第3話

「やる、俺契約します」


 「よろしい、ではこの契約書にサインを」


 どこからか彼女が出してきた契約書は何重にも丸められており、注意事項やプライバシーなどが羅列され長文が続いていた。どこにでもあるもんだな、こうゆう同意書みたいなものは。

 いつもならさっさとチェック入れて済ますが、これは重要度が違う。きちんとせねば。

・・・

 「こ、これでいいですか」


 「んーっと、あはいこれで契約書はおっけーですね。」


 ふぅ、なかなかに長文だったが読み切った。

 契約書には引っかかる点は特になく、彼女が説明したことの詳細とプライバシーに関することが書いてあった。

 プライバシー部分には『他人にこの契約を話さないこと』と『これを破った場合即座に全ての寿命を回収する』と恐ろしいことが記載してあったが、今の俺にはこんなことを話せる人はいないので安心だ。


 「では、これが契約の契約者様控えです。」


 小切手くらいの大きさの控えを渡された。あの長文の契約書の控えがこんなんでいいのだろうか・・・


 「それと————」


 彼女が小声でそう呟いたのに気づかず、俺は控えに目を通していた。すると、なにやら左頬に生暖かくやわらかい感触がした。

 それは女友達すらできたことのない俺が感じたことのない感触で、唇を他者につける行為。———————いわゆるキッスというやつだった。


 「な、な、な、なにするんだ!」


 今まで出したことのない乙女のような甲高い声がでた。

 悪魔とはいえ可愛い女の子との初めての接触に俺の血は頭に上り、熱を感じる。今の俺の顔はさぞ赤いことだろう。


 「頬にキスされたくらいでその反応は少しきもいですね。これだから童貞は」


 狼狽えている俺をゴミを見るような目で彼女はみていた。

 あれ、何その反応。キスだよキス!。恋人同士とか好きな人へ告白の時にするキスだよ。まあ外国人はよくするらしいけど、ここは日本だから全然普通のことじゃないんだよ!

  

 「あ、あのー、今のキ、キ、キ、、」


 「はぁ〜、やっと終わったー」


 俺の声を遮り、彼女は大きく背伸びすると宙に浮いたまま肘を突き横の体制になる。それはまるで自分の家かのようにくつろぐ体制だ。


  「い、今のは・・・」


 「あ、勘違いしないでくださいね。今した行為は決してあなたが好きとかそういうラブコメ的な展開ではないですから」


  ん?


 「契約書にサインするだけで悪魔と契約できると思ってるんですか。アホですか」


 んん!?


 「いいですか。契約を結ぶのに最後に必要なのが契約者とその悪魔を繋ぐパスなんです。———そのパスというのがあなたの一部を私の体内に入れることだったので、仕方なくあなたの皮膚のほんの一部を取り入れてあげたんです。」


んんん!!??


 「本当ならマウストゥマウスの方が固く結ばれて私の力も大きくなるんですが!あなたみたいな人とマウストゥマウスなんて私が生理的に無理だし、気持ち悪いのでお断りさせてもらいましたー」


 なんかさっきより口悪くなってなーーい!?

 出てきた時はちょっと正直な天然美少女悪魔かと思ったが、今は部屋に寝そべってどこから出したのかポテチをつまみながら漫画を読んでいる状態で、その上悪態までつく性悪悪魔じゃないか。なんだこいつ

 ん、それよりさっきのキスが最後に必要なことだと言ったか。ということはもう契約は結ばれたということなのか?こんな性悪悪魔と?


 すると、ボツんっと本を閉じる音がする。


 「契約も完了したことですしさっそく使いませんか、私、悪魔の力を」


  んー、まあもう契約しちまったし試しに使ってみるか、どうせ50年は持ってかれるんだ短い人生を楽しもう。

 まず最初の願いだが、どうしたものか————


 「別に何でもいいんですよ。説明したと思いますが、あなたの器を超えるものは無理なので、あくまで現実的なものなら何でも大丈夫ですよ」


 「———なら、まずこのボロいマンションから庭付き一軒家に引っ越したいってのはどうだ」


 「あなたにしてはいい案ですね」


 いちいち癇に障る悪魔だな


 「・・・ああ?」


 「ん?」


 「いえ何でも、ではその報酬に対する代価を測定しましょう。出てきてー」


 彼女がそういうとボンっという爆発音と赤い煙とともに何やら長方形型のデジタル時計のようなものが出てきた。そしてその物体の時計とは違うところは長方形の中央に口のような唇と切れ目があるのと、これもまたコウモリのような羽があり宙に浮いている。


 「さあメタちゃん、さっそく測ってちょ!」


 「カシコマリマシタ。リリア様」


 やっぱりしゃべるのか。

 しゃべる箱はロボットのような発音で悪魔に従った。

 すると、箱の中央にある液晶パネルが0〜9までの数字を3桁まで映し出し、高速でロールし始めた。


 「ピロロロロロ」


 その音自分で言うのね。


 「ピコン。デマシタ」


  ドキドキと心臓の音が早くなる。


 「ダイカネンスウハ・・・・—————————————————ヤク一年デス」


 ————ってシンプル!!

 てかなんだよ『ヤク』って、その桁は何のためについてるんだよ!このポンコツめ

 

 ———ん?

 今彼女に睨まれたような気がしたが彼女はなにやらしゃべる箱、メタだっけかと話をしている。——俺の気のせいのようだ。


  「では、降魔(コウマ)禎使(タダシ)様。報酬の代価は一年ということになりました。この条件で大丈夫ですか?」


 安いのか高いのかわからないが、俺の死亡年齢まであと100年。100分の1と考えればそれだけで一軒家が手に入るのなら安いと俺は思う。

 だから———


 「おkだ」


 「お買い上げありがとうございます!!では1年寿命を頂戴いたします」


 彼女は満面の営業スマイルでそう言った。




  寿命・・・・・・・・・・・・・・残り99年

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悪魔取り憑きました! @soras

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