第6話 パンデミックSFが現実に!?
リモート会議を終え、
「さっきは悪かったな兄貴。ちょっと仕事中だったもんで……そうだ、兄貴にもコロナウイルスのワクチンを受けさせないとな」
「コロナウイルス? 何それ?」
「あーそうか。兄貴はコロナ知らないもんなー。せっかくの機会だし教えるよ。
「俺のオヤジと母さんが死んだって所だよ」
「そうか……じゃあその続きだな」
竜二は目の前の兄にコロナウイルスについて簡単に教えることにした。
「新型コロナウイルスって言う新種のウイルスが2020年から
日本でも……確か大体3万人前後は死んでいると思う。ワクチンの普及でようやく沈静化したんだ」
「へー。パンデミックSFが現実に起こったんだなー。す……」
「言っとくが「スゲェ!」とか言うなよ。さっきも言ったけど世界で何百万って人が死んだし、その何倍何十倍もの人が今でも後遺症で苦しんでるんだからな。それに……」
竜二は兄の癖を見抜いていて「スゲェ!」と言う前に釘を刺しておく。と同時に顔が暗くなっていく。
「それに……?」
「それに、咲夜からも聞いたそうだがオヤジも母さんもコロナで死んだんだ」
「……それは咲夜さんから聞いている。そのコロナウイルスとかいう感染症で死んだそうだな?」
実家に両親がいない事と、彼らが家を離れる特別な理由があるとは思えない点から竜一は両親は何かしらの理由で死んでいたというのは薄々とは気づいていたのだ。
「2人とも感染が広まり始めた初期に罹って、病院に隔離されて治療を受けたけど結局死んじまったんだ。早期に隔離されたから俺たちや
「そうか……ところで後遺症って?」
竜一は無理やり話題をずらすため、さっき出てきた「後遺症」の話を切り出す。
「ああ。舌がやられて味覚が無くなったり、肺がやられて息苦しさを感じたり、髪の毛が脱毛したりとコロナが治った後でも苦しんでる人が山ほどいるんだ。
それの治療法は今も模索中でまだ確立されてなくて、下手したら一生治らないってこともありうるんだ。だからみんなコロナを恐れてる」
「……そんな事があったのか。パンデミックSFよりも非情だな。後遺症があるって所が妙に生々しいなー」
「昔はひどかったぜ? イベルメクチンって言う寄生虫を殺す薬がコロナに効くなんて言われて品薄になったりするのはまだいい方で、
『ワクチンを打つとネットに接続できるようになる』とか『ワクチンを打つと身体が磁力を帯びてスプーンやフォークがくっつくようになる』なんていうとんでもないデマも流れたんだ。
はっきり言ってどんなにトンデモなパンデミックSFでもボツな内容だぜ?」
「!? ネットに接続!? 磁力を帯びる!? 何だそれアメコミ(アメリカのマンガ)の
ネットに接続、磁力を帯びる……弟の言う通り、どれだけ超展開なパンデミックSFでも「もう少しマトモな物にしましょうよ」と編集からボツを食らいそうな内容だ。あまりにも現実的ではなく、読者が誰もついてこれない怪電波を出力するような小説や漫画になってしまうだろう。
「そういうわけだ。今からワクチンの予約をとるから明日病院に行ってくれ。ここ数日バタバタしてるけど大事な事なんで我慢してくれ」
「まぁ仕方ないな。急に30年後の未来にやってきたようなもんだし。にしても結構いろんなことが起こったんだな。まさかパンデミックSFが現実に起きるとは思ってなかったぜ」
「そうだな。パンデミックSFではこんなことする馬鹿なんていねぇよって思ってたけど、実際に起きたら同じ行動やそれ以上にひどい事をする奴が出たんで
「本は間違ってなかった」ってのが証明されてたよな。あれは意外だった」
「へぇ。SF作家には先見の明があったってわけか」
ほとんどは竜一が推すので仕方なくSFものを読んでいたため、全く読まない人間よりはSFに詳しい竜二は兄にそう告げる。
パンデミックSFが現実に起きたというのは竜一にとって非常に衝撃的で、特に後遺症があるのがSFと比べて容赦のない部分だと感じていた。
ちなみに竜一は竜二から両親に関する話を聞いたその日のうちに予約は取れて、翌日無事にワクチン接種を受けることができた。
【次回予告】
ワクチンを打った翌日。熱とだるさが出て寝込んでいた竜一だったが、
その2つが吹っ飛んでしまうほど衝撃的な事に出会う。また1つSFの世界が現実のものとなった。
第7話 「お掃除ロボットはSF」
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