第5話 リモートワークはSF
特にトラブルなどは無かったので話はすんなりと進み、後日家庭裁判所から就籍許可が下り、戸籍を発行するための申請書と言っていい「
書類を申請した後は役所の手続きのため数日待って法務局からの連絡待ちとなった。
竜一と咲夜が書類の申請をし家に帰ってきた頃、
「ただいま。竜二、とりあえず書類の申請はしてきたぞ。ところでお前何やってるんだ?」
「あ、コラ! 竜一! 今は入って来るな!」
竜二は部屋に入ろうとした竜一を珍しく強い口調で部屋から追い出そうとする。
「今俺は仕事中なんだ」
「仕事中? パソコンでか? 分かった。じゃあ後でな」
仕事中なら邪魔しちゃ悪いというのは学生の竜一でも分かる。竜一、と呼び捨てにしたのはちょっとだけ気に入らないが竜二の部屋を後にした。
「竜二さん、お子さんですか?」
「まぁ似たようなとこだ。親戚だよ。それより例の件はどうなってる?」
「ああ、あの件ですか。それは……」
部下5人を相手にした竜二の『会議』は続いた。
「咲夜さん、竜二は仕事中だとか言ってたけどプログラマーでもやってるの? パソコンの前にいたけど」
「竜二さんはリモートワークで会社の会議に出席中なの。仕事中だから邪魔しないでね」
「? 『りもーとわーく』? 何だその『りもーとわーく』ってやつは? 聞いたことも無いぞ」
聞きなれない言葉を前にして竜一は彼女に問う。
「竜一君からしたら「パソコン通信」って言えば分かるかな? パソコン同士をオンラインでつなげて離れた人たちと会議ができるようになってるの」
「!! なんだって!? 会議って言ったら普通人が直接集まる必要があるのにそうしなくてもいいのか!? スゲェ! いやぁ30年後の未来はすげーなー! もうそこまで行ってるなんて!」
昨日カーナビに感動したのもつかの間、今度はパソコンの通信技術の進歩にまた驚く。彼にとっては令和の世の中はSFワンダーランドそのものだった。
30年前の「パソコン通信」で通信技術の概念が止まったままだった竜一にとっては想像もつかないようなすさまじい進歩だった。
SFの世界での会議ではたまにバーチャル画像で会議に出席している様子が描写されている時があるが、まさかあれが現実のものとなるとは!
竜一にとってはまさかSFの世界でしかできなかったことが現実でも実際にできるなんて! 大いなる衝撃だった。
「まぁ必要に応じて急に発達した技術だからね。ほんの数年前までここまでリモートワークが徹底されることなんてなかったからね」
「必要に応じて発達した……? 何かあったのか? リモートワークをしなくてはいけない何かがあったのか?」
竜一は咲夜の一言に敏感に反応し、疑問を投げかける。必要に応じて急に発達した技術、と言ったがそれが発達しなくてはいけない何かがあったのだろうか?
彼は考えるが、答えは出ない。
「ええ。とても大きい事があったのよ。竜一君のご両親にも関わることだからね」
「オヤジと、母さんに関わる話……?」
咲夜の口から語られるのは世界を襲った
「結論から言うと、竜一君のご両親は新型コロナウイルスという感染症で亡くなったわ」
「!! 感染症で死んだ!? オヤジと母さんが!?」
唐突な告白に竜一は驚きを隠せなかった。いや、正確に言えば驚きはしたが何かしらの理由で両親は死んだというのはうすうす気づいていた。
実家なのに両親がいない。かといって聞きかじった話ではそれほど裕福でもなく、別荘を持てる程の財力もなければ老人ホームに入所して離れて暮らしている様子もない。竜二夫妻も両親と何かしらのやり取りをしている様子は見られなかった。となると……何かで死んだとは予想はついていた。
この後竜一は弟夫婦の口から「パンデミックSFが現実に起きた」事を伝えられることになる。
【次回予告】
竜一の父親と母親が新型コロナウイルスで亡くなった。
その知らせをきっかけとして、パンデミックSFで書かれていたことが本当になったことを彼は弟から伝えられた。
第6話 「パンデミックSFが現実に!?」
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