03.〈魔法使い〉リゼルアルテⅡ
出会いは鮮烈だった。当時まだ一人で旅をしていたリゼルアルテがとある小さな街の近くを通りかかったとき、森で四体の
当然そのときは、子どもが魔物に襲われていると思った。冒険者の軽鎧をまとってこそいるものの、腰の剣に手を掛けたまま身動きひとつなく突っ立っている。動けないのだ。若い駆け出しの冒険者が、いざ魔物を前にすると恐怖で体が竦むというのはよくある話だった。
――仕方ない、助けてやるかのう。
リゼルは偉大で尊大な大魔法使いである。誰彼構わず助けて回るようなお人好しではないが、少なくとも、襲われている子どもを見て見ぬふりすれば『大魔法使い』の名にもとるだろう。
魔狼どもを颯爽と撃退して、少年から熱い尊敬の眼差しを受けるのも悪くはない。見せちゃうかーっ大魔法使いの力見せちゃうかーっと、すっかり得意になって考えていたのだが。
「――っ?」
――ピリ、と。
肌がひりつくような感覚を覚えてリゼルは動きを止めた。剣に手をかける少年から、なにか得体の知れない気配が走っているのに気づいた。
殺気、というほどではないが。これ以上近づくのを、本能的に躊躇させるような。
(まさか――)
あの少年、体が竦んでいるのではなく――。
そうリゼルの思考が逸れた瞬間、魔狼が一斉に少年へ飛びかかった。
リゼルは手を止めてしまった己に舌打ちした。即座に魔力を走らせて術を構築、今はとにかく少年を守るべきだが普通にやっては間に合わない、ならば必要最低限の術式でピンポイントに
銀の光が閃いた。
四体の魔狼のうち三体が一刀両断され、あっという間に地面を転がった。
「……!?」
少年が斬ったのだ――そう理解できるまで一呼吸かかった。
唯一斬撃を逃れた魔狼にとって、これほど恐ろしいものはなかっただろう。子ども一人を八つ裂きにする楽な狩りだったはずなのに、一瞬で、なにひとつわからぬまま仲間が全員死んだのだから。
本能が逃走を選ぶには充分だった。大慌てで走り去る魔狼を少年も追うことはなく、森に静かな葉擦れの音が帰ってきた。
「……は、お、おぉ?」
リゼルは呆然としている。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだった。発動させようとしていた魔法の構築が途切れ、淡い魔力の粒子となって散り散りに霧散していく。
少年は、まだほんの十歳そこらであろう正真正銘の子どもに見えた。そんな年で剣を握るなんてとんでもないと、大人から叱られたっておかしくないくらいの。少年の場違いな幼さと、今しがた魔狼を葬った芸術的なまでの剣技が頭の中で符合しない。
少年が刀身の具合を確かめている。剣先のあたりがごく少量、魔狼のものと思われる血で赤黒く濡れている。
魔狼三体を一刀両断したにしては、剣に付く血の量が少なすぎる。
斬った魔物の血すら、剣にほとんど付着することのない――それほどまでの絶技。
そんな技量、リゼルが今まで出会ってきた腕利きの冒険者でも――
(いや、しかし、今のは――)
魔法使いの職業病というべきか、リゼルの思考がどんどん深いところまで沈んでいく。思考に耽ったリゼルは得てして周りが見えなくなる。結果、自分の大きな魔女帽子と杖が木からはみ出て丸見えであることに、リゼルは最後までちっとも気づかなかった。
「――誰だ」
「ふゆい!?」
いつの間にか少年がすぐ近くにいた。驚き飛びあがった拍子にローブを踏んでしまい、つんのめったリゼルはお腹からべしゃりと転倒した。
「へぐぅ」
「……」
「……んんっ」
完璧に見られた。リゼルは内心涙目になりつつ、鋼の精神で何事もなかったかのように立ち上がる。おごそかな咳払いで大魔法使いの威厳を取り繕うのも忘れない。
リゼルの出で立ちを確認した少年が、小首を傾げてつぶやく。
「……子ども?」
「はー!?」
リゼルはキレた。ずんずん大股で少年へ詰め寄り、
「違うが! ぜんぜん違うんだが! 子どもじゃないんだがーっ!? わしはこう見えてもおぬしよりずっと年上じゃ! 人を見かけで判断するでない、無礼者めっ」
「う、うん……?」
そのあまりの剣幕に仰け反った少年は、目を白黒させながら、
「そ、そうなんだ。……ごめんなさい」
「むっ……ふむ、素直に謝罪できるのはよいことじゃ。わしも声を荒らげすぎた。すまんかったな」
溜飲の下がったリゼルは笑みを浮かべる。なかなか物分かりのいい少年で感心した。
「魔狼に囲まれておるもんだから、助太刀しようと思ったんじゃが……要らぬ心配だったようじゃな。やるではないか」
「む……」
リゼルの心からの称賛に、しかし少年は喜ぶどころか眉をひそめた。どこかばつが悪そうに剣を納めると、
「……あれは、忘れてくれ」
「? なぜじゃ?」
「ぜんぶ斬ったつもりだった。……一匹外した。まだまだ修行不足だ」
リゼルは目を見張った。「ぜんぶ斬ったつもりだった」という発言もそうだが、あれだけの絶技を見せてなお、それを誇るどころか恥じ入ってみせたことに驚嘆した。
この時点でリゼルは、目の前の少年に並々ならぬほど興味を引かれ始めている。
「おぬし……冒険者じゃろう?」
首肯、
「仲間は? 一人か?」
首肯、
「ソロだと、まだぜんぜん大した依頼はさせてもらえないけど……」
少年は少し不満げだ。しかしリゼルからすれば、十歳ちょっと程度の人間の子どもが、先輩冒険者の同伴もなしにソロを許可されている時点で充分異様だった。あの剣技を見ていなければ、ギルドの監督不行き届きだと腹を立てていたかもしれない。
なかなか興味深い子だ。リゼルは口元に笑みをたたえながら、
「……のう、少年。さっきの〈
〈
少年が疑問符を浮かべる。そんなの見てどうする、という言外の問い。
「なに、わしは見てのとおり魔法使いじゃ。おぬしの〈
「む……」
「改善すればおぬしの太刀筋、一層磨きがかかるやもしれんぞ?」
少年の答えは早かった。『太刀筋に磨きがかかる』と聞いた途端に即断即決、食いつくような勢いで頭を下げて、
「ぜひお願いしたい……!」
「うむうむ、若人を教え導くのも先達の務めじゃ」
リゼルは気分がよかった。こうも聞き分けのよい相手と話ができるのは久し振りだった。これが愚鈍な人間だとリゼルの主張をまったく信じようとせず、へらへら笑いながらお嬢ちゃん扱いしてくるのだ。そういう連中の顔面に魔法を叩き込むのももう飽き飽きしていた。
早速少年が魔力を巡らせ、〈
ただ、
「なんというか……随分とチグハグじゃのう」
「チグハグ……」
一応の強化自体は発動しているが、これでは魔力の消耗が激しく到底長持ちしないだろう。
「こんな術式でよくもまあ……どこの粗忽者じゃ、おぬしに魔法を教えたのは」
「……あー、」
少年が答えに詰まり、躊躇いがちに、
「……ええと、これは独学みたいなもんで」
「……なんじゃと?」
「気がついたらできるようになってた。術式……とかいうのは、よくわからない」
ははあ、とリゼルは納得した。誰から教わるでもなく、気がつけば自然と魔法が使えるようになる手合いは時たまにいる。ただし術の仕組みまで理解しているわけではないため、魔法の発動自体はできても、
「その〈
少年は首肯、
「四時間くらい続けると倒れそうになる……」
「は? そ、それで四時間も持つのか……大した魔力量じゃな」
「最初は五分も持たなかった」
「うん? ……い、いや待て、おぬしまさか」
「何回も倒れてるうちにどんどん伸びてきた」
リゼルは少年にチョップをした。
「いたい……」
「このバカタレッ! 今どきそんな鍛え方するやつがどこにおる!?」
確かに魔力は体力と似たようなもので、鍛錬によってその最大量を増やすことが可能だ。だが、体力を鍛えるために毎日失神するまで走り込むバカがいないように、倒れるまで魔法を使い続ける修行などとっくの昔に廃れている。
度が過ぎれば本当に死んでしまうやり方だ。
それをこの少年は、なにを誇らしげに。
「おぬし……おぬしはなあ! 下手をしたらとっくに死んでおったところじゃ! もうどれだけ続けておるんじゃ!? 半月か!? 一ヶ月か!?」
「……七年?」
「ななななな七年!? なな!? そんなムダだらけの
リゼルは偉大で尊大な大魔法使いである。偉大で尊大であるからには、自分の価値観にそぐわない非効率的・非論理的な魔法運用を見ると、鳥肌が立ってむしゃくしゃしてどうしようもなくなってしまうタチである。
どうしようもなくなったときのリゼルは、しばしば両手をグーにしてぶんぶん振り乱す。
「それ禁止! もうやっちゃだめっ! いつかほんとに死んじゃうんだからね!?」
「……あ、ああ……」
しかし少年は話を聞いているのかいないのか、とても物言いたげな目線でリゼルを見つめてくる。リゼルは真っ向から睨み返す、
「なに! なんなのその目! なにか言いたいことでもあるの!?」
「い、いや……急に話し方が変わったから……」
「…………んん」
正気に返ったリゼルは咳払いをした。偉大で尊大に声のトーンを落として、
「……ともかくおぬし、魔法を教わる相手がいないんじゃったな? ここで出会ったのもなにかの縁じゃ。わしはしばらく街でゆっくりする予定じゃから、そのあいだおぬしに指南をしてやろう」
「え? いや、でも」
「というかわしに指南させてくれ。お願いだから。そんな魔法の使い方ぜったい許さないからわしは」
「……ところで、さっきの話し方」
「だまって! わすれて! そんなのいいから言うこと聞くの!! 私の方が年上なんだからね!?」
「う、うん……」
いま思い返せば、なんともヘンテコな出会いだったと思う。
こうしてリゼルは、問答無用で少年――ウォルカに魔法を教えることにした。
最初は、あの子どもの落書きみたいな魔法を矯正するだけのつもりだったけれど。一週間後、正しい〈
このときウォルカが浮かべた表情を、リゼルは今でもとてもよく覚えている。
滅多なことでは笑わない彼が、このときだけは年相応に笑みを弾かせて言ったのだ。
「――師匠! 頼む、俺にもっと魔法を教えてくれ!」
「……!」
――師匠! 今この子、私のこと師匠って!
師匠、師匠、師匠、師匠――その甘美な響きがリゼルの頭の中で何度も反響する。
リゼルは、偉大で尊大な大魔法使いである。これは魔法使いの界隈ではよくある話なのだが、一流の魔法使いはみな弟子を持っているのが当然で、すなわち弟子の一人もいないやつが一流なんて片腹痛いよねー、弟子ナシが許されるのは二流までだよねーキャハハ、みたいな暗黙の共通認識があったりする。
しかし、リゼルに弟子はいない。いたためしもない。
リゼルは体が幼い。見た目だけならガキ同然だ。実際の年齢や実力はさておいて、十歳そこらにしか見えない小娘に弟子入りしたがるやつなどいるわけがない――らしいのだ。
つまるところ、リゼルはぼっちだった。
弟子ナシが許されるのは二流までだよねーキャハハ、と笑われる側なのだった。
偉大で尊大な大魔法使いとして死活問題――リゼルの触れてはならぬ最大級のコンプレックスである。
そんなリゼルが、熱い眼差しで『師匠』と呼ばれ師事を乞われたら、果たしてどうなるか。
「ふ、ふふ、ふふふっふふふふふ……ふぅ~ん、そうかそうか。そっかー、これからもわしに魔法を教わりたいかぁ~。ま、まあわしは超すごい魔法使いじゃし? 弟子入りしたくなっちゃうのも当然というか? いやー参ったなー、わしってこれでもいろいろ忙しいんじゃけどなーっ」
「あ……いや、忙しいなら無理にとは」
「あっさり引き下がるなっ! もっと食い下がってっ!! わしに魔法を教わりたいんじゃろぉ!?」
「えぇ……? そうだけど、もし嫌なら別に」
「『別に』とか言うなばかぁ!! ほ、ほれもう一回! おぬしは! わしに! どうしてほしいんじゃっ!?」
「……魔法を教わりたいです弟子にしてください師匠?」
「…………う、うむ。いいじゃろういいじゃろう。しょ、しょうがないなー、じゃあ弟子にしてあげるっ。えへへ」
こうなった。
ぼっちなリゼルは、めちゃくちゃチョロかった。
/
――たくさんのことを思い出した。
ウォルカとはじめて出会ったときのこと。生まれてはじめて弟子ができたときのこと。あれ以来リゼルはすっかり彼を放っておけなくなってしまって、師匠として様々なお節介を焼くようになった。子どもらしからぬ実力のせいなのか、ウォルカがギルドで若干浮いた存在だったというのも好都合だった。
だって、リゼルが独占できるから。
私の生まれてはじめての弟子。そう思ったら、もうかわいくてかわいくて仕方がなかったから。
ウォルカは魔法の基礎を学ぶ傍ら、剣の鍛錬を一日たりとも休みはしなかった。この子って剣から生まれてきたのかなあと、思わず呆れてしまうくらいの打ち込みぶりだった。食事や睡眠などを除いて、剣を振れる時間があるなら常にそうしているといっても過言ではなかった。
ウォルカは間違いなく、やがて一流の剣士として名を馳せるようになる。騎士を目指しているのかと訊いたが、彼の返答は要領を得なかった。どうも目の前の剣技を極めることばかりに夢中で、将来の夢はあまり考えていないようだった。
だからリゼルは、彼の剣技と魔法が充分に馴染んだ頃、思いきってパーティを組まないかと誘ってみた。
ただ断られるだけならまだマシ。「え、普通に嫌だけど……。もしかして勘違いさせてた……?」とドン引きされたら身投げすることも視野に入れていたが、幸い彼は快く受け入れてくれた。
その際、安堵のあまり腰が抜けたし、嬉しすぎてちょっぴり泣いたのは余談である。
パーティの名前は、三日三晩考えて〈
銀はリゼルの髪の色で、灰はウォルカの髪の色。つまりこのパーティはリゼルとウォルカが一緒にいる場所であり、ウォルカはリゼルのものであるという気持ちを、ほんのちょっぴり込めてみたりして。
「え、その名前ってつまり……いや、そういうのはちょっと……」とドン引きされたら首を吊ることも視野に入れていたが、幸い彼は「いいと思う」と言ってくれた。幸いリゼルがこの名前にどんな想いを込めたか気づくことなく、言葉の響きだけで判断してくれたようだった。
なにか特別な信念や夢があるでもなく、やりたいことをやるだけの気ままなパーティ。依頼を受けて人助けをしたり、魔物を倒してお金を稼いだり、時には街から離れて小さな旅をしてみたり、たったそれだけのことが、今までとは比べ物にならないほど楽しかった。
二年くらい経った頃だったろうか。王都周辺の街を巡っているとき、ウォルカの弟子――もとい後輩となるユリティアと出会って。
それから一人旅していたアトリと出会って、いつしかパーティは四人になっていた。
最初は、ウォルカを独り占めできなくなってしまってジェラシーだったけれど……でもユリティアもアトリもいい子だったから、気づけばみんな大切な家族みたいになっていた。
これからまだまだ、四人で楽しい日々を過ごしていけるのだと思っていた。
なのに、現実はこれだ。
ダンジョンの危険性は、冒険者ならばどんな寸足らずでも知っている。主を倒さぬ限り無限に魔物を生み出し続ける危険地帯であり、人類が踏破し尽くさねばならない魔の牙城。その中に眠る財宝は多くの冒険者に夢を与え、だからこそ、二度と陽を見ることなく散っていった戦士も数え切れない。
だが、すでに踏破されたダンジョンなら大丈夫なはずだったのだ。ボスモンスターが撃破されたダンジョンは魔物を生む力を失い、やがて『遺跡』として風化していく。ただそういう場所はよその魔物や〈
それが当たり前なのだ。
本当はダンジョンが踏破されておらず、Sランクパーティすら死を覚悟するような化け物が待ち構えていたなんて、そんな理不尽をいったい誰が予想できるというのか。
「……ウォルカ………………」
老シスターに案内された教会の病室で、ウォルカは深く深く眠っていた。
誰がどう見ても無事ではない。傷は神聖魔法ですでに癒やされているが、右目は潰れ、左足は下腿を切断し、病衣の隙間から見える肌にも消えきらなかった傷跡が残っている。ここまで傷ついた人間を、リゼルは未だかつて一度も見たことがなかった。
静かな呼吸だ。静かすぎてふと恐ろしくなる――目の前のウォルカは本当に生きているのか。呼吸が止まっているのではないか。そのたびに彼の手を取り、体を寄せて何度も何度も心臓の音を確かめた。
それ以外のことは、なにもできなかった。
老シスターが去ってすでに一時間、リゼルはただ目の前の現実に恐怖し、打ちひしがれるだけの存在になっていた。
まずは命が助かったことを喜びなさい、と頭の中で老シスターが言う。
ありえない。そんなのはただの身勝手だ。たとえ一命を取り留めたとしても、こんなにも変わり果てた彼の姿を見て喜ぶやつは頭がおかしいとしか思えない。
片目片足を失ってしまったら、冒険者としてもはや死んだも同然。それどころか、このさき人並みの人生を歩んでいけるのかどうかすらわからない。
天才的な剣の才を持ち、きっと輝かしく広がっていくはずだったウォルカの未来が、粉々に破壊されてしまった。
そしてそれは、他でもないリゼルのせいなのだ。
だってあの依頼を受けると決めたのは、パーティのリーダーであるリゼルなのだから。
「……ごめんなさい…………」
リゼルがあんな依頼を取ってこなければ。リーダーとして前もってダンジョンの異変に気づけていれば。いや、せめて『偉大で尊大な大魔法使い』に恥じない力さえあったならば、
目の前の現実は、変わっていただろう。
ぜんぶ、リゼルのせいなのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ…………」
リゼルは、ウォルカの魔法の師匠だ。
リゼルにとってはウォルカが、この世でただ一人の大切な弟子だった。
本当に、目に入れたって痛くないくらいかわいい弟子だったのだ。
そんな愛弟子の人生を、こわしたのは私。
私がバカなことを考えなければ、
私がもっとしっかりしていれば、
私がなにもできなかったから、
私が弱かったから、
私のせいで、私のせいで、私のせいで、私のせいで、私のせいで、
「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ……………………」
――傍らにあの老シスターがいれば、あるいはリゼルを叱咤し諭せていたかもしれない。
しかし現実はそうならなかった。徹夜の大仕事を終えた彼女はすでに部屋を去り、ユリティアとアトリはまだ戻ってきていなかった。結果リゼルは、ウォルカの人生を壊してしまったのは自分であり、自分がなにを
光を失った瞳で、リゼルはただ同じ言葉を繰り返し続けている。
もし、人の心が目に見えるものであったなら。
このときリゼルの心はきっと、ぐちゃぐちゃに変質していくいびつな影の形をしていたのだろう。
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