第24話 しゃべったああ
「しゃ、喋った」
「喋りました」
「こいつら意思疎通できるのか」
三者三様で言葉を発する。驚きの原因は同じでみんな似たようなことを言っていて思わずくすりときたわ。
「人間以外に喋る生き物をみたのは初めてだぜ」
「私もです」
ジェットさんとエミリーの驚き様は私以上だと思う。
私は青みがかった灰色のもふもふ賢者様と出会っているから、お喋りするのは人間だけじゃないことを体験している。
よし、ここは先達の私がインプとの話を進めてみよう。
二人のことだ。すぐに驚きが収まり、いつもの調子になってくれるわ。
「私はルチル。あなたたちは?」
『オレはウンラン。オレたちが手を出したのだから、斬られても仕方ない。だが、どうか許して欲しい』
「いきなりね。井戸水に呪いをかけたのはあなたたちね」
『そうだ。すまなかった』
「二度と手を出さないと言われても、『はいそうですか』とは言えないわ」
誓うと言われても……ねえ。令嬢という育ちから、私の頭の中は結構なお花畑だけど、盗人がもうしないと言って解放してまた盗人にならない保障なんて一つもないのだから。
それくらい私だって分かる。
『そうだな。自らの姿も示さず、一方的に要求を。動転していた。すまない。インプたちは拘束したままでどうか殺さずにしておいてくれないか?』
「ずっと拘束したままというわけにはいかないし。食事も必要よね?」
インプの代表と会話しながら、あれ、何か噛み合っていないような……と違和感を覚えたわ。
何だろう。コアラさんとお喋りしている時に感じた前提がそもそも異なるようなあれよ。
『明日の昼までに、ここへ参る。もちろん一人でだ。兵を潜ませることはないと我が神に誓う』
「あ、分かった! インプたちは使い魔なのね!」
コアラさんが「使い魔」ということを言っていた気がする。
喋っているのは使い魔の主人でインプを通じてこの場所を見ているのね。
『そうだ。インプたちは我らの使い魔だ。深く繋がっている』
「使い魔とはどういうものなのか、使い魔を扱う術について、呪いの魔法について、洗いざらい喋ってもらうつもりよ。明日までは待つわ」
その先はどうなるのか、ということは敢えて言わなかった。
正直なところ、インプを全て仕留めるという選択肢を取りたくはない。甘い、甘すぎると言われちゃうわよね。
だけど、積極的に襲い掛かって来るモンスターは別として、降伏し害が無いモンスターをこの手で……というのが気が引けちゃうの。
できれば、平和裏に二度と手を出してこない、ということになってくれるのが一番。
これでいいのかな?
チラッとエミリーに目くばせしたら、「うんうん」と物凄い勢いで首を縦に振っていたわ。なんだかダメな感じがする……。
一方ジェットさんは顎髭をさすりながら意見をくれた。
「まあ、それでいいんじゃねえか。嬢ちゃんがすぐに解放すると言ってたら止めてたがな。ガハハ」
「さすがの私もそこまでお花畑じゃないわ」
「え、えへへ」
こめかみをヒクヒクさせてあからさまに動揺して、変な声を出しているエミリーは見なかったことにするね。
彼女の心持ちは彼女の中だけに仕舞っておくのがいいと思ったの。
じゃあ、撤収というところでインプたちの数を数えてみたんだ。すると、彼らは全部で15匹と思ったより少なかった。
赤い点が一匹につき三つで、動き回ると赤い点がブレて実際より多く見えるのかな?
コアラさんより一回りくらい小さいし、空を飛ぶ種族だけに軽いから15匹いてもお屋敷まで捕獲網を引っ張って持っていくことができたわ。(ジェットさんが一人で運んでくれたの)
「網の口を外すから動かないでね」
そう前置きしてから、ジェットさんとエミリーに捕獲網の口を緩めてもらう。
これでいつでもインプたちは外に出ることができるわ。
私の言いつけ通り、インプたちは身動きせず網の中に入ったままだった。
網の中だと窮屈だし苦しそうだから、外に出してあげようと思ったの。だけど、お部屋の中を自由に動いてもらうにも窓も扉もあるから不用心過ぎる。
そこで、私の出番となるのよ。
「緑の精霊ドリスよ。部屋を覆う壁を出して。ビリジアンウォール」
部屋の隅からスルスルと緑の蔓が出現し、絡み合って天井まで覆う籠になる。
ひし形の模様になるように蔦が籠を作っているのだけど、握りこぶしより小さな隙間だから脱出することはできないわ。
火の魔法でもこの蔦を燃やすことはできないし、ナイフでも傷一つつかない。これなら籠の中を自由に動き回れるから、網の中より全然快適よ。
「ほお。こんなこともできるのか。緑属性すげえな」
「ルチル様の籠、久しぶりに見ました! 感動です」
二人に褒められ、つい口元が緩む。内心、ビックリしていたんだけどね!
そう。魔法を使うたびに感じていたいつものことよ。籠の魔法だと今までは魔力量として一日に三度くらいが限界だったの。
それが、魔力を込めるのが難しいくらい僅かな魔力量で発動できる。
相変わらず外部魔力の魔力量は怖いくらいだわ。
この日の晩はジェットさんにお願いして、そのままお屋敷で泊まってもらうことになったの。
お客様用の部屋を準備しておいてよかったわ。ベッドもちゃんと綺麗にしておいたんだよ。エミリーが……。
私だってお掃除をしているんだから。外に一人で出ていた時があったじゃない。その時にエミリーがやってくれたの。
寝ててって言ったのに。でも、あの時彼女がお掃除してくれたから、こうしてジェットさんに泊まってもらうことができる。
今すぐではなくても、準備ってこういう時に役に立つから普段から何かと対応できるように準備を怠らないようにしなきゃ、ね。
なかなかできることではないのだけど……。
朝になり、一旦ジェットさんは自宅に戻った。彼はお昼までにお屋敷に来てくれることになっている。
私たちはインプを見てなきゃならないし、で、お屋敷の中かお庭で過ごすことにしたの。
例の汚い声で鳴く鳥は我が物顔で木の枝に留まっていたわ。他にも小鳥が果実を突っついていた。
私の足音が近づくとクレセントビーク以外はさああっと飛び立ってしまう。これが普通の反応なのだけど、あの鳥だけは気にも留めずに果物を丸のみしている。
でも、あの子にも感謝しなきゃ。窓をコツコツしてくれたから、インプの集まりに気が付くことができたのだもの。
そう思うと、あの大きな嘴も可愛く見えてくるものよね。
「グゲッゲゲ」
前言撤回。可愛くない。
顔をしかめたところで、待ち人
◇◇◇
番外編その2
ここはルチルが暮らす世界とは別の謎空間。二頭身キャラとなった彼女らが勝手きままに語る空間である。
いたずら好きの少年ヘリオドールが物静かな王子ギベオンの元で跳ねていた。
「なあ、なあってばあ。兄さまー」
「もう少しだけ待ってくれないか。もう終わる」
ギベオンは伸びた枝の剪定の真っ最中で、ボトリと落ちた小枝がヘリオドールの頭に乗る。
ぶんぶんと首を振って枝を落とした彼はぶううっと頬を膨らましギベオンを見上げた。
「終わったよ。どうしたんだい? おやつならテーブルの上だよ」
「おやつう……そうじゃなあああい。俺のこと忘れられてない?」
「可愛い我が弟のことを忘れるわけないじゃないか」
「そうじゃなああい」
ヘリオドールはあらぬ方向を向き、偉そうに腕を組む。
「俺の出番がない。ルチルを助けて大活躍するんだ!」
誰に向かって言っているんだか……。
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