閑話・東雲彩花の過去と現在

 小学、中学、高校……。先輩はどんな時でも、私にあらゆる楽しさを教えてくれたッス。


 ある日は勉強という楽しさ。ある日は会話という楽しさ。───それらは全て、『日常』の楽しさに繋がっているッス。


 だから私は感謝した。だから私はそんな先輩に憧れた。




 ……………………しかし、先輩との別れは突然だった。











 ☆☆☆


 学校の廊下。人目があろうが、私は大声を出して言い続けた。


「どうしてッスか! 貴方達ならば、何か知っているッスよね!」

「「「…………」」」


 詩音しおんあかね志乃しの。そんな3人は、私の言葉にただ無言を貫いていた。


「ッ、しらばっくれるな!! 『あの場所』に貴方達が居た証拠はバッチリあるんッスよ!」



 先輩は『ダンジョン発生』に巻き込まれた。───普通のダンジョンならば、行方意不明扱い方になるだろう。


 だが、先輩が巻き込まれたのは『チュートリアルダンジョン』だ。

 他のどのダンジョンよりも圧倒的に生存率が高い。だからこそ、私は先輩を直ぐにでも助けたい!


「早く言えッス! 先輩が『チュートリアルダンジョン』のどこに居るのかを!!」

「…………何を言っているのか分からないな」


 私の言葉に反応したのは、詩音しおんだった。


「お前の動画にある通り、私達は確かに『ダンジョン発生』に巻き込まれた。………が、光星こうせいとは最初・・から離れ離れだったから、どこにいるのか分からないな」

「ふざけ───」

光星こうせいは行方意不明になっているんだぞ? 探すだけ無駄だ」


 詩音しおんの目はいつもと違っていた。冷徹な目、残酷な目。───そして、『何かを知っている』目をしていた。


「ねぇねぇ、詩音しおんの言う通り死人・・を探すのは無駄だよ?」

「ッッ、友人を死人呼ばりして!?」

「でもさ〜、実際にそうでしょ〜?」


 話に割り込んできた、あかね志乃しのの言っている事は正しい。正しすぎる。


 私は反論も言えず、ただその場で俯く事しか出来なかった。


「…………用が無くなったのならば、私達はもう行くぞ」


 目の前の3人は、光星こうせいを抜きに生徒会室へと向かって行った。
















 ☆☆☆


「ふふっ、先輩の服を買っておいて正解だったッスね」


 上下の男性服を手に持ち、彩花あやかはベランダに居た。


「───しかし、先輩はどれ程辛かったんッスかね………」


 光星こうせいは笑っていたものの実際はただの強気に過ぎない。

 幾ら精神が強かろうが、所詮はただの人間。過去トラウマには勝てないものだ。


 しかし、それは彩花あやかも同様。光星こうせいが居なくなった日から、食事さえろくに喉に入らなかった。


 ───だが、そんな過去はもうどうだっていい。何故ならば、お互いに会えたからだ。



(さて、そろそろ行くッスかね)


 洗面所の前へと彩花あやかは移動し、元気よく大声を出した。


「先輩! ちゃんと、先輩に合った服を置いとくので、それを着てくださいッス!」



 今更だが、訂正ッス。私は先輩に憧れているッスけど、大好きでもあるんッスよ?

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