最終章 「さらば、シェアハウス」

第41話 「省吾くんの憂鬱」

8月13日 夕方



「「ただいまー!!」」


 陽葵ひまりと声をそろえて、シェアハウスの玄関を開ける。

 実家からの長旅を終え、ようやくシェアハウスに到着した。

 分かっていたことだがやっぱり遠い!!

 陽葵が隣にいたので道中で退屈することはなかったが、途中で休憩を挟みながら移動をしていると、やっぱり思ったよりもずっと時間がかかっていた。


「来たな、リア充ども。早く帰れ」


 玄関正面の和室にいた省吾くんからいきなり辛辣な言葉が飛んでくる。 


「あれ? 皆さんは?」

「雅文とあねごは明日には戻ってくるって、大家さんたちは俺と入れ替わりにお盆で戻っていったよ」


 省吾くんが、めんどくさそうに俺に返答した。


「……ところで省吾くん、それは何やってるんで?」

「あ゛゛!?」


 省吾くんがチンピラみたいな言い方で俺に返答する。

 よく見ると、省吾くんは和室のテーブルに画用紙を広げて何かを一生懸命書いていた。

 

「いや、こんなに堂々とやっといて、それ気にならないほうがおかしくないですか」 

「ラフ書いてんだよ、コンクール用の。いいから邪魔すんな」


 チラッと上からその画用紙を見ると、鉛筆で簡単にシェアハウスの全景と辺りの自然を描いた、いい感じ絵ができていた。

 ってか省吾くんって絵うま!!


「親父に認めてもらうために次のコンクール頑張らないといけないんだわ」

「へ、へぇ……」


 お盆に実家に帰って何かあったのだろうか。

 省吾くんからは、いつものチャラ男オーラはどこへやら並々ならぬ気合を感じる……!

 これは本当に邪魔しちゃ悪いやつだ!!


「しょ、省吾さん、ご飯はどうしますか?」

「んー? テキトーでいいよ」


 陽葵が省吾くんを気遣って声をかける。

 その省吾くんはというと、じっと真剣な顔で机の上に集中していた。


「ったく! お前らを見てると憂鬱になるから早く散れ!」


 しっしっと省吾くんが虫でもはらうかのように手を振る。


「なんで憂鬱になるんですか……」

「手を繋いで帰ってきてカップル見て、憂鬱にならない独身男がどこにいるんだ!!」

「あっ」


 思わず、急いで陽葵と繋いでいた手を離した。

 陽葵も少し赤くなっていた。


「くそぅ、春斗め。これ終わったら絶対ぶっ殺すからな」

「ただの八つ当たりじゃないですか!!」


 省吾くんが俺に対する負のパワーをメラメラと机の上に向けていた。




※※※




ブォォォォォ


 

 ドライヤーにスイッチを入れ、風呂上がりの陽葵の髪をドライヤーとくしで乾かしていた。

 何日かぶりに陽葵と二人きりで自室でくつろいでいた。

 気持ちよさそうに陽葵が目をつむっている。


「なんか今日の省吾くん、真面目だったな」

「すごく真剣な顔してたね」


 陽葵と先ほどの省吾くんの様子について話をする。


「結局、絵描きとかデザイナーさんとかになりたいのかな省吾くん」

「省吾さんに直接聞いてみたら?」

「気軽に聞ける雰囲気じゃない……」

「確かに……」


 ま、どうせ省吾くんは省吾くんだから、そのうち聞けそうだったら聞いてみよう。


「ところで、何日にあっちに戻る?」


 陽葵の学校の予定もあるので、ここにいるタイムリミットを一応確認しておく。


「んーとね、学校が二十日はつかくらいから始まるから三日前の十七とかには帰りたいかも」

「オッケー、じゃあそのつもりで俺もいるから」

「うん」


 そうなると、実質ここに居られるのは残り三日ほどだった。

 よく考えたら、ここにいられる時間はもうそんなに長くはなかった。


「……なんかちょっと寂しいな。私もここに色々思い出できちゃったから」

「そうだな」


 もちろん俺もここに色んな思い出が出来ていた。

 ここに来なければ、もしかすると陽葵と付き合ってなかったわけで……。

 そうなると、どうなってたんだろ?

 多分、気持ちのうえでいい方向には転がっていなかったと思う。

 

「よーし! 残り三日! できるだけ遊びつくそうぜ陽葵!」

「おーー!」

「よし! そうと決まれば明日に備えて早く寝よう!」


 陽葵の髪を乾かし終わり、ポンっと陽葵の髪を撫でる。

 

 いつも通り、部屋の真ん中に布団を敷いて寝る準備に入る。

 今日は運転も疲れたし、気持ちよくぐっすり寝れそうだ!


 パチッと電気を消し、俺も陽葵もぞもぞっと布団に入った。


「……寝ちゃうの春斗くん?」


 布団に入ってすぐに陽葵が俺に声をかけてきた。


「……今日は疲れたから寝るよ」

「えーー」


 陽葵がこっちの布団にもぐりこんでくる。


「折角、久しぶりに二人きりになれたのに」

「そうだけど、これからはずっと一緒だろ」

「えへへへ、そりゃそうだけどさ」


 陽葵が言いづらそうに昼間のことを聞いてきた。


「わ、私、多分春斗くんがお母さんからもらったやつ知ってるよ? た、多分だけど」

「……ちなみになんだと思うの?」

「こ、こんどー……」

「ストーーーップ!! やっぱり分かったから言わなくていい!!」


 さすがミニオカン、何でも知っていた! 

 いや、高校生にもなればみんな知っているか……!!

 陽葵の口から、その言葉を聞きたいような聞きたくないような複雑な感情が入り乱れる。だって今は彼女だけど、陽葵のことは本当に小さいころから知っているわけで!


「私はいつでもいいからね、えへへへ」


 そう言うと、陽葵が俺の唇にちゅっと優しくキスをした。


 ぐっすり寝れそうだったのに、結局もんもんとして眠れなさそうな夜になってしまった。

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