ゼロ章 侍道化と闇勇芸団 その1

 運命の出会いが起きる前の物語。

「少数精鋭の特別な兵団を作ろうと思っている。」

 東武国の美の区の酒場にて山内やまうち 煌才こうさいは親友の谷山たにやま 氷吾ひょうごに話していた。氷吾は思わず、頭の後ろを掻いた。

「珍しくお前の奢りって言ったから誘われてきてみりゃ、お前はまた…それを権力が認知してくれるかって話だ。」

「既に松平様は許してくださった。」

「あの頑固親父を説き伏せたのか?」

 氷吾は目だけが敏感に動いた。煌才は得意げだった。

「へへん、氷吾くーん。俺様を舐めるなよ〜。」

「お前のことは見くびっていない。」

「ここからが始まりだぜ、氷吾。」

 煌才は両手を広げた。

「この兵団は乱世を終わらせる。そして戦の世が終わったら、この兵団はサーカス団に生まれ変わる。そして全国を始め、世界中の人々に喜びと笑顔を届けるんだ。」

「それがお前の…昔からの夢だもんな。」

 氷吾は澄ました笑顔で友を見据えた。

「それで俺に雑務を押し付けると?」

「うん!」

「ベールに包めや! 返事だけいいな、この野郎!」

 氷吾は思わずツッコむと、我に戻る。

「まあ、いいよ。俺ちょうど暇になったし。」

「軍師職クビになったもんね〜。」

「一言余計なんだよ、お前はいつも!」

 氷吾はそう言いながら、一杯飲み干した。

「松平の坊っちゃんが腕利きで、功績をあげ続け、鬼軍師の異名がついちまった! 俺は必要ねえんだとよ!」

「え? 子供より使えないの、氷吾君?」

「女王アリが子猫に勝てるか?」

 そう訊かれた煌才は気まずくなり、話を戻した。

「人選は戦えるだけじゃ駄目だ。ちゃんと人前で披露ができる特技のある奴がいいな。」

「アクロバットなどの空中曲芸は忍者がいいかもな。猛獣使いや踊り手、弓矢の名手や花火使い、居合の達人や玉乗り名人。この国には眠った才能が数多くいるぞ。」

「おっ、お前わかってんじゃん。だけどさ、俺一番欲しいのがさ…」

 煌才はニヤけた。

「道化だ。」

「は?」

 氷吾は思わず、反応してから頭を抱える。

「いや、道化はいなくてもいいだろ?」

「ええ〜⁉︎ いるよー、道化師は。 あいつらめっちゃ面白いじゃん! 誰よりも人を笑わせてくれて最高だよ。」

「まあ…そいつが強ければいいか…ところで煌才、名前は…もう決めてあるんだろう?」

 氷吾が確認すると、煌才は笑みを浮かべて答える。

「この闇の時代に勇ましく挑み、芸を磨く個性派兵団……」

 煌才は人差し指を上に挙げた。

闇勇芸団あんゆうげいだん!」

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