二話

 彼、松永ライゴウは「地球」という異世界で生まれ育ち、一度死んだ記憶を持つ「転生者」である。


 ライゴウの前世であった人物は、何の特徴もない何処にでもいる平凡な人物であったが、ただ一つだけ周囲とは異なる点があった。


 それはロボットアニメの大ファンであるということ。最新の作品はもちろん、自分が生まれるよりも昔のロボットアニメも観ていて、恐らく彼が知らないロボットアニメはないだろう。ロボットアニメ以外にもロボット系の漫画やゲーム等も大ファンで、過去にはロボットのプラモデルのコンクールで入賞したことだってある。


 ちなみに前世の死因は、様々なロボットアニメに登場するロボット達が戦い合うというシミュレーションRPGの最新作を買った帰り道で車にはねられたという交通事故。


 そんな前世を持つことから、ライゴウは初めて百機鵺光の話を聞いた時に異世界からやって来るからくり仕掛けの巨人がロボットであると確信して狂喜乱舞し、この世界に転生できたことを「二重」の意味で感謝した。


 百機鵺光のことを知ったライゴウは、いつか異世界からやって来るロボットと出会えることを夢見て、この世界に転生して今日までの十数年間ひたすらに自分の持つ「力」を高めてきた。


 そして今日、ライゴウはついに念願の百機鵺光の現場に遭遇し、異世界のロボットをその目で直接見ることになったのである。


(それにしてもあの二体のロボット……)


 木の陰に隠れながら様子を見ていたライゴウは、木々の向こうにある二体のロボットに見覚えがあった。


(間違いない。あれは前世で見たアニメの機体だ)


 ライゴウは前世で観たロボットアニメの一つを思い出す。


 そのロボットアニメは、人類が宇宙に生活圏を広げる程に科学技術が発達した地球を舞台にしたアニメで、その地球では地球で暮らす人々と宇宙で暮らす人々の間で戦争が起こっていた。そして地球の軍隊は自分達が保有する宇宙居住地で極秘裏に新型機動兵器の開発をしていたのだが、そこに宇宙の軍隊の襲撃を受けて、その戦いに巻き込まれた主人公がいくつも偶然が重なって新型機動兵器の操縦士となるというのが大体の話だ。


 両膝を地面に着けて待機している二体のロボット。それは確かにアニメに登場して機体名がタイトルにもなった新型機動兵器で、ロボットの近くにいる十人の男女もアニメに登場する登場人物達で間違いなかった。


(まさかアニメのロボットと登場人物がやって来るだなんて。……だけどこれは俺にとってこれ以上なく好都合だ)


 前世で何百回も観てきたアニメが現実のものとなったことに思わず驚くライゴウだったが、すぐに心の中で笑みを浮かべると彼はアニメの登場人物である十人の男女に接触をすることにする。


「ちょっとよろしいですか?」


「だ、誰……ひっ!?」


「何だコイツ!?」


「そこで止まれ! お前は何者だ?」


 ライゴウが草木をかき分けて十人の男女の前に出て話しかけると、十代の女性と男が驚きの声を上げて、二十代の軍服を着た女性が明らかに警戒した表情で拳銃を向けてきた。


(あれ? もしかしなくても思いっきり警戒されている?)


 話しかけただけなのにいきなり警戒されたライゴウは内心で首を傾げるのだが、十人の男女が彼を警戒するのには二つの理由があった。


 一つ目の理由は、十人の男女はつい先程いきなり自分達が元いた場所から見たこともない場所に移動したため、突然の出来事に神経質になっていたこと。


 二つ目の理由はライゴウの格好である。現在彼は黒い衣服の上に頭部まで覆い隠せる外套を羽織っており、更に顔には「面頬」という顔の下半分を隠す金属製の仮面のようなものを装着していて、その姿はどこから見ても怪しいとしか言いようがない。


 気がつけば見覚えがない場所にいて不安となっている人間の前に、明らかに怪しい格好をした人間が現れれば警戒されるのは当然のことだろう。


 しかし当の本人であるライゴウはそのことに全く気づいていなかった。

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