十話

 時は少し遡る。人気の無い森の中で「それ」は起こった。


 ピィー。 ピィー。 ピィィー……。


 鵺の鳴き声に似たような音の後に眩い光が生じ、光がおさまると何も無かった場所に二間(約3.6メートル)を超える鋼鉄の巨人が二体現れていた。


 二体の鋼鉄の巨人は頭部を見回した後、自らの胸部の装甲を左右に開いた。すると巨人の中からくたびれたスーツを着た二十代の男が出てきて、もう片方の巨人の中からは薄汚れたジャケットを着た十代の男が姿を出てきた。


「ダンさん、ここって何処なんでしょうか? 僕達って確かさっきまで倉庫で機体の整備をしていましたよね?」


 ジャケットの男が周囲を見回しながら聞くと、ダンと呼ばれたスーツの男も周囲を見回しながら答える。


「分からん。どこを見ても立派な樹木ばかり……まさか金持ちしか入れないリゾート地に迷い込んだんじゃねぇだろうな? どうすんだよ? 入場料なんて払えねぇぞ? おい、ブレット、お前立て替えとけ」


「無理ですよ!?」


 ダンが面倒臭そうな表情でそう言うと、ブレットと呼ばれたジャケットの男が大声を出す。


「セレブ御用達のリゾート地の入場料だなんて僕だって払えませんからね!? というかダンさんが今月の給料まだ払ってくれないから僕、全くお金ないんですよ!」


 どうやらブレットとダンは何らかの仕事をする雇用関係にあるようだが、まだブレットはダンから給料を貰っておらず、その事をブレットが言うとダンはやはり面倒臭そうな表情で明後日の方向を見ながら返事をする。


「金なんて俺だってねぇよ。しょうがねぇだろ? ここ最近、仕事が無かったんだからよ。払いたくても払えねぇ……って、そうだ! 仕事! 明日の昼……いいや、もう今日か!? 久しぶりに報酬が良い仕事があるんじゃねぇか!」


「ああっ!?」


 ダンが面倒臭そうな表情から一転して焦った表情になり叫ぶと、ブレットも思い出したのか顔を青くして大声を出す。


「おい、急いで帰るぞ! とにかくまずはここの座標を調べろ! 何でここにいるかとかは後だ!」


「わ、分かりました! ………あっ!?」


 ダンの指示にブレットは自分が出てきた鋼鉄の巨人、ロボットに乗り込んで内部にあるレーダーを操作し始める。するとその直後ブレットは再び大声を出して、何とか知り合いに連絡を取ろうと自分のロボットに乗り込み通信装置を操作していたダンに話しかけた。


「ダ、ダンさん!」


「うるせぇな! 今度は何だよ!?」


「い、今気づいたんですけど、カノンちゃんの反応が何処にもありません!」


「はぁっ!?」


 大声を出すブレットに怒鳴り返すダンだったが、ブレットに言われて自分もレーダーを確認して、そこで初めて自分達の仲間が一人足りないことに気づいた。


「マジでカノンの機体の反応が何処にもねぇ……! おい、カノン! この馬鹿娘! 一体何処にいやがる! さっさと出てきやがれ!」


「おやおや。これはまた随分と賑やかな方々のようですね」


 自分達の仲間が機体に乗っていない可能性もあるので、ダンはロボットの外部音声を音量最大にして周囲に呼びかける。そうしていると一人の男が森の奥から現れて、ダンとブレットが乗るロボットに近づいてきた。


「っ!? 誰だ。………!?」


「………!?」


 ダンとブレットの二人は森の奥から現れた男の姿を見て言葉を失うと、機体の通信装置を使って男に聞こえないように会話をする。


「お、おい、ブレット? アイツ、どう思う?」


「どう思うって……。失礼だけど、とても怪しい人に見えますね……」


「やっぱりそう思うよね? ダンさん、戦場を渡り歩く歴戦の傭兵とか、スラムの武装難民とか、テロリストとか、所持してるだけで捕まるヤバい武器を売り捌く武器商人とか、いろんな知り合いがいるけどさ、そいつらと同じくらい怪しいよ」


「……一度ダンさんの交友関係を詳しく聞いてみたいですけど、怪しいという点では同意です」


『『………』』


 そんな会話をした後、ダンとブレットは再び自分達の前に現れた男を見る。二人の前に現れた男は、着物の上に外套マントを羽織り、鳥のような仮面で顔の上半分を隠している格好をしており、その姿からはなんとも言えない怪しい雰囲気が感じられていた。

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