第7回「2000文字以内でお題に挑戦!」(978文字)

虹の向こう側には幸せな世界があるとお母さんは言っていた

 高校二年の夏に私は一人ぼっちになった。

 お父さんが会社で倒れ、亡くなったから。

 小学二年の時にお母さんが交通事故で亡くなってからは、自宅から徒歩十五分の場所にある祖父母の家にお世話になっていた。

 小学校から祖父母の家に戻り、会社帰りのお父さんが迎えに来てくれ自宅に帰った。

 四年生になったころには一人でも大丈夫だからと自宅に帰ろうとしたが、「女の子一人じゃ心配だから」と祖母に泣かれて、自宅に帰るようになったのは中学生になってからだ。


 一人ぼっちとは祖父母に失礼な言い草だと思ったが、やっぱり心細くて、お父さんの形見のライターを持ち歩いた。ライターが私に一番近いから。

 お父さんは昔、タバコを吸っていてブランド品のライターを買って大事に使っていたが、お母さんの妊娠が分かってタバコを止めた。

 ライターひとつで、お父さんとお母さんを思い出せる。心細さが少し減ったような気がした。


 雨上がりに虹を見つけて、お母さんの言葉を思い出したのもライターのお導きかもしれない。

 

「虹の向こう側には幸せな世界があるのよ」


 今までにも虹を見たことはあったが、お母さんの言葉を思い出したことはなかった。

 ライターのお導きだと思うと、自然に虹の方へ向かって歩いていた。

 気が付くと、虹の上を歩いていた。

 夢でも何でもいいからと思いながら進んでいくと自宅の前に着いた。

 訳が分からずにただ立っていると日が暮れかかるころに家の中から声がした。

 家の中、それも玄関にいると気づいてとっさに庭に隠れる。

 隠れてから失敗したと思ったが、玄関から人が出てきているので身動きが取れない。

 玄関から出てきた人たちを見て驚きすぎて声が出なかった。

 お父さんとお母さんと私がいた。

 三人で出掛けたようだ。

 庭にしゃがんだままさっき見た光景を思い返す。

 お父さんとお母さんが生きている世界、虹の向こうの側の世界?

 思わずポケットの中のライターを握りしめる。

 どれくらいの時間がたったのだろうか、三人が帰ってきた。

「おいしかったね」とか「また行こうね」とか楽しそうに言っているのを聞くに、外食をしたようだ。

 自宅の明かりが消え、近所の家の明かりも消えたころやっと立ち上がる。


 ココハ シアワセナ セカイ


 お父さんとお母さんと私が仲良く暮らす世界。

 でも認めない。

 幸せなのはこの世界の私であって、私じゃない。

 この世界は偽物だ。

 ライターを取り出し、家に火をつけた。

 

 


 


 

 

 

 

 

 

 

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