第3話探し物探し
それにしても、何年まえかも分からない鈴をみつけるには、どう動いたらいいのだろう?
「ナツカの好きな本のジャンルは?」
僕の問いに、ナツカはキョトンとした。
「どうしたの、急に…」
「いや、ナツカの好きな本のジャンル近くとかにあったりしてって思って」
「なーるほど」
ナツカはまたおどけて見せた。
そして、はにかんだ笑顔を僕に向けた。
「恋愛小説」
「恋愛小説…」
図書室を見渡す。
当たり前だが、ここは学校の図書室であって、恋愛コーナーなんて設けられていなかった。
「どこだよ…」
「さあさあ、そんな絶望な顔してないで、頑張って見つけよう」
僕よりも生き生きとした表情でナツカは言った。
「じゃあ、よく読んでいた作家さんは?」
「山根モナ先生とか永里カザドリ先生とか…」
「ああ、山根モナ先生!僕も読んだことある。恋愛だけど、青春要素が多いし、読みやすいよね」
青春文学賞から出てきた作家さんで、言葉の繊細さが僕はとても好きだった。
「そうなの!私の青春時代は山根先生の作品読んで過ごしたって言っても過言じゃないの」
また目を輝かせて話すナツカは、少しの間大好きな作家さんの話を饒舌に話していく。
幽霊って、もっと怖い物だと思っていた。
というより、ナツカが死んだ人だと言うことが、今は実感ないと言ったほうが正しいかもしれない。
「わかる気がする。不安定だけど、ひたむきに自分を分かろうとしていろんな人と関わったり、動き出したと思えば、誰とも連絡取らなくなったり、こっちがハラハラさせられるというか」
「そうなのよ!私も熱中すると周り見えなくなるから共感できて」
僕たちはいつのまにか本の話で盛り上がっていた。
そして、気がつくと眩しかった日差しは、夕陽へと顔を変えて、オレンジの光を下校する時間だと言わんばかりに、僕の顔を照らしてくる。
「もう、夕方か…そろそろ帰らないと」
「楽しかった。久しぶりにこんなに誰かと話した。みんな、普通じゃ私のこと見えないでしょ?」
「確かに、なんで見えるんだろう?僕、霊感とかないのに」
「理由なんてないさ、会うべく時に必然のように出逢いがやってくるのだよ」
「山根モナ先生の『たそがれ』の一文だろ」
「さすが、ヘイジだね。文学少年」
「まあ、会うべくする時なんだろうな。なんだか腑に落ちたよ」
僕たちは笑い合って、
「また、明日」
と言い合って、帰っていった。
友達なんていない僕が、また、明日の約束ができるなんて、そんな些細なことで、胸が弾んだ。
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