三話

「落ち着いてください。俺は怪しい者じゃありません」


「いやいや。それはちょっと無理があるんじゃねぇの?」


 銃を向けられたライゴウがその場で立ち止まり両手を上げて言うと、二十代の軍服を着た男が苦笑を浮かべてそう返した。


(あの人は確か……アレックス・スペンサー大尉だっけ?)


 アニメの主要登場人物の一人で、主人公が乗る新型機動兵器の輸送任務を請けた地球の軍人で、若くして人型機動兵器のエースパイロットと知られている。主人公が新型機動兵器に乗ることになると彼と一緒に宇宙の軍隊と戦い、一緒に行動するうちに主人公のいい兄貴分となっていった人物である。


 ライゴウはアレックス達の近くにある二体のロボットに視線を向ける。二体のロボットのうち一体は主人公が乗る新型機動兵器で、もう一体がアレックスが乗る人型兵器なのだろう。


 正直二体のロボットをもっとじっくりと間近で見たいライゴウだったが、今はそれを我慢して再びアレックス達に話しかける。


「それでも俺の話を聞いてくれませんか? 多分、貴方達の今の状況について説明できると思いますよ?」


「それって一体どういうこと?」


 ライゴウの言葉に十代の気弱そうな少年が聞いてくる。


(彼は……トウマ。御剣トウマ。まさかあのロボットアニメの主人公を実際に見れるだなんて……)


 元々は普通の学生だったのだが、数々の偶然が重なって新型機動兵器の操縦士となり、これが切っ掛けで数々の戦闘を経験することになるアニメの主人公。


 当然アレックスと同様アニメで何回も見た顔なのだが現実で見るとなると話は別で、思わずライゴウがトウマの顔を凝視すると、トウマは不安そうな表情となる。


「あ、あの……?」


「ああ、すみません。少し考え事をしていました。……一応確認なんですけど、貴方達は少し前までこことは別の場所にいませんでしたか?」


「っ!? 何でそれを?」


 ライゴウの言葉にトウマだけでなく他の男女も驚いた顔となり、先程ライゴウに銃を向けていた軍服を着た女性が口を開く。


「ほう……? どうやら私達の状況について説明できるという言葉は少しは信用しても言いかもしれないな?」


(御剣ナツミ……相変わらず厳しい言い方だな)


 御剣ナツミはアニメの主人公である御剣トウマの実の姉で、アレックスと同じく新型機動兵器の輸送任務を請けた地球の軍人である。若くして有能な軍人で実際はとても家族思いなのだが、真面目すぎる性格と厳しい言い方のせいで周囲から誤解されやすいという設定だったのをライゴウは思い出す。


「それで? 私達が突然この場所にいるのは一体どういう理由なんだ?」


「はい。結論から言いますと、ここは皆さんが元いた世界とは違う異世界で、皆さんはこの世界に転移してきたんですよ」


 ナツミの質問にライゴウが答えると、彼女は不機嫌そうに目を細める。


「貴様……ふざけているのか?」


「え? いえいえ! ふざけてなんかいませんってば! 本当ですって!」


 ちなみにナツミは今も手に構えた銃をライゴウに向けており、銃を持った彼女が不機嫌になったのを見てライゴウは必死に自分がふざけていないと訴えるのだが、ナツミだけでなくこの場にいる全員が疑わしそうに彼を見ていた。


「異世界に転移なんてとんでもない話、信じられるわけがないだろう? 本当だと言い張るのならここが異世界である証拠でも……?」


 ピィー。 ピィー。 ピィィー……。


 ナツミの言葉の途中で突然、鳥の鳴き声のような音が聞こえてきてナツミは周囲を見回す。


「何だこの音は? 鳥か?」


「この音は……。まさかまた百機鵺光が起こるのか?」


「百鬼夜行? 一体何を言って………!?」


 一人呟くライゴウにナツミが問い詰めようとしたその時、彼らの近くで眩い光が生じた。


 そして光がおさまると、光が生じた場所には三体の人型兵器の姿があった。

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