引きこもり
オカン🐷
第1話 姉さんの引きこもり
姉さんが引きこもって3日になる。
それまでは僕が引きこもっていたのだが、立場が入れ替わってしまった。
あれは僕が中学生の頃のことだった。
両親が不慮の事故で亡くなり、それからは7歳上の姉が親代わりになって僕を育ててくれた。
ボンヤリと座っている僕の周りで次から次へと進行されていく両親の葬儀。
マイクから流れてくる葬儀社の進行係の男性の声は、いかにも沈痛な重苦しい感じがするが、生前の両親を彼は知らない。
焼香をすませ、姉さんと僕に挨拶して行く人の何人の人が本当に悲しんでくれているのだろう。
僕はその人たちとも面識がなかった。
おそらく父の仕事関係の人と町内会の人たちだろう。
祖父母は早くに亡くなり、父の兄もこの世を去った。
その伯父に娘がいたはずなのだが、伯父が亡くなってから付き合いも途絶えたままだった。
母は一人っ子だったので親戚と呼べる人はいない。
両親の葬儀の間中、僕は涙も見せずにそんなことばかりを考えていた。
僕が何をしなくとも段取りよく両親の葬儀は終わっていた。
いったい誰のための葬儀だったのか。
両親? それとも僕たち遺族?
僕は当時、高校受験を控えていた。
そのための塾通い。
夜も睡眠時間を削って勉強していた。
学校の試験では毎回学年のトップを占めていた。
いい高校に入るため、いい大学に入るため、ひいてはいい会社に入るため。
だがそれが何になる。
父は子どもの頃からよく勉強が出来たと祖父が言っていた。僕が小学生の頃まで生きていた祖父は、何度も僕に言って聞かせた。
「一生懸命勉強していい学校に行って、お父さんみたいにいい会社に就職するんだよ」
それを念仏のように聞かされていた僕は、そうするのが当たり前、そうするものだと思い込んで、一心不乱に勉学に励んできた。
父は会社でそれなりの地位にあって、部下の人たちが大勢葬儀に参列してくれた。
祭壇の横に飾られた花環も、僕でさえ知っている大手企業の名が連なっていた。
だから父はいい会社で働いていたのだろう。
そのために父は子どもの頃から努力して、その結果を得た。
だけど、人間なんて、あっという間に死んでしまい、その人生を虚しく終えるのだ。
いいを目指したところであっけないものさ。
両親の葬儀が終わり、その次の日から僕は学校に行くのをやめた。塾に行くのもやめた。というより学校へ行けなくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます