F級冒険者とA級冒険者②

 迫り来る5つの火球を避けながら、俺は思考の回転を早めた。


「っ、」

(どうする? このままだと、ジリ貧もいい所だな)


 何回か火球に当たったものの、【火炎耐性】のおかげで少ない損傷で済んだ。しかし、それを長時間続けてさえいれば大きさ損傷と確実になってしまう。



 ───ならばどうするのか? 答えは後手に回るのではなく先手に回れさえすればいい。


『ガル!?』


 長剣ロングソードを手に持ち、素早く駆け抜け武器を振るい。E級モンスターさえも手応えを与える一撃を、ヘルハウンドは………


(くそっ、流石に硬すぎる!?)


 毛皮は切り刻んだものの、肝心な皮膚は一切斬れなかった。


『ガルゥゥゥ!』

「ちっ!?」

 反撃とばかりの噛み付き。本来ならば肉体をえぐる攻撃を、長剣ロングソードでギリギリ受け流しもう一度距離を置いた。


(火炎魔法に、剣の一撃をも防ぐ皮膚………か。やっぱり、彩花あやかの言う通りだったな)




 モンスターの階級(F〜S)は、レベル制で決められていて───

 F級は1〜10、E級は11〜20、D級は21〜30…………のように、レベル10ごとに区切られている。


 ならば疑問が湧くだろう。何故、ヘルハウンドはレベル13にも関わらずD級なのか? と。

 ───だが、理由は単純だ。ヘルハウンドが元々持っている基本能力スペックが強すぎて、D級の下位として喰い込んでいるのだから。



「はぁぁぁ、しょうがない。魔法・・はあんまり得意じゃないがやるしかないな」


 このままでは勝てない。そう思い俺は、全身の魔力を1箇所の武器に収束させ───


2重デュアル付与魔法エンチャント───【暴氷剣ウィンドエイジ】」


 剣から発せられるのは、風の刃に周りを凍てつかす程の冷気であった。








『グルゥァウ!』

「どうした? 思い通りに行かなくて、鳴き声が変になってきているじゃないか!」


 火炎魔法対策フレア・アンチマジックである【暴氷剣ウィンドエイジ】の効果により、火球を完全に封殺。そして、俺は更に先手を決め続けた。


「ちっ!」

(ヤバいな。魔力が持たないのかもしれない)


 付与魔法エンチャントは、詠唱無しで直ぐに使う事が出来る魔法。確かに詠唱無しという事は、レベル差が離れた強敵にさえも有効的だ。

 ───だが、その代償として圧倒的に魔力消費・・・・が大き過ぎる。


「ハァァァァ!」

『グルァ!?』


【縮地】を用いての、背後を取る危険行為。慎重に戦うのならばこんな愚行は犯さないだろう。

 ───だが、そんな事をしたら時間が足りなさ過ぎる。だからこそ、短期決戦狙いなのだ!


『グルァァァ!』


 悪あがきとばかりの、ヘルハウンドから出た火球。咄嗟とっさの事で俺は反応出来ずに当たってしまった。

 だが───


『スキル【火炎耐性】の熟練度レベルが、1→2、2→3と上がりました』


 突然聞こえた機会音。一瞬、何だと思ったものの、俺はそのままヘルハウンドの首筋を狙い………


「俺を焼き殺したいのならば、ドラゴンでも連れてこい」


 一言そう呟き、長剣ロングソードで一閃。

 ───刹那、ヘルハウンドはちりと化し魔石へとかえられた。






 結城ゆきしろ光星こうせいは、確かには弱者だ。

 だが、レベル1がヘルハウンドを倒したように、結城ゆきしろ光星こうせいは『チートじみた化け物』である。

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