無限牢獄の攻略

「ハァハァ」


 1日、10日、1ヶ月、1年………。

 一体、十体、百体、千体………。


 何年の長い時間が経ったのか、何万体のモンスターを切り殺そうとしたのかはもう考えてもいなかった。


 ただ、いつの間にか機械的作業に変わっていた。


「っ、ハァァァ!」

『グゲゲゲ!?』


 ゴブリンの短剣ショートソードを弾き返し、一閃。相手を真っ二つに斬ろうが、俺は臆さず次の標的へと移り変わろうとした。


 ───だが、今日この日。運命の歯車は明確に動き出した。



「……クソ、まじかよ」


 目の前にある赤色の球体───通称〝ダンジョンコア〟は、必ず規則性上のモンスターしか生み出さない。


 だが、そこから生み出されたモンスターは、今まで出会ってきたモンスターよりも威圧が凄く。いつの間にか目の前は火の海と化していた。

 そして……


『グルアァァァァ!』

「なッ!? しまっ───」


 その巨体では考えられない程の速さスピードで、俺は反応さえ出来たが壁に叩きつけられた。


 ───理由は単純明快。結城ゆきしろ光星こうせいとドラゴンでは、基本能力スペックの差が違いすぎただけだ。


(痛い、苦しい、疲れた。いっそこのまま死んでもいいんじゃないのか?)


 突然の裏切り、休みがない戦闘、迫り来る死の音。………一般人ならば、意図も容易く精神が壊れるだろう。


(───いや、それだけは違うよな!)


 それらに耐え抜いてきたのは何の為だったのか? ………その理由こそが、『日常』を欲していたからこそだろがッ!



 1歩。また1歩、結城ゆきしろ光星こうせいは前へと走り出した。











『グルアァァァ!』

「っ、そりゃあドラゴンだから、ブレス程度は出せるよな!?」


 口から放たれた、タングステンをも溶かす高音のブレス。完全なる初見技ではあったものの、長年の培ってきた直感でギリギリ回避できた。

 そして、ブレスを放った事で起きる準備期間クールタイムを、光星こうせいは見逃しはしなかった。


 だが………


(くそっ。このドラゴン、皮膚が固くてろくにダメージが入らないな!?)


 全力の一振で斬ろうが、ドラゴンは微動だにせず。ただ、かすり傷程度にしか思っていなかった。


「チッ!」


 ドラゴンから距離を置こうが、所詮はただの1時しのぎ。このまま火で丸焼きになるか、爪で切り刻まれるかの2択になってしまう。


 ならばどうするのか? 勿論もちろん、答えは決まっている。


「…………」


 1呼吸置き。覚悟を決めた顔で、光星こうせいは剣を構えた。


『グルルオォォォォォォ!』


 ドラゴンは本能的な直感で攻撃を繰り出そうとした。………だが、もう遅すぎた。


「ハァァァァァァァ!!」


 剣から放たれたのは、ドラゴンの巨体を遥かに上回る斬撃。


『ぐ、グゴァァァァァ?』

「ハァハァ。………お前は強かった。が、敗因があるとすれば年季の差だ」


 ドラゴンは文字通り、絶命した。相手は確かに強かった。だからこそ───


 代償があまり・・・・・・にも大きすぎた・・・・・・・


「ッ!?!?」


 突然の口から出た血反吐。


 ───だが、それもそうだろう。傷だらけの身体で限界を超えた一撃。逆に、今まで身体が壊れなかった方がおかしい位だ。


(あぁ、これは流石に無茶しすぎた……か)


 受け身を取りもせず、バタンという音をして床に横たわってしまった。


 …………意識が海底の奧深くへと沈みこまれようとした瞬間───




『チュートリアルダンジョンの裏・無限牢獄を攻略しました。

 それにより、攻略特典として「世界の本(極)」・「認識阻害のローブ (S級)」ユニークスキル【自己再生 Lv1】が与えられます』


 という機械音が、静かに響き渡っていた。

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