第4話ナツカという少女

次の日も、僕は昼から図書室へ行った。


すると、あたかも先にきて本読んでます。

風なナツカが、椅子に座っていた。


「おはよ」


「おはよ、ヘイジ。いつも決まった時間に来るね」


僕が図書室に来るのは12時45分だ。


特に理由はないが、お昼ご飯を食べてから学校にくるとこんな時間だ。


「まあ、ルーティーンみたいなものだよ」


「いつもクールだよね、ヘイジって」


「いつもって、昨日会ったばかりじゃないか」


呆れたように言うと、ナツカは悪戯な笑みを浮かべて「そうでした」と言った。


ナツカは、鈴を探すよりもいろんな本を自分に開けさせては読ませるということのほうが多かった。


「懐かしい、ヘイジこの本開いて」


「はいはい」


そうすると、輝いた瞳で食い入るように小説を読み始める。


「ヘイジ、次」


「こら、鈴探し忘れてない?」


ナツカは罰が悪そうに、笑って「ついつい」といって、舌を出して謝った。


なんだか、本当に憎めない人…

てか、幽霊ということを忘れるくらい楽しい。



小説の話しを共有したり、ちゃんと鈴探ししたり、毎日、図書室へいく楽しみが増えて、次第に図書室へ行く理由がナツカへ会いに行くという目的に変わっていることに、気づき始めた。


「あれ?なんか、ヘイジ今日元気ない?」


いつものように、小説を開くのをねだられ、見せていると、少しぼーっとしていた僕を、ナツカは心配そうに見つめた。


「そんなことないよ、考え事」


「なに?考え事って、言ってみてよ」


どこか、今日のナツカはお姉さんっぽくみえる。


まあ、実際お姉さんなのだろうが…


「ナツカとこうして、一緒に小説読んだりするの楽しいんだよ。探し物して…そしたらさ、いつか、鈴見つけて、ナツカが成仏するのって、嬉しいけど、なんだろう…寂しいなって…」


情けなく自嘲する僕を、ナツカのほうが切なそうに僕を見つめていた。


「前にさ、私がどうして死んだのか聞きたいって言ってたよね?」


「ああ、でも、どうしても聞きたいわけじゃないよ」


ナツカは、一息ついて決意したように悲しそうな笑顔を浮かべた。


「そろそろ聞いてもらおうかな、私もね、そろそろだなって感じてたから」


その言葉を聞いた時、いつもよりナツカの姿が薄くなってきていることに、初めて気がついた。


「ナツカ…姿が…なんで…」


触れたことなんて、一度もないのに、消えかけているナツカを僕は何度も触れようとした。


その度に、すり抜けていく現実に、堪えきれず涙が流れた。


「ヘイジ、少し長くなるから、座って聞いて」


僕は言われた通り、椅子に座り、隣の椅子を引くとナツカも「ありがとう」といって、座ってくれた。


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ナツカの忘れ物 羽音衣織 @haneiori

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