第二章 冷酷公爵の花嫁としての新たな日々②
やっぱり、
「ヨシュア? って、あ! あ! あ!」
直後、当たり前のようにビリビリと縦に手紙を破ってゆくヨシュアの行動に、私は思わず声を上げる。
「これまで、散々な
そして、手紙を見せたことに対して謝られる。
クラウスさんは、「ヨシュアのそういうところが好きなんだよねえ」と、げらげら笑っていた。今、理解した。この二人、性格の根本的なところが似てるんだ。
「まぁ、ヨシュアが良いなら良いんだけど」
ヨシュアに問題がないのであれば、結論はもう出たようなもの。
「よし、なら放置」
頭を
だから、ウェルグの王城に
なるようになる。たぶん。
そんな結論を出した数分程後。
やがて、どうしてか。
馬車の動きそのものが、完全に停止することとなった。
「……あれ? どうしたんだろう」
がやがやと
馬車に設けられた窓から顔を出して
「橋が、落ちておりますね……どういたしましょうか、ヨシュア様」
そこに、本来あるべき筈の橋。
それが何らかの理由によって
橋の
「それはどうしようもない。今からでも
「……崩落するようなヤワな橋ではなかったと思うんだが」
見る限り、十組くらいの商人らしき人達が立ち往生しながらどうしたものかと頭を悩ませているようであった。
「ねえ、ヨシュア。ちょっと、崩落してる橋を見てくるね」
落ちないように気を付けながら
橋の中央部分は、谷折りのように崩落していて、その
もしかすると、私で力になれることがあるかもしれない。
「〝シルフ〟」
その割れ目へと歩み寄った私は小さく一言だけ
大気を
でも、それだけで十分だった。
『ハイハイ。お呼びでしょうかねっ、て、おろろ? こりゃまた
森の奥のような、深緑に
少年のような姿であることに加え、
ウェルグ王家に伝わる〝精霊術〟であるが、その実、私達は〝精霊術〟を自在に使えるわけではない。
私達は常人より精霊に対する親和力が高いが
そして、彼ら彼女らにお願いをして、力を貸して
〝精霊術〟とは、有り体に言ってしまえば精霊にのみ許された
ただ、〝精霊術〟は魔法とは異なって基本的に何かに対して危害を加えない術しか存在しておらず、花を
けどその代わり、そこに当てはまることであれば、魔法のソレを遥かに上回るし、魔法と異なって、適性に
それが、私の知る〝精霊術〟だ。だから。
「ねえ、〝シルフ〟。これ、直せる?」
『おいらを
「これは?」
『この近辺に、〝
〝
それは、赤黒い
その全長は人をゆうに上回り、大きく
人の
「どういうことだ、それ」
『あ。ディティアの花ん時の子じゃん。随分とデカくなったねえ』
馬車を後にした私を追いかけて来たのか。
八年前、私がヨシュアと城を
だから、〝シルフ〟にはその時、ヨシュアの前で力を貸して貰っている。
それもあって、面識があった。
「ひ、ひと目で分かるんだ」
『精霊は人とは
私なんて声を聞いてもイマイチピンと来ず、明らかな答えでしかない言葉を貰って
一度、それも
『それで、どういうことか。についての質問だけど、こればかりは、言葉の通りとしか言いようがないね。この壊れた橋は、魔法によるものじゃない。誰かが、それこそハンマーでも持って力任せにドカン、と壊したんじゃないかな』
分かりやすく説明する
しかし、だからこそあり得ないと思わずにはいられなかったのだろう。
ヨシュアは物言いたげな表情を浮かべていた。
基本的に橋には保護系統の魔法が
だから、生半可な
「……あぁ、そう言えば、最近
そこに、クラウスさんまでもが話に交ざる。
〝シルフ〟の姿が
「一応、アルフェリア公爵領に僕が向かった理由の一つは、君らの関係が問題なさそうかどうかを見て来ることだったんだけど、実はもう一つあったんだ」
「もう一つ……?」
「うん。ここ一、二ヶ月程度の話なんだけど、
──黒く、大きな
「……俺はその話、初耳なんだが」
「ちょ、話はまだ
お前、いい加減にしろよ。
と言わんばかりに責め立ててくる視線に当てられてか。クラウスさんは必死に言い訳を重ねてどうにかヨシュアを
「……その本当かどうか分からない情報の出どころは、アルフェリアからは遠い場所だったんだよ。そして、その化物を見た時、黒い炭のような鉱石が辺りに散らばってたらしい」
「……それでお前、基本いつも出歩いていたのか」
「一応、これでもやることはやってたんだよ。それと、ただでさえお前がアルフェリアの当主になったばかりだってのに、
クラウスさんのその一言には、私も心当たりがあった。
政務を手伝う中で、何というか。引き
思えば、ウェルグで
だとすれば手が回っていないのも
『黒い鉱石に、黒い化物かあ』
「もしかして、〝シルフ〟は何か心当たりあるの?」
『んー。あると言えばあるような。ないと言えば、ないような。なんか、頭の
でも、
うーん、うーん、と
『まぁ兎に角、橋を先に直しておこうか。どうにも、困ってる人が結構居るみたいだし』
後ろにいた商人らしき人達は、冷酷公爵という呼び名のせいか。ヨシュアの姿を見て、たじろぎ、
〝シルフ〟はパチン、と指を鳴らし、
「……相変わらず、〝精霊術〟とは
〝シルフ〟の手を借りて橋の補修を行う中、
ウェルグ国内であれば、私の顔と名前が
にもかかわらず、私の後ろ姿だけで名前を呼ばれたことに
「あれ。なんで私の名前を……って、ドルクさん!?」
そこには、
彼の名を、ドルク・アンドリュー。
姉達に政務を押し付けられる中で仲良くなった人間の一人で、マスカレード商会と呼ばれる商会に所属している商人さんであった。
「……いやはや、橋の崩落でどうしたものかと困っていたのですが、まさかこんなところでメルト殿下にお会い出来るとは。あぁいや、今はアルフェリア
であれば、ノーズレッドにメルト様がいらっしゃっても何らおかしくはありませんね。
と、ドルクさんは言葉を
ドルクさんは政務の大半をぶん投げられていた頃から私とは交友があった。
そんな彼はどうしてか、
まるでそれは
だから私は、ヨシュアが
「ヨシュアは、冷酷なんて呼ばれてますけど、その実、
一瞬、
ドルクさんの表情は
私が本心からそう言っているのだと察してくれたのか、ドルクさんの表情は次第に
「ところで、メルト様達も王都に?」
この道は王都に続く道である。
ドルクさんはそんな
「あ、はい。えと、クラウスさんを王都に送り届けるついでに私は今回、同行させて
「クラウス、と
そこで私は
安易に王子であるクラウスさんの名前を出すべきではなかった。
そんな
「訳あってアルフェリアに
「そ、そういう訳です」
クラウスさんからの
クラウスさんありがとうございます……!
「成る
「マスカレード商会に、ですか?」
「ええ。
……もしかすると、ドルクさんは気を遣ってくれていたのかもしれない。
普通は、
になるんだろうけど、それが
ウェルグでの私の立場をなまじ知っちゃっているせいで、祝うに祝えなかった、みたいな。
なんというか、無性に色々と気を遣わせてしまって申し訳ないという気持ちに
「そうでもしなければ、私は
ですのでどうか、帰り
「……メルト様って、あのメルト様か?」
そんな中、ドルクさんの言葉を聞いてか。
また一人、
……あのメルト様って、どのメルト様なんだろうか。
「ディリーズ商会のもんです! あの時は、メルト様に救われたってうちの若いもんが言ってまして! ほんっと助かりました!! なんとお礼をすれば良いか……」
でぃ、ディリーズ商会?
は、はて。何か私したっけかな、と思案すること、十数秒。
「あ、もしかして、あの時の
「ええ! そうです! そのディリーズ商会です!」
そう言えば、二ヶ月程前。
ウェルグ王国のとある貴族に届ける壺が割れてしまっていた。
どうしようと右往左往していた青年が確かディリーズ商会の人間だったような気がする。
その際に、こそっと〝精霊術〟を
「あのバカタレ、よりにもよって貴族様への商品を傷付けるなど」
「……ま、まあまあ。
結局、そのことでは大事に発展することはなかったし、終わり良ければ
そして、それを皮切りに、「あの時はお世話になりました!」といった声が続々と聞こえ出し、それらの声に私は
……確かに、助けたいという気持ちはあったけど、根底にあったのは、ただ、
だから結構、お礼を言われるのが申し訳なくて。
でも、流石にこんな
「人気者だな」
「もしかしてメルトさん、その人気使って女王になることも出来たんじゃない?」
「絶対なりたくないです!」
ヨシュアに至っては、ふむふむと商人さん達の話に耳を
橋の補修さえ終われば。
そう思って〝シルフ〟に視線を向けるけど、
明らかに補修の速度が
……後で覚えてろ、二人とも。
この度、冷酷公爵様の花嫁に選ばれました 捨てられ王女の旦那様は溺愛が隠せない!? アルト/角川ビーンズ文庫 @beans
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