠くからでも眩しかった。」

 碁石は優しく括正の肩を撫でる。

「偶然とは言え、貴殿は闇勇芸団に栄光をもたらした。誇るがいい。」

「まあ調子に乗りすぎたら俺ちゃんの鞭で調教するまでだがな。何しろ偶然だし。」

 学が無神経に割り込んだ。そこを根津が引き止めた。

「ちょちょ、獣屋の旦那〜。子供への脅し、だせえですぜ。」

「……ちょっと悪ぶってかっこつけたかった。」

「素直! そしてちょっとかわゆすかよ〜。そう思いませんかな、平六ちゃーん。」

 根津は隣の大男をチョンチョンと軽く肘で突きながら、会話を促した。

「……括正どん。今日の働き、偶然とは言え、大義とオラは思う。」

(間違ってはないけど、皆さん偶然を強調するよなぁ。)

 括正がそう思ってながら、平六は話を続ける。

「だが同時に括正どん、それに和泉どん。オラは二人が闇勇芸団の団員で居続けるのもどうかと思う。……ああ、下を向かんでくれ。嫌いだから言ってるんじゃない。オラは子供は戦場に立つべきじゃないと思ってるものでな。ましてや闇勇芸団は少数。死ぬ確率が高い。」

「だが平六。」

 武衛が意見を物申す。

「この闇勇芸団が誕生してから、団員は誰一人死んでない。お互いに背中を任せられる仲だからな。そして今回は括正君が我らを偶然とは言え、守った。よくやったぞ〜。おじたんが頭をよしよししてやろう。」

 武衛がそう言いながら近づいたので、括正はビクッとして、硬直した。和泉が止めようとする。

「あっ、武衛殿。括正ちゃんはそういうのは…」

「よしよしよし〜。ん?」

 勢いのあまり、括正のターバンは取れてしまった。

「……! 角⁉︎」

「角じゃな。」

「頭に角…生えている。」

「怪人?」

「怪人だよ。間違いなくね。でも子供でもある。」

(おっ、終わった…。)

 様々な意見が飛び交うなか、括正の背筋は凍っていた。

(ようやく居場所が見つかったのに…貶された後、追い出されるんだ僕は…)

「えええ! 括正お前頭に角生えてるとか、かっけええじゃーん!」

(えっ?)

 煌才の大きくて包容力のある言葉に括正は驚いた。氷吾は冷静だった。

「処刑人の格好をしてた時に頭から生えてた角は、やはり飾りじゃないんだな。」

「かっ、括正は!」

 和泉が大声をあげた。

「フォーンという半分人間で半分ヤギの怪人なんですよ。」

『おおおお!』

 感動の声がその場を包む。煌才は話しだす。

「初めて出会った怪人がお前だ。改めて闇勇芸団に歓迎する。」

「歓迎する。」

「歓迎する。」

「歓迎する。」

「歓迎する。」

「歓迎する。」

「歓迎する。」

「歓迎する。」

「歓迎する。」

「親友として、歓迎するよ。括正ちゃん。」

「……歓迎する。」

 最後に平六が言った。続いて氷吾が口を開く。

「だが括正。お前はまだまだ弱い。この天才頭脳の俺が和泉と共に効率よく強くしてやろう。」

「えー、ずるいぞ氷吾。団長の俺はお前より強い。俺が教えてやる。」

「何を言うとる。主らは若すぎる。二人の修行の師範はワシに任せろ。」

「いやいやここは中年であるこの武衛が…」

「吾が忍術を…」

「芸術は爆発!」

「町人の心得!」

「戦が関係ない。俺の射撃や砲術を…」

「基礎の筋トレから…。」

「動物はいいぞ〜。」

 その夜、闇勇芸団の大人たちは誰が少年二人に教えを説くか、楽しく言い争い、昼の緊張感とは対照的ななドンチャン騒ぎになった。結果、皆が教えることになった。括正はあることを感じていた。

(この感覚、暖かい。心地いい。)

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