第2話息子の異変

私と彼は、事がおわると、あっさり

「またね」と、軽くキスをして別れた。


都合のいい時にしか会わない、またなんてないかもしれないのに、前回会った時もそうだった。


時刻は午後5時。

6時半に部活から息子が帰ってくるから、それまでに買い物へ行って、料理を作り始めなきゃ行けない。


今からの時間が一日の中で一番苦痛な時間だ。


それが上手くできるかで、今日の一日の終わりが不快なものになるかならないかによる。


不自由のないはずの一軒家に住む、旦那もいて、一人息子と暮らす主婦。


けれど、その家の中は冷え切っていた。


夕飯を作っていると、部活から帰ってきた息子の暁人が帰ってきた。


玄関でガチャガチャと音がして、いつもならリビングに顔出すはずの暁人がリビングになかなか入ってこないため、私は玄関へ向かった。


「暁人?帰ったの?」


すると、そこには俯いて玄関に座ってる暁人がいた。


様子がおかしい。

制服と鞄に砂がついている。


「どうしたの?」


私が暁人に触れようとすると、暁人の手が私の手を払う。


「ほっといてくれ」


そういって、顔を見ると、殴られたように傷ついた頬が痛々しく残っていた。


「何その顔…、分かった。今は理由聞かないから、手当だけさせてくれる?」


私の申し出に、暁人は逡巡しながらも、渋々リビングへ入ってくれた。


私は救急箱を持ってきて、消毒をしていく。


幸い、骨折とか大怪我にはなっていないようだが、どうみても転けたりして怪我する感じではない。


「父さん、何時に帰ってくる?」


「さあ、連絡なかったから今日も遅いんじゃない?」


「じゃあ、先に風呂入る。ご飯、部屋で食べるから持ってきて」


手当てが終わると、早速さと部屋へ行き、風呂場へ向かってしまった。


理由は今聞いても、きっと答えてくれない。息子の性格はわかっているつもりだ。


父親との仲も良くはない。


かろうじて、私とは話してくれることが、唯一の救いだが、扱いを間違えてしまったら、何も話してくれなくなってしまいそうで怖い。


喧嘩なのか、イジメなのか、なんだろう。


怪我をして、あんな深刻そうな表情で黙り込む暁人を初めて見た。


いつも、明るくて、バスケを頑張っているのに、朝は、笑顔で「いってきます」って、家を出ていったのに。


この日を境に息子の性格が変わってしまいそうな、そんな嫌な予感が私を蝕んでいく。


支えなきゃいけない立場なのに、弱気なことをすぐ考えてしまう自分も嫌いだ。


でも、このことは、旦那には知られなくない。


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