【お題】会話を盗み聞きしてゾッとしてください
聞いていなければ喜べたのかもしれない
目が覚めたからのどが渇いていることに気が付いたのか、のどが渇いたから目が覚めたのかは分からないが、麦茶を飲もうと部屋を出て階段を下りる。
廊下の突き当りに台所がある。
ドアが半開きになっている居間から声が聞こえる。居間の手前でつい立ち止まってしまった。
「絶対に戻って来なければならない」
そう言った男の人の強い声に対して女の子の声が何か返しているがはっきりと聞こえない。
男の人の思いがこもりまくった言葉に怖さを感じたが、誰が話をしているのか気になる。
この家に住んでいるのは、おじいちゃん、おばあちゃん、お母さん、私なのだから。来客の予定もない。よく聞こうと一歩踏み出したら廊下がきしんで声が止んでしまった。
仕方ないので何も気付いていない振りして、居間の前を通る。横目で中を見ると、こたつに入りこっちを見ているお父さんとこたつに入りお父さんの方を見て後ろ姿しか見えない女の子と赤とオレンジとピンク色の派手なこたつ布団が目に入った。
女の子が誰だか分からない。見たことのある後ろ姿だが思い出せない。
考えながら冷蔵庫を開けたときに目が覚めた。
見ていた夢を思い出すと、現実と同じところもあれば違うところもある。
間取りは、今住んでいる家。でも、まだこたつ布団は出ていない。そんな季節じゃない。それにこの家で使っているのは、もっと地味な色の物だ。
あの派手なのは前に住んでいたアパートで使っていたものだ。
十一年前、お父さんが病気で亡くなる前に住んでいたアパートで。
小学校に入学する前にお父さんが亡くなったので、この家にお母さんと引越してきたのだ。
昔のことを振り返っていたら、後ろ姿の女の子のことも思い出した。
近所に住んでいたおばあちゃんの友だちの孫娘だ。あの子は二歳上で引っ越してきて友だちのいなかった私の面倒を見てくれた。
でも何年か前にあの子の両親の離婚でお母さんと引越していったそれから会っていない。 なぜ、お父さんとあの子がいたのだろう。何の話だったのだろう。何をしたいのだろう。
考えても分からず、そのまま忘れていった。
冬のある日の夕食後、お母さんがおじいちゃんとおばあちゃんと私に「会ってほしい人がいる」と切り出した。
その相手は、あの子のお父さんだった。
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