5年前の悲劇


 んん、とヨシュアが小さく咳払いをする。

 ユーグレン王太子とのことは、どうやら本人、触れてほしくないところらしい。

 あからさまに話題を変えてきた。


「オデット、君を誘拐したフォーセット侯爵家はもうないんだ。……5年前、事件があってね。一族に邪悪な魔力使いが出て、一族の者を皆殺しにしてしまった」


 紅茶のカップをソーサーに戻しながら、ヨシュアが説明してくれた。


 5年前、何百年も前に滅んだはずのロットハーナという前王家の末裔がこの国に襲来して、偉大な大王の称号持ちだった先々王ヴァシレウスを殺害するという未曾有の大事件が起きた。

 その前王家ロットハーナ一族の末裔は、邪悪な錬金術師だった。

 人間を素材に使って黄金に変える邪法の使い手で、引退していた高齢のヴァシレウス大王を襲撃して彼を金塊に変えてしまったのだという。


 この邪悪な錬金術師は二人いて、ひとりは国外からの留学生だったそうだ。


 そしてもうひとりが、オデットを奴隷商に売り飛ばしたフォーセット侯爵家出身の貴族夫人だったという。

 こちらの夫人のほうが、何を考えたものか自分の家族を含む一族の者を全員、邪法で黄金に変えて豪遊資金として持ち出し逃亡した。

 そして国内の逃亡先で、もうひとりの錬金術師に殺害されたという落ちである。




 そのときロットハーナの末裔相手に戦ったのが、当時の王弟でありヴァシレウス大王が高齢になってから後添えの夫人との間に得た最も若い王族カズンと、目の前のリースト伯爵家の当主ヨシュア。


 そして、オデットが魔法樹脂から解凍されたとき受け止めてくれた、黒い軍服姿の男、王太子ユーグレンだ。

 他にも数人いたようだが、中核はこの三人。


 ちなみに、このとき王弟カズンと当時まだ立太子していなかった王子ユーグレンを守った功績で、ヨシュアは間もなく伯爵から侯爵への陞爵が決まっている。




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