第二章 冷酷公爵の花嫁としての新たな日々①

「あぁ、自分がダメになっていくのが手に取るように分かっちゃう」


 アルフェリア公爵家にやって来てから早くも三日が経過しようとしていた。

 うわさの冷酷公爵様にとんでもないことをされてしまうんじゃないのか、という当初のねんはどこへ行ったのやら。

 何というか、散々に甘やかされていた。

 長年にわたってみ付いたくせによって、政務をがんろうと試みた私だったけど、ヨシュアからウェルグでは大変だったのだから休めと言われて一日目から政務の手伝いはいらんと宣告をされた。

 アルフェリアこうしやくていほうこうする使用人さん達に何かすることはないかとたずね回ってると、何故なぜか私は食堂に連れて行かれた。

 気付けば私は、何故か料理人さん達とおを作って味見ざんまいしていた。

 聞けばヨシュアに差し入れて欲しいとのこと。私が作ったやつだと言えば食べてくれると思うのでとか言われて一日目は何故か私はお菓子作りをたんのうしていた。ちやちや美味おいしかった。

 二日目こそと思ってしつ室をのぞくと、必要ないと言っただろとせいだいあきれられちゃったけど、どうにか説得をして政務の手伝いをという不思議過ぎる構図にわれた。

 だけど、そのお手伝いもすぐに終わって、これから過ごす場所なのだから少しぐらい知っておいた方が良いだろうと、アルフェリア公爵邸付近をヨシュアに案内してもらってその日は終わった。あと、ゆうがとても美味しかった。

 …………。

 必要とされてないってことじゃないのは、よく分かる。ただ、何というか、使用人さん達もふくめて、私を甘やかし過ぎじゃないだろうか。

 しかも、三日目の今日もその様子がちっとも変わる感じはしないし。

 取りえず、ヨシュアは冷酷公爵というつうしようをさっさと返上した方が良いと思うんだ。


「……しかし、〝せいれいじゆつ〟というのはすごいね。こうも簡単に植物を育てられるのか」

 生まれに生まれた自由な時間を利用して、何も植えられず放置されていたアルフェリア公爵家ほんていに位置する庭で、〝精霊術〟を用いて育て始めていた植物をながめる私に声がかかる。

 声の主は、ヨシュアではなく、ヨシュアの友人のクラウスさん。

 困ったことがあれば、クラウスに相談するとたいていのことは解決するぞ。なんてヨシュアに説明を受けたため、私的に彼は、何でも屋さんというイメージだった。

「川の水をれいにしたり、物を直したり、〝精霊術〟には色々なようがありますね。ただ、適度に使ってないとにぶっちゃうので、取り敢えずお花を育ててます」

〝精霊術〟のこく使かんべんして……!!

 とは言ったけど、まさか、いつさい使わなくて良いなどと言われるとは思ってもみなかった。

 なので、うでが鈍らないように、庭の使用許可を取って植物を育てさせて貰っている。

「ちなみに、なんの植物を育ててるの?」

 本来であればあり得ないスピードで生長している植物達。

 しかし、それでもまだ花はかせられていない。だから、クラウスさんはそう尋ねて来たのだろう。

 でも。

「それは、ですね……ないしよです」

 らすように言葉をめた後、みをけながらそう答えると、クラウスさんは、ええー、みたいならくたんの表情を見せる。

 でも、ごめんね。クラウスさん。

 これは、誰よりもまずヨシュアに教えたいから。

「まぁ、良いや。にしても凄いね。〝精霊術〟ってのは。ウェルグ王国の……精霊術師って言うのかな? 彼ら彼女らはみな、君ぐらいのことは出来るのかな」

「どうなんでしょう。ここ数年は、基本的に私が全部押し付けられて全部管理とかしてましたから」

「へえ……って、全部!?」

 加えて、政務も大部分を押し付けられていたので、本当にいつたおれてもおかしくないくらいの仕事量だったと思う。

 まぁ、根性でそこは何とかしてたけど。

「いや、まぁ、ヨシュアからとてもゆうしゆうとは聞いてたけどさ……全部って……ええぇ」


「──それで、メルト。用ってなんだ?」

 一人で声をらしながらおどろくクラウスさんをよそに、庭へヨシュアがやって来る。

 流石さすがこうしやく家本邸にしつらえられた庭。

 規模がかなり大きかったので、かかっちゃったけど、ようやく準備が整ったので私はこうしてヨシュアを庭へ呼んでいた。

「用ってのはね、これのこと。私達二人の再会といえばさ、やっぱりこれじゃない?」

 そう言って私は、視界いっぱいに広がる庭に植えた植物を見詰めながら、〝精霊術〟を行使した。直後、周囲に、りゆうのような小さな丸い光がとつとして生まれ、あふれ出した。

 もう、八年も昔の話。

 きらわれ者同士だったこともあり、周囲からの関心がうすかった私達は、何度かウェルグの城をしたことがあった。

「──ディティアの花」

 その時に見つけたのが、ディティアの花畑だった。

 溢れ出した光の粒子は、庭に植えられた葉にしんとうし、生長をうながして花を咲かせてゆく。

 黄色にひかかがやく花が、辺り一面を埋めくす。

「へえ」

 えんりよない〝精霊術〟の行使に驚いてか。

 クラウスさんはそばかんたんの声をあげていた。

『私で言えば、〝精霊術〟。ヨシュアで言えば、ほう。確かに私達があんまり良く思われてないのはこれが原因になってるんだと思う。でもさ、私達の力はこんなにも凄いものだよ。だから──私はほこるべきものだと思ってる。少なくとも、らないものなんかじゃない』

 そう言ってりあった過去をなつかしむ。

 ……もちろん、だからといってしいたげられて良いって訳じゃないんだけどさ。

 まだ花を咲かせていなかったディティアの花を、私が〝精霊術〟を用いて満開に変えて、花畑を作ってまんした過去が思い起こされる。

 そして、ヨシュアが初めて私にがおを向けてくれたのが、その時だった。

 だから、私達の再会にはこれが相応ふさわしいと思わずにはいられなくて。

「これからよろしくね、ヨシュア」

 手を差しべる。

 ヨシュアは花に対して驚いていたけどそれもせつ

 私が差し出した手をにぎり返しながら、

「ああ。こちらこそよろしくな、メルト」

 八年前とよく似たやり取りを交わした。

 くつたくのない笑みをかべ、私はこれからの日々に胸をはずませた。



「うーん。困った」

 私が、アルフェリア公爵領にやって来てから、早数週間。

 ヨシュアからあたえられていた私室にて。

 机に積み上げられた紙の束をめながら、私はため息混じりにつぶやいた。

 これが、ただの書類だとか、ヨシュアの政務の手伝いによるものであれば、何も問題はなかった。

 だが、私の目の前にあるそれは、手紙の山だった。それも、実家であるウェルグ王家や義母達と関係の深い貴族からてられたものばかり。

 勿論、中身は見ていない。

 どうせ手紙の中身はいやったらしい言葉のれつだろうし、無視を続けとけばいいや。

 と、放っておいたら、気付けばとんでもない量がまっていた。

 考えられる線としては、相当ひまなのか。

 それとも、私のことを心配でもしてくれてるのか。

 ……うん。後者は天地がひっくり返ってもあり得ないな。やっぱり前者だろう。

「一応、中身をかくにんするべきだけど、どうせろくなこと書かれてないだろうし」

 見て損することはあっても、見ないで損することはおそらくない。

 だったら、私は「見ない」せんたくをする。

「よし、処分しよう」

 ヨシュアにたのんで、ぼうっと火の魔法でひと思いに燃やしてもらおう。

 そう思いながら、私は机に積み上がっていた手紙を箱状の入れ物へと乱雑にめ込んでゆく。

 そんな折、ドアしに声をかけられる。

「今いいか、メルト」

「ヨシュア? どうしたの?」

 何故なぜかそこにはヨシュアだけではなくクラウスさんもいた。

 別に私個人としては、それは構わなかったのだけど、どこか引きった表情を浮かべるクラウスさんの様子が印象的だった。

「……一向に帰らないこのサボりを、そろそろ王都に送り届けるつもりなんだが……もし良ければだが、メルトもいつしよに王都に行くか?」

 ──あ、これヨシュアちょっとおこってる。

 だんよりも少しばかり低いヨシュアのこわから、私はそう理解した。

 確かに、クラウスさんはアルフェリア公爵家の人間、って感じがこれまでもどうしてかしなかった。

 だからちょっとしたかんいだいていたんだけど、さきほど、ヨシュアの口から言い放たれた「一向に帰らない」「サボり魔」という言葉のおかげで何となくだけど事情をあくしてゆく。

「……良いの?」

「良いも何も、敵国のりよじゃあるまいし」

 あきれられる。

 いくら和平の証とはいえ、あんまりアルフェリア公爵領の外を出歩かない方が良かったりするのかなとか思っていたから、少しだけその返事は意外だった。

「それに、メルトがアルフェリアに来てから、政務をずっと手伝って貰ってたし、その礼もしておきたい。だから本音を言うと、用がなければついて来て貰いたい」

「おーっと。そういうことなら僕はおじや虫になっちゃうよね。うんうん。僕のことは放っておいて良いから、二人とも楽しんで……いだだだだ!! 耳! 耳引っ張るのはナシ!!」

 そそくさと「それじゃあ!」と、手を上げてその場を後にしようと試みるクラウスさんだったけど、ヨシュアにすぐ様かくされていた。

 どうにも、王都に行くにあたって、クラウスさんの同行はひつであるらしい。

「政務がいやだからって、いつまでもアルフェリアに居ようとするな。王城にもどって王子としての責務を果たしてこい」

「そ、そうは言っても、ちゃんと君達が仲良くしてるかを見届ける義務が僕にはあって」

 ……その発言で、色々とてんがいった。

 どこかクラウスさんに親近感があったのは、私と似たような立場の人間だったからなのだろう。

 加えて、そんなクラウスさんがアルフェリア公爵家に居た理由は、私とヨシュアの関係を見届けるためであったらしい。

「その仲が問題ないことを、王家の人間に伝えに行くついでにサボり魔の王子を一人へんきやくしにいくだけだ。何もおかしな部分はないだろう」

「……そ、それは」

 ヨシュアこいつじゃだめだ。話にならない! 助けて、メルトさん!

 クラウスさんのすがるようなひとみが、私に向かってそう強くうつたけていた。

 確かに、ここ数年、王城で政務に追われ続けていた私は人一倍理解が早い人間だと思う。

 思う、んだけど。

「クラウスさん。あきらめもかんじんだと思います」

 ここにいる私は、すべてを諦めて三人分の政務をこなしていた人間である。

 明らかに、クラウスさんはたよる人間を間違えていた。

「……そ、そうだね」

 私の全てを諦め切った遠い目を前にして、クラウスさんも何か思うところがあったのか。

 何故かすんなりとこうていしてくれた。


 それから数十分程経過した後、クラウスが観念しているうちに王都に向かってしまおうというヨシュアの考えに従って、私達は馬車に乗り込んで王都へ向かっていた。

「仲、良いんですね二人とも」

 観念してはいるものの、やっぱり王城へ戻ることが嫌なのか。最後の最後までていこうを見せてだつそうを試みようとするクラウスさんを馬車に放り込むヨシュアの姿を目にした私は、つぶやく。

 一応、私も王族だったからだろう。

 王子とこうしやく家当主という立場のちがいがあるにもかかわらず、ヨシュアとクラウスさんのあいだがらは、旧知の仲。兄弟。親友。そういったものに見えた。だから、口をいてそんな呟きがれ出ていた。

 だけど、彼らからするとあまりおもしろくない言葉だったのか、二人して険しい表情に移り変わってゆく。

くさえんだな」

「腐れ縁だね」

 数秒ほどなやんだのちに出てきた言葉は、二人して同じものだった。

 だから、「やっぱり仲良いじゃん」と思って、つい、くすりと笑ってしまう。

 でも、そんな私の反応が不服であったのか。

 ヨシュアは言い訳をするように、言葉をつむぎ始める。

「……変わってるんだよ、こいつは」

「変わってる?」

「昔の俺に、友達になろうとか言って手を差しべてくる人間といえば分かりやすいか」

 昔のヨシュア、というと……周りからあまりよく思われてなかったころだろうか。

 クラウスさんに、私のような事情があれば分からなくもないけど、そんな様子は見受けられない。

 周囲からきらわれていたヨシュアに、あえて手を差し伸べる理由は一見するとないようにも思える。確かに、私もヨシュアの立場であれば、少しだけ「変わってる」と言っていたかもしれない。

「仕方がないじゃないか。僕は嫌いなんだよ。あの頭でっかち共が」

「貴族しよこうに対しても、この言い草だ」

 ほら、変わってるだろ?

 自分達と違って、ちゃんとした王子なのに、こんな発言をするんだよ、こいつは。

 呆れ返るヨシュアの気持ちも、今ならよく分かる。ずっと王城で過ごしていた私だからこそ、その考え方は変わってると言わずにいられなかった。

「ぶっちゃけ、政務は別に構わないんだけど、話が通じない貴族のじじい共とのやり取りがものすっごく、ストレスまるんだよ……! あいつら人の話聞く気ないし……!」

「でも、陛下は上手うまくやってただろ。上に立つ人間は、どんな人間だろうと上手くあつかわなきゃいけないと言ってな」

「僕には無理」

 すがすがしいまでの一刀両断。

 改善の余地はどこにも見当たらない程、諦め切った一言であった。

「そういえば、ノーズレッドの国王様ってどんな方なの?」

 王都に出向くついでに、王家の人間に顔見せをするともヨシュアは言っていた。

 とすれば、国王様と顔を合わせる機会があるかもしれない。いな、一応元王女という私の立場を考えれば、顔を合わせる可能性はきわめて高いものだと思う。

へんけんがないさっぱりした人だな」

 するりとヨシュアの口から言葉が出てきた。

「良く言えば、全員に平等。悪く言えば、身内びいをしてくれない石頭だよ」

「……両方美徳じゃないです?」

「……実のむすである僕にくらい、身内贔屓して欲しいんだよ。特に、政務とか政務とか政務とか」

 続くように聞こえてきたクラウスさんの言葉は、えん百パーセントの感想であった。

 偏見に満ち満ちていた。

「でも、心配せずともあの陛下のことだ。メルトさんのことは気に入ると思うよ」

 私の実の父であり、ウェルグ王国の国王様は、救いようがない悪い人、というわけではないのだけど、私にとってはあまり良い父ではなかった。

 ……だからこそ、義母や姉達から嫌がらせを受けていたのだけれど。

 そのイメージが先行しているせいか、少しだけ、クラウスさんの言葉に対して意外に思ってしまう。

「基本的には全員に平等な人なんだけど、政治的な腹のさぐり合いをする機会が多いからか、あの人、裏表のない性格の人が好きだからさ」

 だから、僕の目から見てさっぱりした性格の君のことは、陛下的に好ましいものだと思う。

 そう告げられて、少しだけあんして、きんちようが心なしかほぐれたような気がした。

 それどころか、ヨシュアも気を許しているようにも思えるその国王様に会ってみたいという気持ちがふくれ上がった。

「ところで、話は変わるんだが」

「?」

 ふところに手をっ込み、ゴソゴソとヨシュアは何やら一枚の手紙のようなものを取り出す。

 どうしたのだろうか、と思っていた私だけど、取り出されたそのとくちよう的なふうろうをされた手紙には見覚えしかなくて、変なあせが背中をらす。

 もしかすると、顔も引きっちゃってるかもしれない。

 その手紙は、ヨシュアとクラウスさんが私の部屋を訪ねて来た際に丁度、片付けていた手紙と同じ差出人だった。

「また届いてたぞ、手紙」

 差し出される。

 そのせいで、少しだけ気まずい空気が場に降りた。ヨシュアは、私あてに手紙が大量に届いていることを知ってるし、それに対して返事をしていないことも知っている。

「実家が好きじゃないことは百も承知だが、流石さすがにそろそろ返事の一つくらいしておいた方が良いんじゃないか? これだけ手紙が来るんだ。重要なことかもしれないだろ」

「……う、うむむ」

 一理ある。

 どころか、あり過ぎる。

 くさい物にふたをする理論で見ないふりをかんこうしていたのだけれど、流石にそれも限界であったらしい。

「た、確かに、これだけ手紙が送られてくるということは重要なことなのかもしれない」

 しかも、ヨシュアのその言葉にはちょっとした心当たりもあった。

 初めの頃は、あの手紙は義母や姉達から届けられていたんだけど、ある日とつぜん、差出人が城勤めをしているしつ長の名前に変わっていた。

 けれど、執事長も私が特別親しくしていた人間でもない上、義母や姉達に頭が上がらない人だったからあまり気に留めていなかったのだけれど、

「ま、試しに一回くらい見ておいた方が良いんじゃない? ろくでもないことなら、次からは絶対に見ないようにすれば良いだけなんだし」

 となりでクラウスさんが言う。

 これが最初で最後。

 そう思って今回は折角なんだし、読んでみとこうよ、と。

「……まぁ、そうですね。じゃあ一回くらいは読んでおきますか」

 赤いふうを外し、私は手紙の中をかくにんする。

 差出人はやっぱり、執事長。

 で、かんじんの中身はというと簡潔に一言でまとめられていた。


『政務の手が回りません。助けて下さい』


 思わず、内容を二度見した。

 でも、何度見直してもその内容が変化することはなく、ただただそれが事実であると現実をたたきつけられるだけだった。

「いや、助けてって言われても」

 私を送り出したの君らじゃん。

 それに、政略けつこんとはいえよめりしちゃったんだからもうアルフェリア公爵家の人間になっちゃった訳で。

 助けてと言われても、私にはどうしようも出来ないと思うんだけど。

 でも、言われてみればここ数年、私が色々と負担してた分を必然、だれかが担当しなくちゃいけない訳で。

 単なる政務だけならば、まだ代わりが見つけやすかっただろうけど、私の政務には〝せいれいじゆつ〟がふくまれている。

〝精霊術〟が使えるのは王家の人間のみというしばりがある以上、代役は王家の人間に限られる。

 とは言っても、あの意地悪姉達がどうにか出来るかと聞かれれば、首をかしげずにはいられない。

 そして事実、ダメだったのだろう。

 だから多分、こんな手紙が私に届けられたんだと思う。

「……助けて下さい?」

 隣に座るヨシュアが、不思議そうに手紙の中身を読みあげる。

「あー、うん。多分、〝精霊術〟がらみで色々と困ってるんだと思う」

 ウェルグに出向いてどうこうは無理にせよ、手紙の返事にこれまでやってきた仕事を、しようさいに書いて返すくらいは出来るけど……。

「……でも、なおに聞く人達じゃないと思うんだけどなあ」

 ただの徒労に終わる気しかしない。

 加えて、執事長がこの内容を送ってきたということは、義母や姉達からの手紙にはうらみ節のようなことが書かれていたのだろうなと容易に予想出来てしまった。

 ……うん。やっぱりあれらは燃やしてしまおう。

「なら、放っておけば良いんじゃない?」

 クラウスさんが言う。

「本当に困ってるなら、向こうが出向いて頭を下げに来るのが最低限のれい。だって、メルトさんはもうアルフェリアの人間なんだから。だからそこの筋を通してない限り放っておいて良いと思うけど」

 結果良ければすべて良し。

 という考え方でいくならば、過程はどうあれ、ヨシュアと引き合わせてくれたことに対する恩返し──ということもやぶさかではなかったのだけど、言われてみればそうだなと思う自分もいた。

 でも、そうしたら少なからずヨシュアにもめいわくかるんじゃないだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る