第29回「2000文字以内でお題に挑戦!」企画(831文字)
彼女のバラ園、彼のバラ園
彼女の家は結構な田舎の民家から離れた場所にあった。
バラを育てるためだった。
肥料も自分で研究していたので周囲に匂いで迷惑を掛けないためだった。
品評会でたまに入賞することもあったので一部の愛好家には名前が知られていた。
金持ちの道楽、彼女の趣味でやっているのだが、種類も数も、有料で公開しているバラ園にも負けていないほどだった。
バラと共に暮らし充実した毎日を送る彼女にも悩みがある。
バラの咲く季節になると来客が増える。
いつもは同じような研究をしているバラ好きの男性一人しか訪ねてこないが、バラが咲く季節になると一気に増える。
彼女のバラ園はついでに立ち寄るような場所ではないので、事前に連絡があるのが救いだ。
彼女もその時期は情報交換、情報収集のためと割り切っているが。
困るのは勝手に来て勝手に帰る人だ。
無断でバラ園に入り、バラを持ち帰る人、要するに泥棒だ。
いつものように訪れた彼に相談して、防犯カメラを取り付けた。
初めは、バラを好きな人に悪い人はいないと付けるのを渋っていた彼女も、彼の「バラではなく金が好きなんだよ」の言葉で決めた。
その後も数年にわたりバラ泥棒がきて、その都度警察に届けたが犯人は捕まらなかった。未だに出かけるときに鍵を掛けない平和な田舎に防犯カメラなど無かった。
ある年のバラが咲く季節に彼女のバラ園に刑事が来た。
バラ泥棒が分かったらしい。
来た刑事の話を聞いて彼女は憤慨した。
「私が犯人を殺したっていうのですか⁉」
「いえ、ただの世間話です。ご遺体を肥料にする国があるっていう」
「でしたら全部調べてください。なんで、うちの子たちを泥棒で育てなきゃいけないんですか」
防犯カメラに映ったバラ園から出ていく泥棒の姿が最後に確認できた姿らしい。
他に防犯カメラがないので行方を追うのが難しいと半分愚痴を言って刑事は帰っていった。
刑事が帰った後も彼女は腹を立てていた。
『泥棒の死体を肥料にするって、私がうちの子たちにそんなひどいことをするわけないじゃない。私は……』
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