第2回「エイル&クロノヒョウコラボ企画」(1402文字)
幻の恋人
振り向くとそこには、
彼は捕まえようと手を伸ばすが、北風に吹かれて有希奈は消えてしまった。
『ああ、ひと月も会っていないから幻覚が見えるようになってしまったのか、電話もメールも無視されるのはつらい。早く仲直りがしたい』
彼は恋人の有希奈はとてもかわいい、大学一かわいいと思っている。女子にはあざといといわれているが、男には人気がある。
彼女は自分の魅力を分かっていた。彼に対して強気だった。
以前、彼女が急にお気に入りのパティシエがいるケーキ屋の期間限定ケーキを食べたいと言い出したことがあった。
彼が買いに行ったときには、すでに売り切れていた。
目当てのケーキがないので機嫌が悪くなったが、彼が変わりに買ったケーキで機嫌が直ったことがあった。
おいしいケーキに救われ、すぐに機嫌が直った珍しい例だ。
スカートのときは大変だったと彼は思い出す。
彼女が好きなブランドのスカートをプレゼントしたことがあった。
だが、紙袋の中身を見て「私の好きな色も知らないのね」と受け取ってもらえなかった。そして機嫌が悪くなった。
彼女が翌日大学にはいてきたスカートは彼が買った物とは色違いだった。別の男のプレゼントだと小耳に挟んだときは、悔しかった。
このときは二週間くらい会えず、有名レストランでのディナーで機嫌を直してもらった。
機嫌が悪くなると彼女は彼と会わなくなった。
しかし彼は自分にだけは取り繕わない姿を見せてくれていると思っていた。そんな彼女をいとしく思っていた。
幻を見た翌日に彼が、彼女を殺した容疑で捕まった。
「まず、夏休みに彼女に会ったときのことを話してくれないか」
彼を担当した刑事たちは困っていた。彼と話が通じないからだ。鑑定が必要になるかもしてないと感じていた。
「さっきも話した通り、彼女と一緒でした。あのときも彼女と仲直りするために苦労しました。ひと月近くも会ってもらえなかったのですから。こうなると食事では仲直りできません。雪を見せるしかないのです」
彼は一息つくと話を続けた。
「彼女は名前に『ゆき』と入っていますので、漢字は違いますが『雪』が好きなのです。だから、実家の庭にある溶け残った雪を見せて仲直りしたんです」
「あなたの実家は都内にある、夏に雪など残っていない。それに、君が彼女と一緒にいたといった日に彼女は友人と旅行に行っていた。友人やホテルに確認している。君と彼女が付き合っていたと証言する人は一人もいなかった」
「違う違う違う! 僕は彼女の恋人だ。嫉妬した男がデタラメを言ってるんだ。デタラメだ。デタラメだ。デタラメ、デタラメ」
彼が繰り返す言葉を遮り、質問を続ける。
「夏に彼女の機嫌が直ったのは、高級ブランドのバッグをプレゼントしたからじゃないのか。今回もブランド物をプレゼントしたが、受け取るだけで彼女の態度は変わらなかった。それに腹を立てて殺したんじゃないのか」
「僕がそんなことするはずないですよ。愛してますから。今回なかなか仲直りができないのは、雪を見せられないからです。会えないのはつらいけど、僕のせいじゃありません。雪を見せるといえば会えます。すぐに仲直りできます。雪が降らないのが悪いのです。雪のせいです」
彼は自分を信じない刑事にいら立った。
「雪が降らないのは僕のせいじゃない、僕のせいじゃ。彼女に会えないのは雪が降らないからだ。雪のせいだ、雪の。答えは簡単なんだ。この冬の残暑は酷かった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます