第33話 要塞化

 ダイアウルフの襲撃があり、広場で待っていた村人たちの元に戻ったの。

 騒然とした雰囲気にどうしようと悩んでいたら、ウンランがすっと宙に浮き、インプを全員自分の周囲に集めた。


「外敵がいないかインプが交代で空から見回る。インプとオレは繋がっている。外敵がいればすぐにルチルと共に事に当たろう」


 彼の宣言に村人は落ち着きを取り戻し、ルルーシュ僻地の警備を私たちにお願いできないかと請願してきたわ。

 私としては村に何等かの形で協力したいと思っていたから、引き受けることにしたの。

 ビリジアンウォールを見たピータサイトさんらから他の人に私のことを説明してくれたので、私が警備に当たることを不思議に思う人はいなかったみたい。

 村の人たちは生活ができるようにするために、道具の整備から畑の手入れとやることが山積み。

 農場を整備し種を植えてくれれば、私の魔法で一気に育成することだってできる。そこに至るまでは、村の人に何とかしてもわらなきゃね。

 王国内にあるコルセア村と異なり、ルルーシュ僻地では領主もいなければ村長もいない。

 村人がそれぞれ誰からの命を受けることも無く暮らしているんだって。

 だけど、ルルーシュ僻地全体として何かしなきゃらない時や最低限のルールを定める時には村人が集まって合議して決めるそうよ。

 村人全員が為政者である統治形態は平等で素晴らしいとは思う。だけど、国内の村で同じことをしようとしてもうまく行かないだろうなあ。

 

 統治や政治のことは嗜み程度に学んだだけだから、間違っているかもしれない……と前置きして。

 あくまで私の考えだからね。そこのところ、よろしくだよ。

 ルルーシュ僻地がこのような村人全員が参加する統治形態でうまく行っているのは、「生活がギリギリ」かつ「孤立している」からだと考えているの。

 村人の数だけならコルセア村とそう変わらない。

 だけど、コルセア村でルルーシュ僻地のような統治形態をとってもきっとうまくいかないわ。

 コルセア村は緊急事態となれば王国から騎士が来るし、王国に税も納めている。

 王国という巨大な組織の一つになっているから、税は支払うけどいろんな支援を受けることができるのね。

 そうなると、支援一つとっても選択肢が多すぎてまとまらない。

 村長みたいな人が取りまとめて、全体の方針を決めていかないと何も進まなくなっちゃう。

 ……という考えなの。

 

 ジェットさん、ウンラン、エミリーと私の四人は村の人たちが解散し始めるとお屋敷に戻ることにしたわ。

 テラスのところまで来て、座ると体の力が抜けちゃった。


「野犬だと思ったら、あんなのが来るなんて……」

「そうですよおお。腰が抜けちゃいそうになりました」


 涙目ながらもテキパキと紅茶を淹れてくれるエミリー。

 順番にカップにできたての紅茶を注ぐ姿はいつもの彼女だ。


「肝が冷えたぜ。稀にモンスターが農場まで来たことはあったが、あれほどの群れは初めてだ」

「長耳の仕業なら、何らかの動きがあるだろう。奴らの退却は意図的なものを感じた」


 ジェットさん、ウンランも思い思いの意見を述べる。

 群れじゃないにしてもやっぱりモンスターが来ることはあるのね。

 一方、ウンランの意見も気になるわ。彼の物言いからして、長耳が何かをした可能性が高まったということかしら。

 でも、まずは――。

 

「みんな、暗くなる前に一つやっておきたいことがあるの」

 

 三人に私のやりたいことを説明したら、一服したらすぐに行こうとなった。

 

 ◇◇◇

 

「魔力は大丈夫なのか?」


 ジェットさんが顎髭をさすりながら、柵をポンと叩く。

 柵の一部が崩れちゃった……。やっぱり、来てよかったよ。

 「大丈夫」と彼に頷いて、体の向きを変える。

 

 広がるはボロボロになった柵。

 ルルーシュ僻地をぐるっと取り囲むように設置されて……いるわけではなく、村の三分の一ほどを覆うに留まっているらしい。

 柵を作ろう、修復しようという話は何度も出ているみたいなのだけど、農作業が優先で木材も必要な柵に力をさく余裕がなかったそうだ。

 

「見える範囲、一気に行くわ! 緑の精霊ドリスよ。柵を覆い壁となって。ビリジアンウォール!」


 柵の杭が刺さった辺りからグングンと蔦が伸びてきて柵を覆っていく。スカスカだった柵はびっしりと蔦で覆われ頑丈な壁となったわ。

 この調子でルルーシュ僻地を一周しましょうかー。

 あっという間にルルーシュ僻地を一周したところで、はたと思いつく。


「そうだ。もう一つ思いついた!」


 壁を作る要領で蔦を操作して……なら術式はこうなって……よし!

 

「緑の精霊ドリスよ。蔦の力を! ビリジアンタワー」


 蔦がにょきにょきと伸びてきて高さ5メートルほどの壁となり、階段ができて最上部には床も形成されていく。


「物見か。こんなことまでできるのか。何でもありだな……」

「開いた口が塞がらないとはまさにこのこと……」

「ルチル様ぁー! すごいですっ!」


 以前の魔力量だったら、蔦の物見を作るだけでも全力だったと思う。

 今なら、もう一つ物見を作っても全然平気よ。


「もう一か所、物見を作った方がいいかしら?」

「んー。作っても人を置けないからな。それなら蔦の壁をもう少し高く厚くして、上から弓を射れるようにするとか。さすがにそれはきついか」

「いいアイデアね! そうしましょうか!」

「ま、まあ。徐々にやってくれ……」


 ジェットさんの額からタラリと汗が流れ落ちる。

 無理なんてしていないんだけど……。いきなり城壁ができていたらビックリするかもと懸念してくれているのかな。

 彼の勧め通り、じわじわと城壁に変えていくことにしましょうか!

 

 柵の整備をしていると、ジェットさんの家と村の間にある草原地帯で多くの村人を見かけたの。

 大きな岩が無かったからひょっとしたらと思っていたけど、どうやらあの草原が元畑だったようね。

 草を抜くだけでも相当な作業量になりそう。

 あ、でも。柵の外だよね、農場地帯って。ジェットさんの家の外側辺りにも蔦の壁を作った方がいいかもしれない。

 

 広場のところまで戻ってきたところで、ジェットさんに問いかける。

 

「ジェットさんのお家も入れて外にも壁を作った方がいいかな?」

「そうだな。そら防御面を考えると会った方がいい。でもな。外まで広げるとそれだけ護るべき場所が増えるだろ?」

「確かに……せっかく壁を作っても護れなきゃ意味がないもんね」

「んだ。いざとなれば壁の中に退避すりゃいい。真昼間にモンスターが来ればこっちも気が付く。夜間の奇襲は全員壁の中だから問題ない」

「ジェットさんのお家は外にあるよね」

「俺か? 俺はまあ、風魔法がある。何かあれば気が付くさ。ガハハハハ」


 ジェットさんはこれまでも村外れで暮らしていたんだよね。

 だから、彼が大丈夫と言えば、大丈夫。うん!

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