第23話 つかまえた!

 ジェットさんと相談するといろんな案が出て来たわ。

 エミリーの水とジェットさんの風を合わせて、風で感知して水の膜で捉える、とかね。

 問題は近くにいないと魔法を発動できないこと。

 ずっと井戸の前で待ち構えているわけにはいなかいし、見つかっちゃうとインプが逃げてしまいそうで。

 どうしようか考えながらも、日課はこなしていかないとね!

 ユーカリの木を復活させる約束もしていたし、何か話が聞けたらとトラシマに運んでもらってコアラさんのところにも行って来たりしたの。

 気が進まなかったけど、これならというアイデアは出て来たわ。

 

 ジェットさん曰く、インプが来るとしたら今晩か翌日の晩だろうとのこと。

 呪いをかけたのがインプだとしたら、呪いが解けていることにも気が付いているだろうから、呪いをかけてから一番近い時間――つまり、今晩に見に来る説。

 もう一つは元々定期的に出没していたので、その日程に合わせる説。

 空ぶったとしても三日以内には会えるんじゃないかと彼は説明してくれた。

 私たちにも異議はなく、三日間、ちょっと頑張ってみようとのことで決めたの。その間に村人たちが元に戻ってくれるともっと嬉しいけど、呪いの件を解決してからの方がいいかもと思ったわ。

 

 一日目。

 もっとも有力だと考えていたので、日が落ちる前に眠り深夜に目覚める……予定が起きれなかったわ……。

 コンコンと隣の部屋で泊まってもらっていたジェットさんが扉を叩く音で目が覚めるという体たらく。


「そろそろ張るぞ」

「はい! すぐ出ます」


 エミリーをゆさゆさして起こし、三人で村へ向かう。

 インプの姿はまだない。

 風の魔法は感知に優れていて、ジェットさんの魔法で空からでも村に入れば感知できる……のだけど、魔法を使うことはやめにしたの。

 ほら、インプって外部魔力を感知できるほどじゃない。風魔法の網にも気が付くと思うの。

 そうしたら、逃げられて以後、警戒されてしまう。

 私たちが待ち構えていると知られていない初回が最大のチャンスなんだよね。だから、魔法は無し。

 エミリーにいざとなれば水の壁で護ってもらう手筈にして、ジェットさんは魔法ではなく弓を構えることにしたの。

 それじゃあ、わざわざ彼に泊まりに来てもらわなくてもよかったじゃないかって? それは、ほら、道中何があるか分からないし、別れて行動したら集合するのに戸惑うかもしれないじゃない。

 彼じゃなく私とエミリーが、ね。

 

 近くの民家の裏でじっと広場の様子を窺う。

 緊張でジワリと手に汗が滲んできた。

 

 あ、赤い三点の光が空に!

 声をあげそうになる口を閉じ、エミリーの口を両手で塞ぐ。

 彼女も同じことを考えていたみたいで私の口を彼女の両手が覆ったわ。

 「大丈夫よ」と彼女に目で合図すると、彼女も同じように目をパチパチさせた。

 同時に手を離し、再び広場へ集中する。

 狩に慣れているジェットさんは慌てず騒がず、弓に矢を番え動かず空を睨んでいる。

 

 一匹現れたと思ったら次から次へと赤い点が集まってきたわ。

 そろそろかなと思い、ジェットさんへ顔を向けると彼は小さく首を振り「まだ待て」と返す。

 更に赤い点が集まってきて、井戸の周りに集まったインプたちは一斉に動きが止まったわ。

 なるほど。真っ暗で目ではよく見えなくても、魔力の流れはハッキリと捉えることができるのね。

 インプから流れ出た魔力は井戸の中へ注ぎ込まれているわ。

 魔力の流れに意識を持っていかれていたら、エミリーの手が肩に乗り、ハッとなる。

 「行け」ということよね?

 二人に目くばせすると、「うん」と頷きが返ってきた。

 

 仕込みはおっけー。覚悟なさい。

 民家の裏から広場へ出る。後ろにはエミリー、右隣りにジェットさんが続く。

 インプたちはもう私たちに気が付いたようで、井戸に注ぎ込まれていた魔力の流れが止まった。

 

「逃がすものですか。緑の精霊ドリスよ。かの者達に力を注ぎ給え。ビリジアンパワー」


 緑の光がインプではなく地面に吸い込まれる。

 インプたちはもう空へと逃げ始めていた。

 

 ニョキニョキ。

 地面から蔦が伸び、次々とインプを絡めとって行く。

 既に空へと逃げていたインプより速く蔦が追いかけ、一匹残らずインプを捉えた。

 その姿に怖気が走る。嫌な記憶って中々薄れないものよね。

 そう、暗くて色こそ見えないけどあれは蔦の化け物よ。

 

「捕獲するぜ!」

「わ、私もお手伝いします」


 蔦に捕捉されたインプらを捕獲網に突っ込んで行くジェットさん。一応エミリーも恐る恐るインプに触れて、「きゃああ」と声を出しながらも一匹だけ捕獲網の中に入れていたわ。

 私は魔力の維持に集中している。残念だけど、インプを捕まえにはいけないの。頑張って、エミリー。

 この手は使いたくなかったわ……。試しにやってみたら、涙目になって「本当にやるの?」と一人わなわなしていたもの。

 覚えているかな? トラシマがイノシシと一緒に蔦の化け物――ツリーピングバインを持ってきてくれたことを。

 イノシシはトラシマが捉えてきてくれたものだったのだけど、ツリーピングバインは違ったの。あれはコアラさんがトラシマに持たせたものだったのよ。

 緑属性を持つ私にきっと役に立つからって。

 ツリーピングバインの種を魔力で成長させると、自分の意思で操ることができるようになる……とコアラさんの元へ行った時に教えてもらったの。

 それでね、お屋敷で試しに種にビリジアンパワーを注いでみたら、にょきにょきっと蔦が伸びてきて、慌てて魔法を止めたら種に戻っちゃった。

 今、私がやったことはツリーピングバインに「インプを捉えて」と心の中で念じて、魔力を維持しているだけ。

 ツリーピングバインの蔦はとても素早く動くから、インプを捕獲するなんてわけなかった。水や風の魔法で攻撃するならともかく、捕獲するとなれば一匹、二匹なら大丈夫だけど、四方八方に逃げられちゃうと難しい。

 だから、気が進まないけど、この手段で行くしかなかったの……。辛い。

 コアラさんならインプを捉えることなど容易いことだと思うわ。だけど、彼に頼ることはしなかったの。

 彼は私が解決できるように道を示してくれた。彼の力を借りるのじゃなく、彼によってより手間のかかることを選んでくれたんだ。

 私の力がつくようにとの彼の想いに応えなきゃ、せっかくの彼の教えが無駄になってしまう。私のためにもならないものね。

 ……正直、かなり迷ったのは秘密よ。

 

「全部捉えたぞ。もう解除しても大丈夫だ」

「と、捉えましたよおお」


 二人の声に対し、コクリと頷き魔法を解除する。

 すると蔦がみるみるうちにしぼんでいき、元の種へと戻った。

 

 ランタンを灯し、捉えたインプたちを三人で取り囲む。


「どうする? 全部駆除しちまうか?」


 ランタンの光に映るジェットさん。とても爽やかないい顔をしている。

 う、ううん。少し気が引けるわ……。

 

『待て。もう二度と手を出さないと誓う!』


 インプが喋った!

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