第15話 テンプレはお友達よ

雇った冒険者たちが魔物と戦っている姿を後ろから俯瞰する。

「お嬢様」

メイドのライがアリサに短くいった。

「ん?彼らを心配してるのかしら?」

アリサは楽しげだった。

楽しいショーでも観ているかのような上機嫌。

「勝つわよ、今日は本当に大当たりね」

たまたま依頼を受けに来た冒険者が優秀でたまたま強大な魔物が出現して自分たちはそれを近くから眺めている。

「あんな珍しいワイバーンは大金貨100枚でも買えないわ。まぁ、いりませんが」

「冒険者の方は竜の血が流れていると、本当かはわかりませんが」

「……手伝うのは無しよ。あなたの今やるべきことは馬を暴れさせないこと、わかって?」

「はい、重々理解しております」

貴重な脚を失うわけにはいかない。

彼らの一時的な拠点となるのだから。


__________


さっきのすごい。

剣に火がついたりワイバーンの風魔法を薙ぎ払って攻撃ができた。


「ガイナスくん!どうだった!?」


急いでる様子でハインが質問する。

感想じゃないな、彼が聞きたいのは。


「さっきは腰が抜けたが、いける。あと2回はまともにやれる」

「……うん。なら2回で終わらせよう。……次は支援魔法もかなり付けるから慣れてほしい」


大丈夫かな?

敵をバフで強化し過ぎたら精神が肉体に追いつけなる云々展開あなたラノベでやってた気がするの。


「またブレスが来るわ!」


一箇所に集まったのでワイバーンのヘイトが散らばらなくなり一人あたりへの攻撃頻度が恐ろしいことになってる。

「……ティア、シエル、もう一度言うよ。これからガイナスを全力で強化するから君達の支援が困難になる。万が一のときは……」

「そう。ハイン、あなたの支援魔法はすごいわ。でも私達を甘く見過ぎよ!」

「ご主人様はできることをやってください!」

「……ごめん。ありがとう」


二人に忠告して私の方へ向く。


「……本当にいいんだな?」

「ティアもシエルも弱くない、でも弱くないだけじゃこの戦いは勝てないからね。」

「じゃあ頼むわ」


私に応えてハインが支援魔法をかけていく。

狼の群れとやったあのときの支援魔法とは段違い、感覚でわかる。

力に満ち溢れるも強い追い風のような。


「上級剣術の封印は接近してから連続で解除する!」

「了解!」


一気に駆け抜ける。

体が自由だ。

ワイバーンが翼のある前脚を振り下ろしたところでかすりもしない。

尾で薙ぎ払うことも風魔法も何も障害にならない。

10秒あればもう剣の間合いだ。


「『オールキャンセレーション』!」


もう10、いや20秒で叩く、やることは思考ではなく身体が伝えてくれる。

俺のできること。

ブレスが来たら首に注目し当たらない方向から切り裂く。


『ガァァァッ!?』


鱗の目立たない箇所から一気に鮮血が吹き出た。

その血が熱い。

だがわかる、この血、切れ易さで。

肉体の再生能力が高かろうが失血は別問題だと。

お前の絶対を支えてる血がなくなると再生を何もなくなると!

考える猶予があればわかる、本物ドラゴンの血が贋作ワイバーンを特別にしていると。


「おぉぉぉぉ!!」


とにかく傷を作る。

首を斬る時間もないから。


「『オールキャンセレーション』!!……うっ……」


2回目、一気に終わらせる!


「『ホーリーシールド』!」


ワイバーンの打撃がティアの魔法の盾で阻まれる。

破壊する頃にはもう俺はそこにはいない。

ハインの支援もさらに強くなる。

翼を斬りグラビティという魔法にリソースを裂く必要がなくなったからだろう。


周囲におびただしい量の血が散らばり鉄の匂いが充満する。


ッ!?身体が急に鈍い、時間切れか。

けどヤツはまだ倒れてないんだ。


「こんのっ、動けぇ……」


血まみれになってもまだ止まらない。

ブレスはない、喉はほぼ潰した。

風魔法か、それとも打撃か。

バフはまだ残っているが喰われたら終わる!


「ガイナス!!」


伸ばされた手に自分もなんとか手を伸ばす。


ハインによってワイバーンから離れることができた。


「……あぁ、助かった」

「あとは二人に任せて大丈夫だよ」


遠目からだが魔法も使わず再生能力もかなり弱体化したみたいで動きがかなり緩慢であり勝負はついた。


「……ワイバーン倒せたみたい。」

「倒せたか、はぁー」


依頼をまだ完遂できていないのに肩の荷が降りた感じ。


私は知っている、次に起こることを。


「ちょっとワイバーン回収してくるね」


さて、ここで魅せるはテンプレート、そう。

ハインは倒されたワイバーンの前に立つと小さな布袋を取り出す。

それの口を開けてワイバーンに当てると……

一気に吸い込まれる!!

そうこれは、一種のアイテムボックスだ!

残ったのは血だけになってしまう。

生き物は収納できない設定だが死体は別だったから冒険者ギルドでアイテムポーチ展開→高ランク魔物出現→冒険者ザワザワ+ガイナス顔真っ赤。

これがお約束だった。

改めて便利すぎるだろと思う。


少ししてなんとか立てるようになったのでハイン達と一緒に馬車へ戻るため歩き始めた。


__________


ガイナス奮闘時、馬車では_


「すごいですわ!ワイバーンの血がブシューってとっても赤くてシエルさんが風に舞う葉のように吹き飛んだときより綺麗よ!」

「お嬢様!?何をおっしゃるのですかっ!?」

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