第10話 酒の席

ふらふら歩き回りながら店を探していると活気のありそうな酒場を見つけたので入ってみた。


あーなんか久しぶりに来た気がする。

気のせいなのに。


「いらっしゃいま……暴れないでくださいよ」


さてはやらかしたなガイナス君よぉ。

出禁じゃないだけマシだが。


「……大丈夫だ」

「そうですか。どうぞ座って」


一人で来たし店の空きも少ないのでカウンター席に案内された。

隣は……右は端なので誰もいない。


左は人がいないが飲みかけのジョッキ、多分戻ってくるだろう。


「エールとつまみ……手頃で早めに用意できるのをお願いする」

「はい、少々お待ちを」


しばらくして注文したものが運ばれてきた。


「お待たせ、エールとつまみね」

「ありがとう」


つまみはハムか。

匂いはあまり強くない、味は……ほぼ塩漬けの豚ハム。

普通に美味い。


エール酒は……冷たいな。

冷えてるのは魔法もあるしそういうことだろう。


んー、微妙だな……度数は高いみたい。

正直ビールの方がうまいと思うな。

ここラノベ中世だからそんなもんないけどね。



そのほかにもつまみをもう一度注文してその間チビチビと酒を飲んでいるときだった。


「あ?お前、いたのかよ」


話しかけられたようなので振り向く。

クールそうだがなんかガサツそうな印象の同業者、レイナだった。


「偶然だ。」

「なんだ〜?オレみてーなのでも尻を追っかけて来たのか〜?」

「違う。酒を飲みに来ただけだ」


若干酔ってるんじゃないかねあなた?

しかしこう、酒の席で話し相手がいるのはいいことだ。


「へ〜本当にそうか〜?」

「本当だ。君こそあんなにしんみりしてたのに元気だな」


「んー、仕事終わりに一杯引っ掛けようと思ってな」


やっぱりこの世界でも飲酒は夜がメインらしい。

昼間から飲もうとする奴はそうはいないようだ。


「まぁなんだ、ちょっと聞きたいこともあるしな」

「オレが答えられることなら構わないぜ」

「あれだ、興味本意だが俺達が戦ったでっかい狼、いくらで売れた?」


そう聞くとレイナは一瞬目を見開き、すぐにニヤリとした表情になった。


「は〜そうだな。アレはなんかホワイトウルフだが魔物としてかなり格上のB相当らしくよ、まぁ装備に加工できるってんだから売らずに防具に仕立ててもらってんだ。……ねーちゃん酒の追加頼むわ!」


「ほぅ」


Bランク、推測だがあの狼と同等なら他のやつでも今の私一人でギリギリ勝てるかどうかってところかな?

Aランクは主人公がいないのでお察し。


「損傷もあんまねぇし多分スキル付きになるぜ」

「なんだそりゃ?」

「知らねぇのかよ。魔物の持ってたスキルを持った装備ってやつだろ。つっても何があるかは完成次第のもんだ」


魔物の力を継いだ装備……ラノベでは主人公がSランクの魔物を使った装備持ってたな。


「大丈夫だ思い出した。気に入る結果が出たらいいな」

「ほんとそーだよな!」

「完成したら見せてくれよ。俺をふっとばしたやつだし気になる。一杯奢るぞ?」

「いいぜいいぜ〜!こっちに一番強めのワインを!ジョッキでくれ!」


……ワイン?度数高め?


「それ結構お値段お高めなやつだろ!それもジョッキ!?」

「いいじゃねぇかよ、甲斐性ってもんだろ?」


「……甲斐性か、そんなもの俺にあったもんだったか?あ、自分もワインを、コップ一杯で頼むよ」

「ないなー!プフっ、くっくっ……」


こうやって別パーティの冒険者と話せる時点でガイナスは最初から歪んでなかったんだろうな。

しかしそんなに頼りがいがなかったのか?


「あー笑った。なんかよぉ、今のガイナス見てるとガキの頃思い出すなー」

「おう?」


「いやなー、もう10年以上前のことだがオレの住んでた村がクソみてぇな数の魔物が来ちまってな」

「魔物ねぇ」

「まぁその時にさ、他の冒険者が来て助けてくれたんだよ。そんでその冒険者に憧れてオレもいつかって思ってたわけだ」


よくある英雄譚みたいな展開ですな。


「そんとき来たの冒険者が今日の依頼みてーに10人もいなかったんだよな」

「今日みたいに少なかったのか?」

「そーなんだよ。でもちゃんと追っ払えてかっこよかったんだ。かっけぇ冒険者だよな」

「そうだな、憧れるのはわかる気がする」


「でもよ、オレも妹たちと冒険者になったときがっかりしちまった……」


なんだ?性格悪いヤツに絡まれたか?


「みんな日銭を稼いで、男なら時に夜の女呼んで、酒を煽って、それをするためにやってるんだなって」

「……実際ランクがそこそこ高いなら体張れば稼げるしな」

「だよな〜、だからオレも頑張ってランク上げようと必死になって、今はこんなとこまで来たけどよ〜」


「冒険者には落胆したんだな」

「オレはよ、オレも誰かを助けられるようなかっこいいやつになりたかったんだ」

「……」


「そんで今日は思うんだよ、少しはなれたんじゃないかって」

「……あんな数の狼が万が一人の住む場所へ来たらやばかったしな」

「ああ、そうだ。オレの夢は、自分の力で守れるもんを守りたい、それとかっけえやつになる!」

「酒飲みながら言うことじゃないだろ。……まぁ、そういうのは嫌いじゃない」


魔物と戦うことでレベルが上がる以上兵士よりも率先して魔物を倒す冒険者のほうが能力は高くなりやすそうだしレイナが冒険者やってるのは間違っちゃいないだろう。


子どもの時の夢を叶えるために頑張る、かっこいいじゃないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る