第8回「2000文字以内でお題に挑戦!」企画(935文字)  

 捨てられなかった手紙

 ずっと捨てられなかった手紙がある。

 初めてもらった手紙で「あそぼう」と鉛筆で書かれていたノートの切れ端だ。

 小学二年の時に同じクラスの男の子にもらった。顔は怖いが優しい子だった。

 新学期、新しいクラスになじめなかった私は手紙をきっかけに少しずつ友達を増やしていった。

 名札の裏にそれを入れて、学校にいるときは肌身離ずにいた。

 進級し違うクラスになっても、手紙のおかげで友達を作ることができた。

 中学生になって彼と付き合うようになってから手紙のことを聞いたら、席に座って泣きそうな私が気になったかららしい。

 中学でも手紙に励まされ、友達を作った。

 高校は彼と違ったが、パスケースに手紙を入れて持ち歩いたので寂しくはなかった。

 緊張した時もパスケースを胸に当てると落ち着くことができたし、友人関係のトラブルも乗り越えることができた。

 大学は遠距離になり付き合いは自然消滅したが、手紙はパスケースの中に持ち続けた。

 何かあるとパスケースを胸に当てた。そうすると何とか解決できた。手紙は私に力をくれた。一人で暮らす私の支えになってくれた。

 私は大学卒業後、地元に戻り就職した。彼も地元に戻り就職したとうわさを聞いた。

 就職活動がうまくいったのも手紙のおかげだ。

 就職してからも、パスケースの手紙を持ち続けたおかげで、うまく立ち回ることができた。

 再会したのは、一年近くたってからだ。そしてまた付き合い始め、結婚した。

 結婚は運命だと思った。

 結婚生活はうまくいっていたと思っていたが、わたしがそう思っていただけかもしれない。

 彼の残業が増えたのはいつからだろう。休日出勤をするようになったのは……。

「好きな人ができた」と彼は言ったが、私はその続きの言葉が必要だった。

 好きな人ができたので離婚してほしいのか、好きな人ができても今の生活を壊すことはしないのか。

 私を捨てるのか、否か、はっきりしてほしかった。

 結論を出さないのは優しさではない。

 私に決めさせたいのか。

 彼はこんな人だったのか。

 中途半端な生活が続くことに苛立ちが募る。

 私はパスケースを胸に考えた。

 何日も何日も考えた。

 彼からもらった手紙は今までずっと一緒だったが、彼はそうじゃない。

 手紙は捨てられないが、彼を捨てることはできる。

 生ごみの収集日は月曜日と木曜日だ。

 

 

 


 

 

 

 

 

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