現状把握

冒険者ギルドのロビー。

建物の中は、本部で無いもののとても清潔感に溢れていた。



「これで『シリウス』さんも、冒険者になったッスね?」

「いや、まぁそうなんだが………」


1人は『認識阻害のローブ 《S級》』を着て、もう1人は腰に拳銃をしっかりと掛けながら話をしていた。


「お前の言った通り、殆ど何も聞かれなかったな。強いていうならば冒険者用のニックネームを決めるだけだったが………」

「だから言ったじゃないッスか。心配しなくても大丈夫ッスよ? て」


彩花あやかは、光星こうせいの『冒険者カード』を返しながらもう1回詳しく説明をした。


「そもそも、冒険者は利益関係でなっているんッスよ。住所? そんなものは一切要らないッス。───用は、モンスターさえ倒せばいいんッスよ」


そう言いながら、A級冒険者である東雲しののめ彩花あやかはF級冒険者である結城ゆきしろ光星こうせいに笑顔で言った。











☆☆☆

遡る事、3日前。


「そんな、事が………あったん、ッスね」


彩花あやかはただ呆然と呟いた。───しかし、それもそうだろう。何せ俺の口から出した過去は、刺激が強すぎたからだ。


「………………まぁ、気にすんな。今は『日常』を過ごせばいいだけの話だ」

「で、でも! ───!?!? せ、先輩!?」


ぐいっと、心配する彩花あやかの頭をかき寄せ………


「〝狂愛の後輩 〟」

「せ、先輩〜〜〜!?」


冷静にさせる為に言った言葉は、彩花あやかの黒歴史にした。






「コホン。では、気を直………せは出来ませんッスけど、『10年後の現在』について話をするッス」


内心では未だに気に掛けているが、それは後でいい。『知りたい』のはどちらも同じなのだから。


「へ〜、10年かぁ…………は? 10年!?」


彩花あやかは、それもそうかという顔で。しかし、表面上は冷静さを保ちつつ説明を続けた。


「魔力、モンスター、ダンジョン。世界はありとあらゆる非現実的なものが、突然出現したッス。そして、後々それらを支えるのが───」

「『ステータス』だろ?」

「そうッス。けど、もう1つ支えているものがあるんッスよ。───【炎槍フレアランス】」


手に虹色の光が収束し。しかし、そう認識したと思った瞬間───手から炎の槍が出現した。


「これってまさか………」

「先輩が思っている通り、もう1つって言うのが『魔法』ッス」


炎の槍があちこちに移動したかと思うと、次には頃合と思い消された。


彩花あやかの技術は素人の俺から見ても、確かに凄かった。しかし、今はそこではなく………


「え、俺………魔法は出せないし、そもそも魔力の操り方なんて分からないぞ?」

「そこんとこは大丈夫ッスよ」


次の瞬間、ズドォォォン! という音と共に、どこからともなく出現したのは大量の本であった。


「『魔法の本』。一応として『スキルの本』もあるッスから………覚えろ」

「は? その量、普通に無理に決まって───」

「覚えろ」



先程の黒歴史をまだ気に掛けていたのだろう。彩花あやかは過去1番の笑顔で、俺の言葉さえも貫き通した。


そして、ここからの俺は『色んな意味』での地獄が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る