第9話 金貨一枚が一万円として

ボスらしき狼は目線があった途端、斜面を跳び急接近してきた。


「速いぞアイツ!?」

「だな。『筋力一時増加』」

筋力強化、一瞬だけ身体能力を上げる技。

これで対応できるか?

「『筋力増強』!!」

さらに支援のバフで力が向上してる。

威力を殺すことができ……いや、ダメか!


「うぉぉぉ!」


押し負ける!


「うぶぁっ!?」

「ガイナス!!?」

背中が痛ぇ、あの狼、人をクッション代わりにしてくれたな。

……そして足は鈍い。

だが動けないと喰い殺される!


「ガイナス!」

「……生きてる」


震える足に力を入れなんとか立ち上がる。


『ガァ!』

『グルルァ!』


まずい、今足止めされるとみんながやばい。


「『ショックニードル』!」


狼は援護の魔法の効果で痙攣している。

援護ありがとう。

早くレイナのところへいかないと。


レイナは……フォービーも来て生きてるな。

ボスもピンピンしてら。


私には下っ端の狼以外注意が向いてないチャンスだな。


……よし、ここは無理に合流するよりも。

飛べぇ、狼!


近くで痙攣した狼の1体を持ち上げ、力の限り投げた。

その狼がボスへ吸い込まれるように進む。




「畜生……何か起きれば倒せそうなのによぉ」


レイナは悔しそうに呟く。

ボスが群れの狼に攻撃させ近寄れない。下手に動くと後衛を守っているリリィが持たない。


−その時


『グモッ!?』

「!!」


狼が狼目掛けて衝突した。

ボス狼は何が起こったのかと振り向くがそこにあるのは同族の死骸のみ。


「……へっ、任せろぉ!」


顔目掛けてぶん殴る。

その間にも狼らは腕や足を噛み、切り裂く。

当然レイナの四肢からはかなりの血が流れる。


『グァァ!!』


悶絶してる間に別の狼に突き刺さったガイナスの剣を引き抜く。


「一発カマしただけだぜ。根性足りてねぇんじゃねーかぁ、お前?」


首に思っきり突き刺した。

ピクピク震えること数十秒、それは動かなくなった。


ボスが倒れ生き残った少数の狼は森の奥へ消えていく。


「悪いなガイナス、アンタのエモノ使っちまった」


剣は赤色で刃が見えないほど血だらけだ。


「あー、うん。別に折れてないから気にしなくていい。君がアレを倒したんだから俺からは何も言えない」

「……?」


四肢の傷が魔法で修復したあとにレイナがリリィたちの方を見て私を指差し、ジェスチャーをする。

表情からはわけがわからん、と伝えている。

それを見て彼女たちも知らんと反応した。

何をやってんだか?


「……まぁ、良い。じゃ、オレはでっけぇヤツ持ってくぜ」

「ああ、頼む」

「私達はオオカミさんから耳チョッキンかぁ……これ全部なんて日が暮れちゃうよ……」


ひたすらギルドに提出する証拠としてホワイトウルフの耳を剥ぎ取る。

吐きそうだ。


「……よし、帰るぞみんな」

「……え、ええ」

「……」




帰り道は待機していた馬車に揺られ、来た道を戻ることになり道中はみんな死んだように眠った。


街へ戻る頃には既に日が沈み空は真っ暗。

門番さんは少し驚いた顔をしていたが直ぐに元に戻り通してくれた。


ギルド内は半分お通夜状態だった。


「……」

「……」


Aランクパーティー2つが血まみれかつ無表情でテーブルに腰掛けていたからだ。

リーダー格の片方はざまぁ克服なんて言う元気はとうになく。

もう片方は雑魚魔物に数の差があれど崩壊寸前まで追い込まれたことで雑魚とはなんだろうと哲学状態に入ってるからだ。

持ってきたホワイトウルフがどう見てもホワイトウルフっぽいおっきななにかにしか見えず誰もが、何があったのだと思考を巡らせる。


ホワイトウルフ駆除の担当をした受付嬢は全てを察して腹痛が起きるのだった。




「……なぁ、なんか食うか?」

「いや、いいよ……」

「……すみません」

「……今はいいわ」


パーティーメンバー3人とも心ここに在らずといった感じだ。

恐る恐るな様子で受付嬢さんが来た。


「あ、あの……」

「……なんだよ」


レイナ、やっぱり拗ねたくなるよな……でも。


「受付嬢さんは悪くないよ」


現に普段は受付場所に行かなくては相手にしてもらえないのにこうやって声をかけてくれてるし。


「……ハァー」

「お疲れ様です。い、依頼報告をお願いします!」


しん、と空気が凍る。


「……行ってくる」


手をあげて席から立ち、彼女についていく。

ギルド提出用の狼から採った耳の入った袋を全部持っていった。

受付嬢さんは顔色が優れないところ、クレームやらなんやらが来ると思ってるのだろう。


責めるつもりはないが見積もりが甘かったことは自分と一緒に振り返ってほしい。


「改めて、依頼の件ありがとうございました」


「いえ……こちらも態度があまりいいものではなかったので……とりあえず結果の報告からさせてもらう」

「はい」


簡潔にホワイトウルフのボスは倒したこと、群れの規模が1000体を超えていたこと、撃ち漏らしが100体くらいいたこと、動員した冒険者の数が依頼に足りてなかったこと。


これらを伝えた。

それから少しして。


「この依頼は達成扱いとなります。報酬として金貨30枚をお渡しいたします」

「あ、ああ」


「それと、その、規模の想定ミスは今回の件についてこちらのミスですので、後日謝罪をさせていただきたく思いまして」


「必要ないよ。俺達の準備不足が原因だし。あと傍からしたらたかだか初心者でも狩れる魔物に苦戦したことになるからね」


それに逃してしまった個体もいたんだ。


「では、失礼する」

「はい、本当に申し訳ありませんでした」

「今後ともよろしくお願いする」


再びみんなのもとへ戻り報酬の金貨30枚をわける。

7人を30枚……まぁ15枚の2つに分けてから考えるか。


「……ガイナス、しれっと懐にしまってはないんだよな?」


あれだけ命を懸けて3人だと一人金貨5枚、割りに合わないよな。 


「最初から報酬は決まってただろ」

「……そうか。じゃ、またな」

「ああ、またどこかで」


『一条の光』の3人はギルドから出ていった。

次はパーティーメンバーで分けないとな。


「さて、15枚を4人で割って……いや先に使用した回復アイテム類の補充だよな」


既に死に体のメンバーには大変申し訳ないがまだやるべきことだと思う。



「みんなお待たせ」

「……もう今日は解散?」

「あーすまん、最後にみんなこの依頼でどんだけ回復アイテムなどのものを使用したか確認したい」


まだやるのかよって顔してるけど命懸けだったこと覚えているでしょ。

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