第63話





 リアンの問題で執務室に呼び出されたのは、問題の当日が過ぎた翌日のことだった。


「アル。今日の呼び出しには心当たりがあるはずだな?」


「あるけど間違った対応はしてないつもりだよ」


「ああ。世継ぎとして対応は間違えてはいない」


「だったら」


「だが、はっきりとケジメを付けてはいないだろう?」


 意外なことを言われてアベルは口を噤んだ。


 はっきりと自分の気持ちとして、言葉で拒絶していないと言われたら、それは間違いない事実だったので。


 そしてアベルにはそれができない理由があった。


 そのため口を噤んだのである。


「なんだ? その苦い顔付きは? 断れない理由でもあるのか?」


「明確にこれといった拒絶する理由がないんだよ。好きか嫌いかと問われたら、決して嫌いじゃないし、じゃあどこか問題があるかと問われたら、それも思い浮かばない。それで言葉で拒絶しろと言われても思いつかないよ」


「じゃあ殿下にはリアンを妃として受け入れる意思がおありなんですか?」


「それはないよ、リドリス公爵。単純に人柄を好んでるというだけで、妃に迎える気はないから。俺にはレイとレティで十分過ぎるから。3人目はちょっと」


「アル。それは普通に断るよりきついと思うぞ?」


 本人には落ち度はなく、好意も向けられている。


 なのに妃に迎える気も、もっと悪い表現をするなら、遊び相手にして付き合う意思もないなんて、そんな曖昧な断られ方をするくらいなら、普通に嫌いだからとキッパリ断られる方がマシだとケルトは思う。


 アベルは気付いていないのだろうか?


 自分の言い分がリアンには酷であり、とても残酷なことだと。


「アルは」


「言葉を遮って悪いけど、叔父さんの言いたいことわかってる。俺の言い分はリアンには、とても残酷だってことだろ?」


「ああ。そうだ。わかっているなら」


「だけど本当に本人にはなんの落ち度もないんだよ。問題があるとしたら、リドリス公爵の後継ぎであること。俺に3人目を迎える意思がないこと。それだけなんだ。だから、あんな断り方をしたんだけど。ダメだったかなあ?」


「ダメではないがリアンは、きちんと気持ちを告げて断られたいそうだ。できそうか?」


「できないとは言えないよな。受けられないなら、キッパリ断るのも、好かれた方の義務なんだから」


 そこまでリアンのことで会話して、ケルトは気になっていたことを彼に問いかけた。


「それでレイとレティとはどうなんだ? 少しは進展したのか?」


「父親なんだから、ふたりから直接聞けば? 叔父さん」


「昨日から妃のところに入り浸りでな。ふたりが逢ってくれない。それで聞き出せるはずもないだろう?」


 なるほど。


 女の子はこういうとき、父親ではなく母親を頼るということか。


 確かに異性でもある父親には言いづらい話題もあるだろうから、その辺はわからないでもない。


「そうか。これからは叔父さんじゃなく、王妃さまの負担が大きくなるということか。王妃さまの身体の負担にならないといいけど」


「説明しないか、アル!」


「陛下。王子は遠回しに進展したと認めてらっしゃいます。だから、同性であり先に同じ道を歩まれた王妃様を頼られていると」


「何故私は蚊帳の外なんだ?」


「父親だから仕方ないと思うよ。思春期の女の子って扱いづらいし」


 妙に達観しているアベルにケルトは、怪訝そうな顔で問いかけた。


「これまでのアルベルトからは信じられない一面だ。どうしてわかるんだ?」


「フィーリアは俺に懐いていたから例外とすると、年下の妹たちが恋をして、俺から巣立っていくところ沢山見てきたから。そういうとき、男の俺は蚊帳の外で、逆に弟たちは俺に頼ってくれたけど、ほら。俺はこういうことでは役に立たないから」


 だから、こういうことに詳しいのかと、ケルトは納得したが、感慨深くもなる。


 遂に進展したのか。


 よかったと思う反面、娘たちに報告もしてもらえない自身に落ち込んでしまう。


 これは同じ男同士という利点を利用して、アベルに口を割らせるしかないなと決意するケルトだった。

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