第2話 僕の引きこもり

 毎朝、姉さんに起こされて、起きることは起きるのだが、ベッドの上で躰を起こした状態のまま、そこから先、動けなくなってしまった。


 最初は学校の登校時間になると腹痛がしたり、あるときは頭痛がしたりして、原因不明の熱まで出した。


 姉に連れられていくつもの病院をハシゴしても身体的な異常が見つからず、最終的には大きな病院で心療内科へ行くことを勧められた。


「心療内科に行って、そこのお薬を飲んだら治るのですか?」

 噛みつくように医者にいうと、それきり姉は僕に学校へ行くことを強要しなくなった。


 僕は昼頃起きだして姉が仕事に行く前に作っておいてくれた、ラップに覆われたサンドイッチやオムライスを電子レンジでチンして、リビングのテレビの前で食べる。


 躰はだるくてもお腹はすく。


 奥様相手の昼のワイドショーを見ながらウツラウツラして夕方になる。


 学校が終わる時間になるとなぜか急に元気になってきて、姉が帰って来る前にシャワーを浴び、また自分の部屋に戻り、本を読んだりゲームをしたりして無為な時間をやり過ごす。


 夜は眠れないので、寝静まった家を抜け出してコンビニの雑誌コーナーへ向かう。


 僕の髪を見るたびに姉さんは言う。

「床屋へ行きなさい」


 だが、それも面倒くさいので、今では姉さんからもらった黒いゴムで一つに束ねている。


 いつの間にか濃くなった髭も剃らずにいるので、気難しいラーメン屋の店主か売れない芸術家風情。


 今日が何年の何月何日かもわからないような日々を過ごしていた。


 つい3日前のことだった。


「ユウちゃん、いつまでこんなことを続けるつもり、今日であなた、二十歳になるのよ、姉さんだって、いつまでもこの家にいるとは限らないのよ」

 会社から帰った姉がそう言うと僕の部屋の前の廊下に佇んだまま動かない。


 古家屋の廊下の床板は歩くたびにギシッ、ギシッと悲鳴を上げた。それが、ギッ、とも音を立てない。  

 ベッドに横になって本を読んでいた僕は少しギョッとしたが、それでも返事をしなかった。

 

 

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