偽教授恵雨杯(530文字)

 精霊の加護

 百年ぶりに雨が降った。

 百年ぶりに雨が降った。百年ぶりに雨が降った。

 精霊たちが騒いでいた。


 精霊たちが騒いだのは、八十歳と三か月の男に死期が近づいていた時だった。

 寝たきりで目も見えず耳も遠くなった男にも、精霊の声は聞こえた。そんな時に初めて精霊の声が聞こえた。

 いや、精霊の声は精霊の加護があるこの男にしか聞こえなかったであろう。

 

 水も食料も乏しく、四十歳になる前に人々は弱って死んでいった。

 そんな中で四十歳を過ぎても元気だった男は精霊の加護があると周りの人々に言われていた。

 気まぐれな精霊が男に加護を与えたと。

 だが男は加護をありがたいと思っていなかった。子や孫が自分より先に死んでいくのを見届けないといけないのだから。

 精霊たちの声を聞いて男は初めて精霊の加護に感謝した。

 雨が降れば食料も増える。ひ孫やその先の世代は食べ物に困ることが無くなるだろう。

 男には本で得た知識でしかなかった様々な料理がテーブルに乗り、それらを食べるひ孫たちを想像していた。

 男は憂いなく死んでいった。

 微笑みを浮かべた死に顔を見て葬儀に来た人たちは、精霊の加護にあやかりたいと他の人の葬儀の時よりも長く拝んでいた。

 

 気まぐれな精霊の加護。

 気まぐれな精霊のうそ


 いつもと同じ雲一つない青空が広がっていた


 


 

 

 


 

 




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