3章 森の中の家

第25話 冬ごもり準備

 結局一日でウィトが頑張って石板(特大)を三枚並べ、屋根は完成した。様子を見て、雨が降って雨漏りするようなら、隙間に小石を詰めるか木の板を並べるかしようと思っている。


 ただ崖から斜めに石板(特大)を渡して屋根にしている為、ズレてしまわないように石板(特大)の根元、崖側に程よい大きさの石を置き、その周囲を土を盛って固める作業が翌日までかかった。

 屋根は左右に一枚の半分近くは土台からはみ出すように置いた為、その分軒下となる。


 そして出入り口は、最初にウィトにその入り口を作る為に切って貰って収納しておいた岩を変換で石板にし、それを更に屋根の傾度に合わせた角度に上部をウィトに切って貰う。その石板を私をウィトが通り抜ける分の隙間をあけて壁からすると斜めにしてはめ込んだ。


  この作業もウィトの風魔法に調整を頼んだのだが、さすがにタブレットから出したものを屋根の傾斜のある軒下と地面の間にキッチリとはめ込むのは難しいので、はめ込む部分の地面を私が生活魔法で柔らかくし、スコップで十五センチ程掘った。

 その掘った分を斜め下から押し上げるようにウィトの風に押して貰うと、少しだけ隙間が出来たがはめ込むことに成功した。


 これも雨や雪が降るのを待つしかないが、入り口の壁を崖に向けて斜めにして崖側から入るようにした分、雨や雪が室内に直接吹き込むことはないと信じたい。


 ただ天井まで入り口は約一メートル程の幅で空いているのだから風が吹き込むのはどうしようもないが、布などで塞いでしまうと光が室内に入らなくなる為、そこも要検討だ。

 一応屋根と岩山の間の凸凹分隙間がある為、そこからも光は室内に入るがそれだけだとかなり暗いのだ。



「よーーし、完成!ウィト、ありがとう!部屋の中はまだだけど、これで安心して冬を迎えられるよ!これもウィトのお陰だね!」


 入り口の掘った処を埋めてしっかりと石板の固定が終わったところで、ウィトに感謝を告げて抱き着いた。


「キュフゥ……ワフワフッ」


 わしわし頭を撫で、首の下や顔の回りなどをもふもふと撫でまわすと、ウィトは気持ち良さそうに耳をピクピクさせながら目を細めていた。その可愛さにスリスリと頬ずりすると、ベロンと顔を舐められる。

 そのままいつものようにはしゃいだ後は、本格的に冬ごもりの準備の為に連れだって森へ行った。


「ウィト、食べられる果物が実っていたら教えてね」

「ウォンッ!」


 ウィトは基本は肉を食べるが、雑食なので果物なども食べられる。だからか果物については食べられるかどうかが分かるようで、とても助かっているのだ。

 ウィトと出会う以前は、果物が実っていても知っている果物以外はそのまま食べず、タブレットから変換リストで出る果物に変換して食べていた。そうするとどうしても変換コストの分、食べられる量が少なくなる。


 タブレットに収納しても時間経過と共に傷んでは来るが、果物は中には長期保存できる物もあるし、そうでない物は今から干して干し果実にする予定だ。

 後は自生している芋を出来るだけ多く確保しておきたい。




 森で木の枝や倒木、薬草に野草などもあちこち積極的に集めて回った結果、家が出来上がって半月も経つ頃には室内の一画には薪が積み上げられ、家の前の石の上には干した果実がズラリと並べられた。

 その間に一度小雨が降ったが、小雨くらいでは屋根から雨漏りもすることも入り口から雨が吹き込むこともなかった。


 部屋の改装もこの半月で少しずつ進め、室内の半分は石の土台の上に倒木を変換した木の板を並べた床になっている。もう半分の土がむき出しな場所には、煉瓦と石板を組んで造った竈と丸太と木の板を組み合わせて作った台、それに丸太の椅子を置いて台所となった。


 床にはしっかりと毛布を絨毯の代わりに敷き、夜は家から持って来た布団を敷いてウィトと一緒に寝ている。

 今でも夜寝る時は結界を張っているが、ウィトが家に侵入される前に魔物に気づいて撃退してくれる為、とても安心して寝ることも出来ている。森の中で野宿をしていた頃からは考えられない程、きちんとした暮らしをしていた。


 ……こんな暮らしを送れるようになったのも、あの時ウィトと出会えたからだよね。本当にウィトには感謝しているよ。


 ついこの間も森でウィトがついに山芋を見つけてくれたのだ!天然だから自然薯という方が正しいのかもしれないが、残念なことに毒があるかが分からないので、今のところ変換リストに何か出るか待ちになっている。


 山芋はつる状の茎を持ち、地面の下に長く伸びているととろご飯の専門店で聞いたことがあったので、実は森に入った当初から木に絡まるつるを気にしてはいたのだ。ただ、実際に見たこともなかったし、つるを見つける度に地下を掘るわけにもいかないから諦めていたのだ。


 今の時期にウィトの食べ物センサーに引っかかったのは、秋が収穫時期だからだったのだろう。その他にも、この世界でも実りの秋は通じているらしく、様々な種類の果物や木の実をウィトと共に収穫している。



 その後もひたすら森で採取し続けること半月、本格的な秋となり、冷え込む日が増えて来た。もう少ししたら山の方では初雪が降るかもしれない。


 冬の準備は順調で、ウィトが森で大型の魔物をしとめ、上質な毛皮も追加となった。肉も大量に手に入った為、最近では干し肉をつくれないか色々と試行錯誤を繰り返していた。

 それと森でまたウィトが以前とは違う種類の芋を見つけてくれた。この芋は一つ一つの実が大きく、なんと一個で芋一個と変換することが出来た。


 お陰で春までは雪に閉ざされても食料は大丈夫だろう、と安心するくらいには集まり、大分精神的にも余裕が出て来ていた。

 そんなある日。ウィトがしきりに崖の上を気にしていることに気づき、声を掛けた。


「どうしたの、ウィト。上に獲物がいるの?」


 崖の下に拠点を作って以来、この岩場と周辺の森を縄張りとすることに成功したのか、最近ではウィトは崖の上の森へはほとんど足を伸ばしていないようだったのに。


「クゥン?……キュゥーーークゥ?」

「なんだか分からないけど気になるのね?……じゃあ、上に一緒に行ってみようか」

「グルゥーーー……ウォンッ!」


 まだ少し迷っているようだったが、私が促すと心を決めたかのように一声鳴いたウィトは、崖の前まで来ると私の背中を押して乗れ、と促した。


 ウィトはこの一月の間で、更に大きく成長していた。恐らく前世でいうとセントバーナードを越えてグレート・デーン程、つまり体高が一メートルくらいになった。

 後ろ脚で立てば私よりも高くなるので、最近では私を背中に乗せたがるのだ。


 最初はウィトに乗って歩いたり走ったりするのは遠慮していたのだが、一度寝ころんで抱き着いた時に背中に上手く乗せられてうれしそうに部屋の中を歩きまわっていた姿に諦めたのだ。


 まあ、私も身長が伸びているし。これ以上私の身長が伸びたら、さすがに足がついて乗れなくなるだろうしね。……その分、ウィトが更に大きくなったりはしない、よね?魔獣のことは全く知らないから、もっと大きくなってもおかしくないんだろうけど。大きいウィト……もふもふしがいがありそうでいいかも?


 でも今の大きさくらいのウィトも捨てがたい、とそんなことを考えつつウィトの首にしがみ付きながら乗っている間に、気づくともう、崖を斜めに上がり上の森に到着していた。そこから更に何かに導かれるように、時折止まって耳をピクピクさせ、鼻をヒクヒクさせて確認してはどんどん森の中を進んで行く。


「ウィト、どこへ向かっているの?」

「キューーー……、ウォフッ」


 多分、もうすぐ近く、ってウィトは何を感じているのだろう?


 疑問に思いながらもウィトの背中にしがみついていると、とうとうゆっくりとした歩みになり、クンクン地面の匂いを嗅いで確認しながら進んでいると、突然ガサガサっと目の前の茂みが揺れた。


 思わず結界の準備をして身構えていると。ヨタヨタしい足取りで茂みから出て来てポテリ、と目の前で倒れたのは。


 ウィトとは真逆の真っ黒な毛並みをした、狼の小さな子供だった。


「え、ええっ、ど、どうしたの、この子。……もしかして、怪我をしているの?」

「クウウ?」


 真っ黒の毛並みで一見しただけでは気づかなかったが、良く見ると背中から血が流れている。

 血を流し過ぎたのか、ピクリとも動かない狼の子に鼻を寄せて匂いをかんでいたウィトが、こちらを振り返り、どうする?と言わんばかりに一声鳴いた。


「怪我をしているのなら、治療してあげなきゃ!ウィトはこの子に気づいてここまで私を連れて来たんでしょう?」

「ウォンッ、ウォンッ!」


 まるで警戒していないウィトの姿に、私はウィトの背中から降りて、とりあえずこの場で出来る傷の手当を始めたのだった。







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もう一話、夜に更新します。 

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