第23話 拠点造り
「わああ、すっごいきれいな切り口!これは風の魔法を使って切ったの?」
「ウォンッ!」
胸を張り、得意げな表情を浮かべるウィトに思わず笑ってしまった。もちろん抱き着いてもふもふするのも忘れない。
ずっともふもふしていると、それだけで夕方になってしまうので、ウィトが切り、岩がズレて出来た隙間から恐る恐る外へでると、そこは岩が乱立し、石がゴロゴロと転がる岩場だった。そして岩場から離れた場所には小川まで流れている。
振り返ると笹が茂った崖があり、そして岩場の周囲だけは開けているがその外側は森が広がり、小川の奥には森の上には山が見えた。
街道から見えた山よりも大分近く、ここが国境の山のすぐ裾に広がる森の中だと検討をつけた。
……ウィトと一緒に暮らし出してから、大分森の奥へ入っていたけど、ザッカスの街よりも大分国境近くまで来てたんだ。まあ、今はザッカスの街に行く気はないし、ここは立地的にも拠点を作るにはいいわよね。川も森も開けた場所もあるし。
「ねえ、ウィト。この辺りの森を見て、食材に困らなそうだったらこの岩場を家にしない?小川もあるから水にも困らないし」
洗濯などは生活魔法で水を出してやっていたが、魔力を使うから負担になっていたのだ。このあたり一帯が冬になってどれくらい雪が降るかは分からないが、ここなら気にしないで火を使うことも出来るし、寒さもなんとかなる気がした。
「ウォフゥ?……ウォンッ!」
「そう?ありがとう。じゃあ暗くなるまでこの辺の森を回って、大丈夫だったら明日は家を造ろう!ウィト、協力してね?」
「ウォンッ、ウォンッ!!」
先ほどのウィトの風魔法を見て、この岩を使うことを思いついたのだ。ただ問題はドアだが、それは明日まで考えることにする。
それから夕方まで周囲の森と小川を見て回ったが、大型のボアとヘビの魔物には出くわしたがウィトが問題なく倒してくれたので、私一人なら無理だがウィトがいれば、ということでこの冬はこの岩場を拠点にすることにしたのだった。
その夜は私が閉じ込められていた岩室の中央で大きな焚火をし、贅沢にスープと串に肉を刺して焼いた焼肉で夕食にした。夜も最近では寒くなって来ていたが、寝る前まで焚火をしたことで温かく、ウィトのもふもふに包まれて幸せな気分で眠りに落ちた。
翌朝は、空いた頭上から入る朝陽で目が覚めた。すっかり熟睡していたらしい。昨日は崖から落ちたり、拠点がやっと見つかったりと精神的に上がり下がりで疲れていたのだろう。
傍らにウィトの姿が見えないのを寂しく思っていると、すっとズレた岩の間からウィトが入って来た。
「ウィト、お帰り。……もしかして、この岩場の見回りをしてくれたの?」
ここを拠点にするなら、この周囲をウィトの縄張りにする必要があるのだろう。ブンブン尻尾を振りつつキュンキュン鳴きつつ甘えて来たウィトの身体は朝露に塗れ、そして少しだけ血の匂いがした。
「クキューーーン。ワフワフッ」
もう大丈夫、僕に任せておいて!という頼もしい感じの答えに、笑顔でお礼を言う。
その後朝食にスープを作って食べ、作業に入る前に小川に行って洗濯をした。その時に離れた場所から岩場を観察し、どこに何を作るか検討をつけ、洗った洗濯物を岩場に干しながら実際に見て回る。
因みに小川は川の流れが緩やかで、夏ならここで毎日水浴びをしたいくらいだった。ただこれからは存分に身体を拭くことが出来るのはうれしい。
「よしっ!ねえ、ウィト。風魔法で石を切るのって、昨日みたいに上まで切らないで、少しだけ切るとかって出来そう?」
「ウォンッ、ウォンッ!!」
そのうれしそうな声に、岩室に向かう。そして昨日ウィトが半分切ってずれた岩を上の三分の一だけ切って落とせるかお願いしてみると。
「ウォーーーーッ、ウォンッ!」
じっと岩を見つめていたウィトが一声吠えると、昨日見たように風の刃が岩に向かい、指定した辺りを切り落とした。少しだけ脇の岩も切れたようだが、それで岩の強度がどうにかならないだろうし問題はない。
ドスンッと岩室の中に切り取られた岩がささり、バランスを失った岩がズズズ、とズレて行く。それをウィトと二人、離れた場所から見ていると、計算通り、ズレていた岩はその後ろにあった岩山まで下がると止まり、次に中へと倒れて行く。
「ウィト!あの倒れている岩、少しの間だけ風で止めておける?」
「……ウォフッ」
ぐっと首を下げ、じっとウィトが岩を睨みつけると、ゆるやかに倒れていた岩がゆっくりと止まった。
「ありがとう、ウィト!もうちょっとお願いね!」
私は急いでタブレットを取り出すとタブレットの向きを斜めに変え、足元へ持って行って傾いた岩の下へと入れた。そして収納、と念じてみる。
すると、高さニメートル程の岩がそのままスッとタブレットに収納され、消えた。
「ウォフゥ?」
「ああ、ごめんね、ウィト。収納出来るかなってやってみたら、収納できたよ!」
以前から大きな倒木でも、タブレットに一部を触れさせることが出来れば収納することが出来たのでやってみたのだ。
ただし、この収納には法則があり、必ず収納する物の下か上、どちらかの底辺に触れさせないと収納できない。だから大きな石を収納しようとしたら上に登るか、下を持ち上げて底にタブレットを触れさせないといけないのだ。
これは以外と大変で、私の身長の高さまでしかタブレットを上げられないので、結局大きな物の上に触れさせて収納するとなると、同じ高さの物が隣にない限り収納することは不可能なのだ。
中に入って切り取った岩も収納し、次は岩室から出て岩場の中を大きな尖った岩を探す。なるべく凹凸がない岩を探し、見つけたらその岩一メートルくらいの場所で縦に切って貰い、ズレたところをタブレットに収納する。それを三度繰り返した。
これをどうするの?と不思議な顔で見ているウィトに笑いかけ、タブレットの変換リストを確認すると。
「やった、あったよ、ウィト!じゃあ次は、あの崖の笹をあの岩の隣の部分だけ風で刈り取って欲しいんだけど、出来そう?」
「ウォフゥ?……ウーーウォンッ」
なんで?うーん、まあ、いいけど。といった返事をしたウィトと崖へと向い、ここからここら辺、とお願いする。
私が崖から落ちてあの岩山の岩室に落ちたのだから、岩のすぐ隣が崖で、笹のような植物が一面に生えているのだ。
あまり刈ってしまっても崖崩れが心配だが、今からやる作業の為に岩室のすぐ隣の崖の斜面を足場として必要なのだ。笹の根まで掘り返す必要はないから、土砂の保持も恐らく問題ないだろう。
「ウォッフゥ!!」
斜面の下でウィトが首を振ると、ざざっと笹が刈られて吹き飛ばされて行き、そのまま一本の木と崖の土をえぐって「ドガガッ!」という音を響かせて止まった。
倒れて転がり落ちて来る木に慌てて避けると、しょんぼりしたウィトが風で木を止めてくれる。
「あ、ありがとう、ウィト。斜面だから上からやるべきだったよね、ごめんね。ウィト、凄かったよ!」
尻尾をだらりと垂らし、耳をペタンと倒して明らかに力なく項垂れる様に、慌ててウィトにお礼を言う。
確かに考えてみれば笹で全て覆われて地肌が見えない斜面にそって斜め上に風を放つなんて、とんでもない高等技術だ。ウィトだってまだ子供なのに、無理を言ってしまった。
なんどもありがとう、凄いよ、を繰り返しながら抱き着いて撫でまわすと、やっと尻尾と耳が力をとりもどした頃にはお昼になっていた。
その後は伐った木や笹を収納して回り、拠点造りの一日目が終わったのだった。
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お読みいただきありがとうございます!!
今日はさすがに限界でゆっくり寝てました。あとは夕方か夜に一度更新します。よかったらフォロー、★♡をお願いします。
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