第14話進む道へ
仕事が終わり、いつの間にか外は雨が降っていた。
「あれ?今日から雨だっけ?」
悠平さんは外を見て呟き、カバンから折りたたみ傘を出した。
広げてみたものの、明らかに一人しか入れない。
「これじゃ、ダメですね」
そう、照れたように笑う顔が、あどけなくて、私まで微笑んでしまう。
「コンビニで傘売ってますよ」
「そうでしたね」
私が傘を買いにコンビニへ入ろうとした時、
「母さん」
その声に、私は血の気が引いた。
振り向いたら、暁人が傘を持って私たちを見ていた。
ふと、悠平さんを見つめると、悠平さんも呆然と暁人を見ていた。
暁人は、厳しい表情でこちらに向かってくる。
一番バレたくなかった。
息子に、担任と関係があるなんて…
「暁人。どうしたの?こんな夜遅くに…」
「雨…の音聞こえたから」
暁人は悠平さんを見つめた。
「母さんと付き合ってるの?だから、俺にこんなに親身になってくれてたんだ」
「違う!悠平さんは、私があんたの母親だってことも知らなかったの」
「どういうこと?」
「お母さんね、遊び歩いてたの。それで、悠平さんと知り合ったの。でも、今は遊びじゃなくて、今はちゃんと暁人の先生として支えてくれてる悠平さんが、本当に好きなの。お父さんより、一緒に暁人のことを考えてくれる悠平さんが好きなのよ」
そんなこと、息子に話すなんて、カッコ悪すぎる。むしろ、気持ち悪いと思われるだろう。
でも、この現場を見られて、言い訳もできない。
「なんだそれ、母親の色恋話とかキモいよ」
暁人は嘲笑うように言う。
無理もない、自分でも分かっていた。
「三上くん、君への対応は本当に先生としてだよ。分かってもらえないかもしれないけど、お母さんは本当に一人で君のことを考えて、一人で君を支えようとしていたんだ。そんな彼女を見て、改めて支えたいって思ったんだ」
悠平さんのまっすぐな言葉が、嬉しくて、涙が出てくる。
こんなにも心から支えてくれる人に、出会ったことがない。
「暁人、ごめんね。気持ち悪いって思われても仕方ないことだと思う。でもね…」
「俺が」
暁人は私の言葉を遮った。
「俺が、中学卒業するまで待っとけよ。どうせ、今バレたら、先生も悪くなるよ」
「三上くん…」
「勉強頑張るから、母さんが頑張ってくれてる分、真面目にやるよ。だから、バレるなよ」
そう言って、暁人は私に傘を差し出した。
「ありがとう、暁人」
私は傘を受け取りながら、暁人を抱きしめると、「やめろ、気持ち悪い」と抵抗されてしまったけど、嬉しかった。
「じゃあ、僕もこれで」
「悠平さん…」
「あの…」
「すぐに変われるものはないと思います。お互いに、もう一度、ちゃんと胸を張って一緒にいれるまで、僕は暁人くんの担任として居ようと思います」
その言葉が、悲しく感じてしまう私は、本当に欲深い女だ。
「はい、私もちゃんと自分の足で歩き出せるようになったら、もう一度、悠平さんに出逢いに行きます」
欲を押し付けるだけの、好き勝手いろんな男と遊ぶ軽薄な女からも卒業しないと!
もう一度、何も後ろめたいことがなくなった時、またこの人と純粋な気持ちで出逢いたい。
「萌香さん、頑張ってください」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
私たちは「おやすみ」をさよならの代わりに交わし、別々の道へ歩いていく。
私は暁人と共に家へ帰っていく。
今日が雨でよかった。
泣いてる顔をごまかせるから。
アプリで出会った不倫相手は息子の担任 羽音衣織 @haneiori
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