第3話 下北パスタ

ケイの朝は電車の音で始まる。

眠っている間は、聞こえないのだか、目が覚めたらとたんに電車特有のエンジン音がする。


毎朝、同じエンジンのシステム音が聞こえる。

数年前、電車音をガタンゴトンと表記されている絵本を見つけて、出版社に誤植指示した頃があったが、今思えば、余計なお世話だった。

大変恥ずかしいクレーマー的な事をしてしまった。

なぜか、ガタンゴトンを許せない気持ちになっていた。


現実と違うから?


子ども用の絵本は、現実ではないではないか。


ずっと前から親しまれた童話。

重版になる作品の文字を変えて、誰得なんだと。

いまは思う。


子どもたちに伝えたかったんだろうか?

「現実はずいぶん違うよ」、と。



話は変わるが、数万円もする、医学書が、サブスクで読める時代になった。

しかし、サブスクの医学書の情報は上書きされない。


情報は慎重に、取込まねばならない。


医学でも、新たな学説が出ている。

世界は今朝も新しい発明、発見に満ちているはずだ。


新しい情報の中でも、医学や化学や工学は、数字で記せるのだから、翻訳エラーはにくいだろうとも考える。


文学カテゴリーは、世界の中で考えると特に大変だろうなと思う。

翻訳されて、違うじゃないか!と思ったとして誰得なのかな?と。


ケイはまた、こうも考えるだろう。

多くの論文の根拠として用いられるデータの調査対象の100名。

その100名とは?誰繋がりの100名だろうかと。


薬とかの効果効能については、偏りなく100名に調査する事は、できないのでは?

ケイはそう考えている。


例えば、今座っている、カフェ。

従業員、客を含め、この日にこの店を利用する100名は、九州の古賀市の小学校同窓生100名に聞いた場合の統計の差は無いのだろうか?と。


大多数の幸福と個人の幸福について、ケイはどう考えているのだろうか。

私は、ケイの容姿から様々な想像をしてきた。


理屈っぽいけども信頼できそうな人物が出来上がっている。


ケイは個人が幸福であれば、大多数も幸福であろうと考えるに違いない。


個人の幸福を追求することに熱心であることが、社会福祉でもあるのではないか?

と考えながら、下北沢のカフェで、オマールエビのパスタをすする。

トマトの酸味にも負けず、オマールエビの味が染みてくる。

フォークも唇もトマトディップまみれ。

ケイは唇をぬぐうタイプではない。


ワイングラスのほうを、さらっと拭いてから口にする。


豊かなワインの香り。


アルコールが、毛細血管まで染みていく、ほかほかと体温が上がってくる。

新鮮なイタリアンパセリを噛みしめる。

普段食べているパセリとは、まったく違って個性を主張しない。


控えめだけれども、ここは、イタリアンパセリが必要なんだ。

ケイは過去に書いたこのカフェの紹介記事の記憶を上書きする。




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