第35話 水路

「ルチル様」

「うん?」


 前を行くウンランの後ろからついていく私とエミリー。

 彼女がひそひそと私に語りかけてきたの。

 

「ウンランさんったら意地悪なんですねっ」

「何か考えがあるみたいよ」

「きっと土魔法を使えるんですよ。五行……でしたか? よくわからないですけど、土魔法みたいなのもあるはずです」

「そうだったらいいわね……」


 彼女ったら、ちゃんとウンランの説明を聞いていたのかしら。

 コアラさんに夢中で聞いていなかったに一票を投じたいわ。

 ピタリと立ち止まったウンランが前を向いたまま抑揚のない声で言い放つ。

 

「オレは土を操作する仙術を使うことはできん。すまぬな」


 喋ると何事もなかったかのようにスタスタと歩き始めるウンラン。

 エミリーはというと、目が泳いでいたので、彼女の手を引っ張って「ほら」と再び一緒に歩き始めた。

 コアラさんなら何でもできそうだけど、ウンランの考えの中に彼のことは含まれていないと思う。

 それならコアラさんに頼ればいいじゃないかって発言になるだろうからね。

 

 そんなこんなで小川のところまで到着したわ。

 小川に来ると魚を獲りたくなってくる自分はすっかりこの村での生活になじんできたんだなあと嬉しくなってきた。

 

「どうするの? ウンラン」

「ルチル。見事な要塞だった」

「あ、あれは、意図してないというか、やりすぎちゃったかもというか」

「あれほどの要塞を構築できるのなら、お手の物と思ってな」

「壁を使うの?」

「壁も使うが、小川から水を吸い上げ、蔦の壁で水路を作り、農地に供給すればいいのではないかと考えたわけだ」

「水を吸い上げる?」

「そうだ。水を吸い上げる筒のことを知っているか?」


 首を振ると、ウンランが地面に枝で図を描きながら説明を始めたわ。

 水は高いところから低いところに流れる。

 誰でも知っていることだけど、高いところに上に登り下に落ちる筒をおいて、低いところにもう一方の筒の出口が来るようにしたらどうなるのか?

 答えは、筒を通って水が流れ、低いところに水が移動するの。

 途中、筒の位置は高いところより更に高くなっているにも関わらず。


「仕組みは分かったわ。私の魔法で蔦の筒を作って小川より低い土地を筒の先にすれば水を流すことができるのね」

「そうだ。これならば土を掘る必要はない。だが、中に水泡が入ると水の流れが止まってしまうこともある。そこは気をつけねばならんがな」

「試行錯誤が必要ってことね。蔦の筒はいくらでも形を変えることができるわ。調整なんてお手のものよ」

「インプで高低差を調べていたのだ。筒の先はそれほど遠くない。筒を使って水を運ぶことはできるはずだ」

「事前に調べてくれていたのね! それでいけると判断して」

「まあ、そうだ。オレとて村の役に立つと宣言した限りは、やれることはやろうと思ってな」

「ありがとう! ウンラン!」


 彼の手を取りお礼を言ったら照れたのか顔を逸らされてしまったの。

 でも、移動する水という仕組みがあったのね。ひょっとしたら王都の噴水とかにもこの技術が使われていたりするのかもしれないわ。

 建築技術とかどのようなものが使われているのかなんて考えたことも無かった。

 もっといろんなことに興味を持っていたら、ここでも活かせたんだろうなあ。勿体ないことをしたわ、と考える反面、これだけ沢山の人がいたら色んな知識を集めることだってできそうだなとも思ったの。

 だってほら、みんなそれぞれ興味のあることが違うわけだし、そういうのってなんかいいよね!

 

「上手く行かぬ場合は、真人を頼るしかないだろう。かの者なら、汝への協力は惜しまぬはずだ」


 照れ隠しなのか、ウンランはそんなことをのたまってから枝をぽいっと捨てる。

 困った時のコアラさん頼み。彼なら何でもできそうだけど、なるべく自分たちの力でやった方がいいと思うの。

 だって彼は村の一員じゃないものね!

 もちろん、彼に頼らないといけない状況なら迷わず頼むわ。

 

「ウンラン。指示を出してもらえるかな」

「任せろ」


 再び枝を拾ったウンランの地面に描く図を参考に蔦の筒を構築する。

 筒から蔦の水路へ水を運び、農地まで伸ばせばいいのよね。

 そして――。

 

「できた!」

「ルチル様! すごいです!」

「二度目だが、凄まじいタオだな。まだ平気なのだろう?」


 「うん」とウンランに向かって頷く。

 次は泡が入らないように水を流さなきゃいけないのだけど……。

 

「な、何でしょうか」

「次はエミリーの番よ」

「私が? 何を?」

「蔦の筒の中に水を満たしてもらえるかしら。それをきっかけに小川の水が流れるようになるはずよ」

「はいい」


 城壁に続き、巨大な蔦の建造物ができてしまったわ。

 筒の長さはだいたい100メートルくらいあるのだけど、エミリーの水魔法なら中を満たすのもわけないわ。

 両手を組んだ彼女の魔法が発動すると、ごぼごぼと蔦の筒の中から水の音がする。

 

「水路のところまで行ってみましょう」


 三人でテクテクと蔦の筒と水路の接続口まで移動した。

 

 ドバッと筒から水が溢れてきたかと思うと、そのまま途切れることなく水が出てきている。

 水路の幅は50センチくらいと広くはないけど、水量的に十分な大きさみたいね。

 水路は農地のところまで伸ばしている。

 さっそく水路の先がどうなっているのか確認に向かう私たち。

 

 水路の終点からは水がちょろちょろと地面に向かって流れ落ちていた。

 このままだともったいないよね。

 

 円形のプールのような蔦を水の排出口に作って、プールからか水の排出口からかどちらかから水を運ぶことができるようにしたの。

 プールの壁の高さを少し低くしているところがあって、満水になった時はここから水が排出される仕組みとした。

 

「いきなり何かできたと思ったら、水じゃないか!」

「ルチル様の魔法……ありがとうございます!」


 何だなんだと畑作業をしていた村の人が集まってきて、口々に感想を漏らす。

 

 ◇◇◇

 

 番外編その4

 

 ここはルチルが暮らす世界とは別の謎空間。二頭身キャラとなった彼女らが勝手きままに語る空間である。


「村の様子が一変してきたわよね」

「はいい。すんごい要塞になりました」

「あ、あれは城壁、城壁なの」

「水路もすごいですよね!」

「誤魔化したわね……」


《ルルーシュ僻地の様子》

 ・村人が元に戻ったよ!

 ・村の北は農地だった。草を抜き、耕し始めたよ!


《襲撃》

 ・でっかい犬が襲撃してきたわ。怖い。

 

《村の施設》

 ・水路ができたよ!

 ・村を囲む城壁ができたよ! これでモンスターがきても安心……たぶん。

 ・ルチルとエミリーが住むお屋敷、お屋敷の果実は育ってるわ。ユーカリの木もすっかり大きくなったよ。


《もふもふさん》

 ・クレセントビーク 汚い声で鳴く

 ・コアラ 大賢者様

 ・トラシマ コアラのペット? 大きな猫

 ・インプ 有翼族の使い魔


「もふもふさんが増えてないですう」

「そのうち家畜も欲しいわよね」

 

《お仲間》

 ・ジェットさん 村外れに住む頼りになる人。風属性。

 ・ウンラン 有翼族。秀麗な顔。冷たい雰囲気。金属性。

 ・村の人いっぱい


《謎》

 ・ダイアウルフの襲撃原因はまだ分からないわ。

 

「順調よね!」

「はいい」


 ペコリとお辞儀をするルチルとエミリーでした。 

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