第13話 「野菜も食べないとダメだよ」

「ねぇねぇ、ヒマリってハルトのどこが好きなの?」


 陽葵ひまりが佳乃さんに捕まって尋問を受けている。


「えっと……えっと、かっこいいところとか優しいところとか」


 陽葵が佳乃お姉さまに尋問を受けている。

 なんだか、女の花園に迷い込んだみたいで少し居心地が悪い。

 佳乃お姉さまは何だか人と人との距離が近い人みたいで、やたら陽葵とくっついてる。

 

 ……二人がくっつけばくっつくほど、その戦力差が明らかになるわけであって。

 陽葵にも佳乃お姉さまの豊かな資源を分けてあげられたらいいのになぁ。


「春斗くん今なにか失礼なこと考えてなかった?」

「何も考えてません!!」

「……ふーん」


 こ、こいつエスパーか!

 急に思わぬ矛先がきてギクッとする。


「ねーねーハルトはヒマリのどこの好きなの?」

「……恥ずかしいので言いたくないです」


 こっちにも佳乃お姉さまの尋問がとんできてしまった!

 お姉さまと言えど、そんなの人前で言えるかっ!


「春斗くん……」


 ぐっ……。

 陽葵が何かを期待するような目でこちらを見ている。

 だからその目に弱いんだって!


「……可愛くて、優しいところです」

「もっと色々あるだろー?」

「面倒見がよくて……」

「他には―?」


 鬼だ!このお姉さまは鬼だ!

 ちゃんと言ってるのに全然許してくれない!

 ちょっとだけ警察官に尋問される人の気持ちが分かる!誰かカツ丼持ってきてくれ!


「他にはー?」


 佳乃お姉さまが少年のような目でこちらにきらきらとした視線を向けてくる。


「……心配性な子なので俺が守ってあげたくなったんです。誰にも陽葵のこと取られたくなくなったんです」

「ひゅ~~」


 うぅ……恥ずかしい。

 なんで今日初めて会った人にこんなこと話さなければならないのか。


「えへへへ」


 恥ずかしいので陽葵のことをちゃんと見ることができなかったが、陽葵の笑い声が聞こえてきた。


「良かったなヒマリ!」

「はい!」


 女の子同士すっかり打ち解け、二人の会話がはずんでいる。

 俺はさっきの会話が恥ずかしかったので殻にこもりたかった。


「よーし! ショーゴが戻ってくる前に庭に色々用意しとこう! 頼んだぞハルト、ヒマリ!」

「はーーい!」


 陽葵がご機嫌に返事をする。


「道具はどこにあるんですか?」

「んーー? 倉庫に全部あるはずだぞ?」

「そ、そうですか」


 あれ? お祝いされる側なのに自分たちで準備するの? と、一瞬思ってしまったがお姉さまには口がさけてもそんなこと言えないので黙っておく。


「よし! 春斗くん、準備しちゃおうよ!」


 何故か機嫌が直った陽葵が俺の手を引っ張った。




※※※




「「かんぱーーーーい」」


 日が沈んで少し薄暗くなったころ、 パーぺキューパーティが開催された。

 みんなはお酒を飲んでいるが、俺と陽葵はまだ未成年なので二人でオレンジジュースを飲んでいた。


 準備係 俺と陽葵

 買い物係 省吾くん

 総指令 佳乃お姉さま


 総指令は俺たちの準備ができるまでお昼寝をしていたようです。


「ま、雅文さんお疲れ様です!」

「……お疲れ」


 一番気の毒だったのが雅文さんだった。

 バイトに行っていたのに、急ぎで呼び戻されたのだ。

 朝も早かったので、その顔には大分疲れが見える。


「大丈夫ですか?」

「つ、つかれた……」


「なんだよーマサフミ! もっと飲めよ」


 プシュっと缶ビールを開けて佳乃お姉さまが雅文さんに詰め寄る。

 あ、あれ? さっき乾杯したばかりじゃ……。


「ショーゴも飲めよー!」

「嫌ですよ! あんたに付き合ってるといつも吐くまで飲まされるんだから!」


 わいわいと三人で飲んでいる。

 今はこの三人のシェアハウスだったと聞いている。

 仲がいいんだなぁと少し羨ましくなる。


 はっ! しまった! こうしている場合じゃない!


「佳乃さん! お肉焼けました!」

「お~ありがと」


 バーベキュー台の網の上にどんどんお肉を乗せていく。

 お姉さまにお肉を献上するためにどんどん焼いていく。


「お、お前のこと初めて凄いと思ったわ、そんなに喜んで人に使われるなんて」


 省吾くんがやや飽きれ気味にそんなこと言ってくる。


「……平和に過ごすためにはこれしかないんです、省吾くんだって分かるでしょう」

「まぁな……」


 変なところで省吾くんと意気投合してしまった。



「ほらー春斗くん、野菜も食べないとダメだよ」


 そんな俺たちの気苦労をよそに、陽葵が俺の皿にどんどん野菜を入れていく。


「……バーベキューで野菜食べるのは邪道じゃない?」

「ダメだよ、バランスよく食べないと」


 そんな陽葵オカンの皿をみると、肉がのっておらず野菜しか入ってなかった。

 そんなことを何も気にする素振りもなく美味しそうに焦げた玉ねぎをもぐもぐ食べている。


「あれ? 肉食べないの?」

「みんなでお肉食べてたらすぐなくなっちゃうかなって思って」

「なんだ、そんなこと気にしてたのか」


 今度は俺が陽葵の皿の上に肉をいっぱい置いていく。


「わわっ、こんなに食べられないよ」

「陽葵は色々気にしすぎ、省吾くんがいっぱい買ってきてるから食べても大丈夫だって。肉好きだっただろ」


 そう言えばこいつはいつもそうだった。焼肉のときだって、鍋のときだって、自分のことは二の次だった。


「えへへへ、優しいね春斗くん」

「普通だって普通」

「ほら、春斗くんもあーん」


 俺が入れた肉を箸で取ってこちらに差し出す。


「は、恥ずかしいんだけど……」

「いいから、あーん!」


 観念して陽葵のハシをパクっと口に入れる。


「えへへへ」


 満足そうに陽葵がニコニコしてる。

 何か悔しいのでこちらも陽葵に肉を差し出す。


「ほら陽葵、あーん」

「あーん」


 陽葵はパクっとすぐに俺のハシを口に入れた。

 こ、こいつなんの抵抗もなく! 恥ずかしがらせたかったのに!


「んー! おいしー!」


 陽葵は顔をとろんとさせ幸せそうにしている。


「何かいいね、こういうの」

「こういうの?」

「誰かにお祝いしてもらえるのって」

「あっちはあっちでただどんちゃん騒ぎしてるだけのような……」


 向こうに目をやると、佳乃さんを中心に賑やかにしている。

 確かに名目上は俺たちのお祝いだったのでその気持ちは本当に嬉しかった。


「春斗くん私ね、嬉しかったの」

「なんだよ、そんなにお祝いしてもらったの嬉しかったのかよ」

「んーそれもあるけど、それだけじゃないよ」


 えへへへと陽葵が笑っている。

 よく分からないがすごく楽しそうしているので、それを見て俺も満足してしまった。

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